53 / 86
本編
53 俺の真実(国王視点)
しおりを挟む
先代の国王ハインリッヒ・テューダは、テューダ王国史上最多になるほど妾妃がいて、公式に知られている子供だけでも二十人はいた。
《脳筋国家》と揶揄されるテューダ王国は、どの国王の時代でも戦争に明け暮れていたが、ハインリッヒが戦争を仕掛ける理由は、併呑した国の美しい王侯貴族の女性を手に入れるためだと言われていた。
確かに、ハインリッヒは若く美しい女性が好きだが、彼の夢は大陸統一だ。その過程で美しい王侯貴族の女性を手に入れているに過ぎない。
ハインリッヒの最初の王妃は、北の大国、ラズドゥノフ帝国の皇女エレオノールだ。彼女との間に儲けた双子の姉弟、姉はリズメアリ、愛称はリズ。弟はリチャード、愛称はリックだ。
エレオノールが亡くなった十年後、双子が十五歳の時、ハインリッヒは二度目の王妃アリエノールを娶った。アリエノールもラズドゥノフ帝国の皇女でエレオノールの姪、双子の従姉だ。
元々、アリエノール皇女はリック王子に嫁ぐ予定だったが、その優れた戦術で周辺諸国を併呑していくハインリッヒに脅威を抱いた帝国が同盟の証としてアリエノール皇女と政略結婚させたのだ。
テューダ王国は最も優れた王族が次代の王になる。長兄であっても、王妃との子供であっても、確実に王位に就けるとは限らない。
帝国の後押しがあれば、リックが次代の王になれるだろうが、彼らは未来ではなく今現在の脅威を対処したかったらしい。
アリエノール皇女を親子ほど年の離れたハインリッヒの元に嫁がせ、生まれたのが――。
俺は形式上は、前国王ハインリッヒと二度目の王妃アリエノールとの間に生まれた息子だ。
けれど、真実は違う。
リックとリズメアリは、双子の姉弟でありながら……愛し合っていた。俺は双子の姉弟の禁断の交わりの結果生まれてきた不義の子供なのだ。
俺もリズ(娘)とアルバートと同じで胎児の頃からの記憶がある。だから、最初からこの事は知っていた。
妊娠に気づいたリズメアリは世間的には自分が死んだ事にして、こっそりと俺を産み落とした。禁忌の結果であっても、愛する弟の子を葬り去るなど彼女にはできなかったのだ。
王妃アリエノールとリズメアリの出産時期が同じなのをいい事に、リズメアリとリックは、俺とアリエノールの子を取り替えようと画策した。二人によると我が子を日陰の身にするのが耐えられなかったらしい。
アリエノールの子は死産だった。長時間の壮絶なお産で彼女は一時間ほど気絶していた。さらには、彼女の出産に携わったのは、リックの息のかかった者達。アリエノールには、その事実を伏せ、赤ん坊の俺を彼女の子として差し出したのだ。
アリエノールは自分の夫となるはずだったリックを愛していた。だから、息子(だと思っている)の俺に、彼と同じ名前「リチャード」と名付けた。……俺が本当は愛する男の息子だとも知らずに。
俺の真実の父親、形式上は俺の異母兄、ハインリッヒ王の長子であるリックは、王族特有の黒髪紫眼の美丈夫で文武両道、まさに王になるために生まれてきたような人間だった。
何事もなければ、リックこそが次代の国王になるはずだった。
ハインリッヒは、その天才的な戦術と優秀な将軍達のお陰で領土を拡大していた。
けれど、戦争ばかりする国の国民に安らぎなどない。息子を夫を父親を徴兵され、戦争で失う国民の嘆きや不満も高まっていた。
「テューダ王国は充分強大な国になりました。戦争で国民は疲弊しています。国内に目を向けるべきだ」
戦争で疲弊する国民の姿に、そう進言したリックだが国王の不興を買ってしまった。
ハインリッヒは根っからの武人だ。歴代の王がそうであるように、彼もまた文ではなく武で国を治める人間だった。生涯を戦いの中で生きると決めた彼にとって長男の進言は煩わしいものでしかなかった。
拗れた親子関係は、最後には父王が息子に刺客を送るまでになった。
王になる王族以外、殺されてしまうテューダ王国王家。
そのため、父王からだけでなく弟妹からも常に命を狙われていた。
だのに、リックは送られてくる刺客に対処するだけで、彼らの雇い主である父王や弟妹を殺そうとはしなかった。
人として最大の禁忌を犯したくせに、なぜ、肉親を殺すのをためらうのか、俺には理解できない。
元々、リックは、リズやシーモア伯爵が望むようにテューダ王国の改革を願っていた。
父親や弟妹を殺して王位に就いても意味がないと思ったらしいが、俺に言わせれば「甘い」としか言い様がない。
改革には力が必要だ。そのためには、王になるしかない。
兄弟姉妹を殺さずに王に就きたいという願いと矛盾していようと、今はまず邪魔な父親と弟妹を「始末」すべきだのに――。
《脳筋国家》と揶揄されるテューダ王国は、どの国王の時代でも戦争に明け暮れていたが、ハインリッヒが戦争を仕掛ける理由は、併呑した国の美しい王侯貴族の女性を手に入れるためだと言われていた。
確かに、ハインリッヒは若く美しい女性が好きだが、彼の夢は大陸統一だ。その過程で美しい王侯貴族の女性を手に入れているに過ぎない。
ハインリッヒの最初の王妃は、北の大国、ラズドゥノフ帝国の皇女エレオノールだ。彼女との間に儲けた双子の姉弟、姉はリズメアリ、愛称はリズ。弟はリチャード、愛称はリックだ。
エレオノールが亡くなった十年後、双子が十五歳の時、ハインリッヒは二度目の王妃アリエノールを娶った。アリエノールもラズドゥノフ帝国の皇女でエレオノールの姪、双子の従姉だ。
元々、アリエノール皇女はリック王子に嫁ぐ予定だったが、その優れた戦術で周辺諸国を併呑していくハインリッヒに脅威を抱いた帝国が同盟の証としてアリエノール皇女と政略結婚させたのだ。
テューダ王国は最も優れた王族が次代の王になる。長兄であっても、王妃との子供であっても、確実に王位に就けるとは限らない。
帝国の後押しがあれば、リックが次代の王になれるだろうが、彼らは未来ではなく今現在の脅威を対処したかったらしい。
アリエノール皇女を親子ほど年の離れたハインリッヒの元に嫁がせ、生まれたのが――。
俺は形式上は、前国王ハインリッヒと二度目の王妃アリエノールとの間に生まれた息子だ。
けれど、真実は違う。
リックとリズメアリは、双子の姉弟でありながら……愛し合っていた。俺は双子の姉弟の禁断の交わりの結果生まれてきた不義の子供なのだ。
俺もリズ(娘)とアルバートと同じで胎児の頃からの記憶がある。だから、最初からこの事は知っていた。
妊娠に気づいたリズメアリは世間的には自分が死んだ事にして、こっそりと俺を産み落とした。禁忌の結果であっても、愛する弟の子を葬り去るなど彼女にはできなかったのだ。
王妃アリエノールとリズメアリの出産時期が同じなのをいい事に、リズメアリとリックは、俺とアリエノールの子を取り替えようと画策した。二人によると我が子を日陰の身にするのが耐えられなかったらしい。
アリエノールの子は死産だった。長時間の壮絶なお産で彼女は一時間ほど気絶していた。さらには、彼女の出産に携わったのは、リックの息のかかった者達。アリエノールには、その事実を伏せ、赤ん坊の俺を彼女の子として差し出したのだ。
アリエノールは自分の夫となるはずだったリックを愛していた。だから、息子(だと思っている)の俺に、彼と同じ名前「リチャード」と名付けた。……俺が本当は愛する男の息子だとも知らずに。
俺の真実の父親、形式上は俺の異母兄、ハインリッヒ王の長子であるリックは、王族特有の黒髪紫眼の美丈夫で文武両道、まさに王になるために生まれてきたような人間だった。
何事もなければ、リックこそが次代の国王になるはずだった。
ハインリッヒは、その天才的な戦術と優秀な将軍達のお陰で領土を拡大していた。
けれど、戦争ばかりする国の国民に安らぎなどない。息子を夫を父親を徴兵され、戦争で失う国民の嘆きや不満も高まっていた。
「テューダ王国は充分強大な国になりました。戦争で国民は疲弊しています。国内に目を向けるべきだ」
戦争で疲弊する国民の姿に、そう進言したリックだが国王の不興を買ってしまった。
ハインリッヒは根っからの武人だ。歴代の王がそうであるように、彼もまた文ではなく武で国を治める人間だった。生涯を戦いの中で生きると決めた彼にとって長男の進言は煩わしいものでしかなかった。
拗れた親子関係は、最後には父王が息子に刺客を送るまでになった。
王になる王族以外、殺されてしまうテューダ王国王家。
そのため、父王からだけでなく弟妹からも常に命を狙われていた。
だのに、リックは送られてくる刺客に対処するだけで、彼らの雇い主である父王や弟妹を殺そうとはしなかった。
人として最大の禁忌を犯したくせに、なぜ、肉親を殺すのをためらうのか、俺には理解できない。
元々、リックは、リズやシーモア伯爵が望むようにテューダ王国の改革を願っていた。
父親や弟妹を殺して王位に就いても意味がないと思ったらしいが、俺に言わせれば「甘い」としか言い様がない。
改革には力が必要だ。そのためには、王になるしかない。
兄弟姉妹を殺さずに王に就きたいという願いと矛盾していようと、今はまず邪魔な父親と弟妹を「始末」すべきだのに――。
0
お気に入りに追加
175
あなたにおすすめの小説
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる