20 / 86
本編
20 結婚に愛を求めている
しおりを挟む
「……いえ、おもしろいとすら思っていないでしょう。あなたには、『どうでもいい』事ですものね」
私の必死な様子を楽しんだり嘲笑うなら、まだ私に少しでも関心がある証拠だ。アーサーには、そんな気持ちすらないだろう。
「……私が馬鹿だった」
最後だから楽しい思い出を作りたいなどと思いながら本当は何かが変わるのを期待していたのだ。
本音で話す事で彼が少しでも私に好意を持ってくれればと期待した。そうなれば、私が望む相愛の夫婦になれるかもしれない。そうすれば、きっと女王の重責にも耐えられると。
……アルバートやエリックの言う通り、私自身として話さなければ意味がなかったのに。
いや、私自身として向き合ったとしても結果は変わらなかった。
アーサーは誰も愛せないのだから。
「……最後だから言っておくわ」
絶対に言ってやらないと決めていた。
けれど、もうこれで会うのが最後なら心の片隅にでも憶えていてほしい。
私という婚約者がいた事を。私が彼を愛していた事を。
「最後?」
怪訝そうなアーサーに構わず私は言った。
「……あなたを愛しているわ。あなたにとっては、どうでもいい事だろうけれど、その優れた記憶力で生涯憶えておいてね」
それだけ言って、私はアーサーに背を向けて歩き出そうとした。
「……好き放題言って、妙な誤解をして去るのは、やめてください」
いつの間にか傍に来たアーサーに再び腕を掴まれた。
「放して。もう話す事はないわ」
「私にはあるんです」
「聞きたくない」
聞いたところで何も変わらない。
「それでも聞いていただきます」
力で敵わないのは分かっているが(……それ以外でも敵わないけど)私はアーサーに掴まれた腕を振りほどこうとした。今度はできなかった。さっきは彼が動揺していたからできたのだ。
「王子殿下から伺いましたが、貴女は結婚に愛を求めているのですよね?」
アーサーの言い方は決して私を馬鹿にするものではなかった。
冷静ならば私にも、それくらい分かる。だが、これまでのやり取りで神経過敏になっているのだろう。私はひねくれて解釈してしまった。
「……悪い?」
いろいろと私には理解不能な人間のアーサー、自分でも「人間として何かが欠けている」と言い切る彼だが、これだけは分かる。
彼は義務だけは果たそうとしている。
テューダ王国宰相を代々務めるペンドーン侯爵家に生まれた義務だけは。
そんな彼にとって結婚に愛を求める私など「くだらない」以外のなにものでもないだろう。貴族にとって結婚は義務だ。そこに愛を求めるのが、おかしいのだから。
「だったら、私と結婚しても問題ないでしょう?」
アーサーは国王と同じ言葉を遣ってきた。
「……何、言っているの?」
最近アーサーに対して、こればかり言っているが、この時も本当に彼が何を言っているのか分からなかったのだ。
「貴女が信じなくても私は貴女を愛しているし、貴女も私を愛している。だから」
「ふざけないで!」
アーサーの言葉の途中だったが私は怒鳴りつけた。
私の剣幕に驚いたのか、さすがのアーサーも口を噤んだ。
腕を振りほどこうとしたが今度はできなかった。余計苛立ちが募る。
「私をおとなしくさせるために、そんな嘘を吐くの!? あなたが人間として何かが欠けているのは分かったけど、これはひどいわよ!」
私のこの言い方も充分ひどいと後になって気づいた。この時は自分の事しか考えられなかったのだ。
殴られても仕方ないのにアーサーはそうしなかった。
「……貴女が何に怒っているのか分からないのですが」
アーサーは、いつも通り冷静だった。私の「人間としか何かが欠けている」発言に怒ったり傷ついている様子は全くない。……自分でも「人間として何かが欠けている」と自覚していても、そんな事すら彼には「どうでもいい」のだろう。
「……『何も分かってない』と私に言ったけど、あなたのほうが何も分かってないじゃない」
あれほど頭に上っていた血が急激に下がってきている。……妾妃と彼だけだ。これだけ私の感情を翻弄させられるのは。それだけ二人が私にとって無視できない存在という事なのだ。
「……それについては反論したいですが、長くなるので今はよしましょう」
「……そうね。もうあなたと話すらしたくないわ」
私はこう言っているのに、アーサーは構わない。先程と同義の質問をしてきた。
「なぜ怒ったのか、その理由を知りたいのですが」
私は溜息を吐いた。言わなければ放してもらえそうにない。
「……私が結婚に愛を求めていると知ったから『愛している』などと言い始めたんでしょう? 私をおとなしくさせるために」
「聡明な貴女なら、あのような真似、二度としないでしょう?」
婚約破棄と妊娠発言の事だ。
アーサーの言う通り、二度とする気はない。……したら、私がどんなに泣き叫んでも本当に婚前交渉すると確信できるからだ。何より、国王はアーサー以外の男性を王女の夫だと認めない。だったら、同じ事をしても無駄だ。
それでも、ずっと婚約者に「あなたとは絶対に結婚しない!」などと喚かれれば、さすがのアーサーも、うんざりするだろう。だから、私をおとなしくさせるために「愛している」などと言い始めたのだ。
「……義務感だけで結婚されても嬉しくないのよ」
愛する人と結婚できれば充分幸せだろう。相手の心が手に入らなくても。
愛する男性から恋愛対象として見られないロクサーヌや絶対に結婚できない女性を想っている弟からすれば、私の悩みなど贅沢で我儘なものだろう。
……けれど、私は嫌だ。他人から見れば贅沢で我儘だろうが何をしても愛し返してくれない男性となど結婚したくない。
「……そもそも、それが間違っている」
今度はアーサーが溜息を吐いた。
「何が間違っているのよ?」
アーサーは私を抱き寄せると間近で顔を覗き込んできた。整い過ぎた美貌が迫り私の心臓がどきどきしてきた。
「……義務など、そんなもの、私には」
アーサーの言葉に第三者の声が被さった。
「王女殿下とアーサー・ペンドーン?」
「エリック?」
私がそう言ったのは、その声が、あまりにもエリックに似ていたからだ。
私とアーサーが振り返ると中庭から美丈夫が歩いてきていた。エリックと同じ逞しい長身。簡素な仮面をつけているので、その顔立ちまで彼に酷似しているのが分かる。だが、外灯に煌めく瞳は彼とは違う水色だ。
「エリオット・ラングリッジ?」
エリックの年子の兄でロクサーヌの婚約者だ。
「はい。王女殿下」
私の呟きが聞こえたのだろうエリオットは頷いた。もう仮面も鬘もしていないので私が王女なのは明らかなのだ。
「先程、弟と一緒にいらっしゃいましたよね?」
エリオットの言葉に私は目を瞠った。その時はロクサーヌ曰くの「御大層な変装」をしていた。だのに、王女だと気づいたのか?
エリオットとはパーティーや園遊会などで見かけたり挨拶する程度だ。そんな彼にすら気づかれたのだ。……私の「高慢な王女」の演技同様、「御大層な変装」も簡単に見抜かれるものだったのか。アーサーが「どんな恰好しようと貴女に気づく」と言ったのは、あながち間違いではなかったのだ。
「……成り行きでエリックと一緒に行動したの」
「今、彼は会場にいますよ」
私に続けてアーサーが言った。
アーサーに抱き寄せられたままなのに気づき私は慌てて離れようとしたができなかった。私の腰にまわっている彼の腕に力が入ったのだ。
「放して!」
何とか離れようと抵抗する私に構わずアーサーは私の顎をしゃくった。
間近に再び彼の美貌が迫って息を呑んだ。その圧倒的な美しさとカリスマ性で黙っていても迫力がある彼だ。だが今、私が気圧されているのは、それらが理由ではない。外灯に照らされ間近に迫るアーサーの漆黒の瞳には明らかな不機嫌さや苛立ちがあったのだ。
確かに、今までの言い合いで苛立つ気持ちや不機嫌になる気持ちは分かる。だが、エリオットが現れるまで、アーサーに、そんな様子は微塵もなかった。むしろ、それらを露骨に見せていたのは私のほうだ。彼は、いつも通り冷静に対応していたのに。
(エリオットが現れたから?)
「……そういう事は人目のない所でしてください」
エリオットまで、どういう訳か、不機嫌そうな苛立ったような様子だった。
「あなたが気を利かせて去ればいいだけでしょう?」
私は驚いた。アーサーの言い方がどこか挑戦的だったからだ。誰に対しても常に素っ気ない言い方しかしてこなかったのに。
「なぜ、俺が気を利かせなければならないんだ?」
エリオットより年下とはいえアーサーは侯爵令息で王女の婚約者だ。伯爵令息である彼は上辺だけでも敬意を払わなければならない。それで敬語を遣っていたのだろうが、ついにそれをやめ、これまた挑戦的に言ってきた。
「数多くのご婦人と浮名を流してきたあなただ。婚前交渉した婚約者同士の語らいに割り込むなど野暮な事くらいお分かりでしょう?」
アーサーのほうは変わらず敬語だった。それは、いくら自分のほうが身分が上でも年下だからではなく慇懃無礼に聞こえるように、わざと遣っているようだった。実際、いくら丁寧な言葉遣いでも、どこか皮肉さや尊大さが感じられる口調だったからだ。
普段なら驚いただろう。だが、この時の私は、彼の科白のほうに気を取られた。
「してないわよ!」
私は我慢できず叫んだ。
「噂は嘘だから! こんぜん……そんな事、してないから!」
「婚前交渉」と言いたくなくて私は慌てて「そんな事」と言い直した。
私の頭上でアーサーが溜息を吐いた。
「……婚前交渉してないんですか?」
どこか呆然とした様子でエリオットが呟いた。
私が力一杯頷くと、エリオットはアーサーに呆れたような視線を向け思いがけない発言をした。
「……君、へたれか?」
私は爆笑した。いつの間にか体にまわっていたアーサーの腕が放されている事にも気づかず私は笑い転けていた。
私の必死な様子を楽しんだり嘲笑うなら、まだ私に少しでも関心がある証拠だ。アーサーには、そんな気持ちすらないだろう。
「……私が馬鹿だった」
最後だから楽しい思い出を作りたいなどと思いながら本当は何かが変わるのを期待していたのだ。
本音で話す事で彼が少しでも私に好意を持ってくれればと期待した。そうなれば、私が望む相愛の夫婦になれるかもしれない。そうすれば、きっと女王の重責にも耐えられると。
……アルバートやエリックの言う通り、私自身として話さなければ意味がなかったのに。
いや、私自身として向き合ったとしても結果は変わらなかった。
アーサーは誰も愛せないのだから。
「……最後だから言っておくわ」
絶対に言ってやらないと決めていた。
けれど、もうこれで会うのが最後なら心の片隅にでも憶えていてほしい。
私という婚約者がいた事を。私が彼を愛していた事を。
「最後?」
怪訝そうなアーサーに構わず私は言った。
「……あなたを愛しているわ。あなたにとっては、どうでもいい事だろうけれど、その優れた記憶力で生涯憶えておいてね」
それだけ言って、私はアーサーに背を向けて歩き出そうとした。
「……好き放題言って、妙な誤解をして去るのは、やめてください」
いつの間にか傍に来たアーサーに再び腕を掴まれた。
「放して。もう話す事はないわ」
「私にはあるんです」
「聞きたくない」
聞いたところで何も変わらない。
「それでも聞いていただきます」
力で敵わないのは分かっているが(……それ以外でも敵わないけど)私はアーサーに掴まれた腕を振りほどこうとした。今度はできなかった。さっきは彼が動揺していたからできたのだ。
「王子殿下から伺いましたが、貴女は結婚に愛を求めているのですよね?」
アーサーの言い方は決して私を馬鹿にするものではなかった。
冷静ならば私にも、それくらい分かる。だが、これまでのやり取りで神経過敏になっているのだろう。私はひねくれて解釈してしまった。
「……悪い?」
いろいろと私には理解不能な人間のアーサー、自分でも「人間として何かが欠けている」と言い切る彼だが、これだけは分かる。
彼は義務だけは果たそうとしている。
テューダ王国宰相を代々務めるペンドーン侯爵家に生まれた義務だけは。
そんな彼にとって結婚に愛を求める私など「くだらない」以外のなにものでもないだろう。貴族にとって結婚は義務だ。そこに愛を求めるのが、おかしいのだから。
「だったら、私と結婚しても問題ないでしょう?」
アーサーは国王と同じ言葉を遣ってきた。
「……何、言っているの?」
最近アーサーに対して、こればかり言っているが、この時も本当に彼が何を言っているのか分からなかったのだ。
「貴女が信じなくても私は貴女を愛しているし、貴女も私を愛している。だから」
「ふざけないで!」
アーサーの言葉の途中だったが私は怒鳴りつけた。
私の剣幕に驚いたのか、さすがのアーサーも口を噤んだ。
腕を振りほどこうとしたが今度はできなかった。余計苛立ちが募る。
「私をおとなしくさせるために、そんな嘘を吐くの!? あなたが人間として何かが欠けているのは分かったけど、これはひどいわよ!」
私のこの言い方も充分ひどいと後になって気づいた。この時は自分の事しか考えられなかったのだ。
殴られても仕方ないのにアーサーはそうしなかった。
「……貴女が何に怒っているのか分からないのですが」
アーサーは、いつも通り冷静だった。私の「人間としか何かが欠けている」発言に怒ったり傷ついている様子は全くない。……自分でも「人間として何かが欠けている」と自覚していても、そんな事すら彼には「どうでもいい」のだろう。
「……『何も分かってない』と私に言ったけど、あなたのほうが何も分かってないじゃない」
あれほど頭に上っていた血が急激に下がってきている。……妾妃と彼だけだ。これだけ私の感情を翻弄させられるのは。それだけ二人が私にとって無視できない存在という事なのだ。
「……それについては反論したいですが、長くなるので今はよしましょう」
「……そうね。もうあなたと話すらしたくないわ」
私はこう言っているのに、アーサーは構わない。先程と同義の質問をしてきた。
「なぜ怒ったのか、その理由を知りたいのですが」
私は溜息を吐いた。言わなければ放してもらえそうにない。
「……私が結婚に愛を求めていると知ったから『愛している』などと言い始めたんでしょう? 私をおとなしくさせるために」
「聡明な貴女なら、あのような真似、二度としないでしょう?」
婚約破棄と妊娠発言の事だ。
アーサーの言う通り、二度とする気はない。……したら、私がどんなに泣き叫んでも本当に婚前交渉すると確信できるからだ。何より、国王はアーサー以外の男性を王女の夫だと認めない。だったら、同じ事をしても無駄だ。
それでも、ずっと婚約者に「あなたとは絶対に結婚しない!」などと喚かれれば、さすがのアーサーも、うんざりするだろう。だから、私をおとなしくさせるために「愛している」などと言い始めたのだ。
「……義務感だけで結婚されても嬉しくないのよ」
愛する人と結婚できれば充分幸せだろう。相手の心が手に入らなくても。
愛する男性から恋愛対象として見られないロクサーヌや絶対に結婚できない女性を想っている弟からすれば、私の悩みなど贅沢で我儘なものだろう。
……けれど、私は嫌だ。他人から見れば贅沢で我儘だろうが何をしても愛し返してくれない男性となど結婚したくない。
「……そもそも、それが間違っている」
今度はアーサーが溜息を吐いた。
「何が間違っているのよ?」
アーサーは私を抱き寄せると間近で顔を覗き込んできた。整い過ぎた美貌が迫り私の心臓がどきどきしてきた。
「……義務など、そんなもの、私には」
アーサーの言葉に第三者の声が被さった。
「王女殿下とアーサー・ペンドーン?」
「エリック?」
私がそう言ったのは、その声が、あまりにもエリックに似ていたからだ。
私とアーサーが振り返ると中庭から美丈夫が歩いてきていた。エリックと同じ逞しい長身。簡素な仮面をつけているので、その顔立ちまで彼に酷似しているのが分かる。だが、外灯に煌めく瞳は彼とは違う水色だ。
「エリオット・ラングリッジ?」
エリックの年子の兄でロクサーヌの婚約者だ。
「はい。王女殿下」
私の呟きが聞こえたのだろうエリオットは頷いた。もう仮面も鬘もしていないので私が王女なのは明らかなのだ。
「先程、弟と一緒にいらっしゃいましたよね?」
エリオットの言葉に私は目を瞠った。その時はロクサーヌ曰くの「御大層な変装」をしていた。だのに、王女だと気づいたのか?
エリオットとはパーティーや園遊会などで見かけたり挨拶する程度だ。そんな彼にすら気づかれたのだ。……私の「高慢な王女」の演技同様、「御大層な変装」も簡単に見抜かれるものだったのか。アーサーが「どんな恰好しようと貴女に気づく」と言ったのは、あながち間違いではなかったのだ。
「……成り行きでエリックと一緒に行動したの」
「今、彼は会場にいますよ」
私に続けてアーサーが言った。
アーサーに抱き寄せられたままなのに気づき私は慌てて離れようとしたができなかった。私の腰にまわっている彼の腕に力が入ったのだ。
「放して!」
何とか離れようと抵抗する私に構わずアーサーは私の顎をしゃくった。
間近に再び彼の美貌が迫って息を呑んだ。その圧倒的な美しさとカリスマ性で黙っていても迫力がある彼だ。だが今、私が気圧されているのは、それらが理由ではない。外灯に照らされ間近に迫るアーサーの漆黒の瞳には明らかな不機嫌さや苛立ちがあったのだ。
確かに、今までの言い合いで苛立つ気持ちや不機嫌になる気持ちは分かる。だが、エリオットが現れるまで、アーサーに、そんな様子は微塵もなかった。むしろ、それらを露骨に見せていたのは私のほうだ。彼は、いつも通り冷静に対応していたのに。
(エリオットが現れたから?)
「……そういう事は人目のない所でしてください」
エリオットまで、どういう訳か、不機嫌そうな苛立ったような様子だった。
「あなたが気を利かせて去ればいいだけでしょう?」
私は驚いた。アーサーの言い方がどこか挑戦的だったからだ。誰に対しても常に素っ気ない言い方しかしてこなかったのに。
「なぜ、俺が気を利かせなければならないんだ?」
エリオットより年下とはいえアーサーは侯爵令息で王女の婚約者だ。伯爵令息である彼は上辺だけでも敬意を払わなければならない。それで敬語を遣っていたのだろうが、ついにそれをやめ、これまた挑戦的に言ってきた。
「数多くのご婦人と浮名を流してきたあなただ。婚前交渉した婚約者同士の語らいに割り込むなど野暮な事くらいお分かりでしょう?」
アーサーのほうは変わらず敬語だった。それは、いくら自分のほうが身分が上でも年下だからではなく慇懃無礼に聞こえるように、わざと遣っているようだった。実際、いくら丁寧な言葉遣いでも、どこか皮肉さや尊大さが感じられる口調だったからだ。
普段なら驚いただろう。だが、この時の私は、彼の科白のほうに気を取られた。
「してないわよ!」
私は我慢できず叫んだ。
「噂は嘘だから! こんぜん……そんな事、してないから!」
「婚前交渉」と言いたくなくて私は慌てて「そんな事」と言い直した。
私の頭上でアーサーが溜息を吐いた。
「……婚前交渉してないんですか?」
どこか呆然とした様子でエリオットが呟いた。
私が力一杯頷くと、エリオットはアーサーに呆れたような視線を向け思いがけない発言をした。
「……君、へたれか?」
私は爆笑した。いつの間にか体にまわっていたアーサーの腕が放されている事にも気づかず私は笑い転けていた。
0
お気に入りに追加
175
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
[完結]本当にバカね
シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。
この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。
貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。
入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。
私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。
Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。
政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。
しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。
「承知致しました」
夫は二つ返事で承諾した。
私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…!
貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。
私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――…
※この作品は、他サイトにも投稿しています。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる