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第二部 祐
113 今度こそ人生を謳歌する
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「待て! クズ野郎!」
私は下町を必死に逃げる男を追いかけていた。
私の後ろからレオンとリリも追いかけている。
「レオンは左! リリは右! 回り込んで捕まえるのよ!」
「「了解!」」
レオンとリリは同時に返事をすると下町の入り組んだ道を左右に別れた。
しばらく走ると、左右から回り込んできたレオンとリリが現われた。
これにはぎょっとした男だが構わず突破しようとする。少女だと思って甘く見たのだろう。リリのほうに向かって。
向かってきた男の股間をリリは容赦なく蹴り飛ばした。男は悶絶して、その場に蹲る。
一瞬だけレオンの顔に憐憫が浮かんだ。同じ性を持つ者として、その痛みを慮ってしまったのだろう。この男がしてきた事を考えれば蹴り飛ばすどころか、ちょん切られても当然だと分かっていてもだ。
「よくやったわ! リリ!」
「ありごとうございます。ジョゼ様」
私が手放しで褒めると、リリは今の暴挙からは想像できないそれはそれは愛らしい笑顔を見せた。
その後、連絡してきてもらった同僚達に男を運ばせた。
平民となった私だけでなくアンディとレオンとリリもウジェーヌが経営している会社《アネシドラ》に入れてもらった。わざわざ求職活動をするのが面倒だったし、お祖母様から私の事を頼まれた無駄に人脈とお金があるウジェーヌなら何かと便宜を図ってくれると思ったのだ。
入社の経緯は完全にコネだけど、それからは実力をちゃんと示したので他の社員から不満はでなかったはずだ。たぶん。
《アネシドラ》という会社名で分かるだろうが、前世で双子の姉と創立した秘密結社からとったのだ。そして、実際、表向きは飲食や服飾関連、人材派遣など業種が多岐に渡る会社だが、裏では前世と同じく秘密結社をしている。「法や国家が救えない弱い立場の人達を救う」という「祥子」の信念からだ。
前世で私が壊滅させた秘密結社《アネシドラ》。
今生で再び創立したそこで働く事になるとは、何という運命の皮肉なのだろう。
「たまたま入ったレストランで指名手配中の強姦魔と遭遇するとはね」
来た時と違い、ゆっくりと歩いて戻りながら私の隣でレオンは言った。
「そうね」
私は相槌を打った。
私達が追いかけて捕まえた男は警察が指名手配中の強姦魔だったのだ。
秘密結社《アネシドラ》では警察や探偵が請け負うような事も依頼される。
今回の依頼者は強姦魔の被害者達の家族だ。強姦魔を見つけ次第、自分達の元に生きたまま連れてきてほしいと。
警察に渡す気がないのは彼らの表情で分かった。
私刑するつもりなのだ。
法の裁きでは生温いと思っているからだろう。
強姦魔のせいで自殺した女性もいたし、生きていても心に癒えぬ傷を抱えている女性もいるという。
娘や姉妹がそんな目に遭えば、大抵の人間なら復讐したいと考えるのは当然だ。
だから、《アネシドラ》は引き受けた。
前世で実行部隊員だったし今生でもそれに見合う身体能力があるため今生の秘密結社《アネシドラ》でも危険な任務に就く事が多い。
それでもブルノンヴィル辺境伯として領民の生活や命に責任を負うよりも一実行部隊員として有能な上司の命令に従うほうが、ずっと楽だ。
やはり私は人の上に立つよりも、どんなに過酷でも一兵士としての任務を全うするほうが性に合っていたのだ。
前世とは違い復讐のために生きているのではない。
つい数か月前までのように生まれによる義務や責任のためでもない。
自分のためだけに生きていられる。
今度こそ人生を謳歌する。
私が大切に想い、また私を大切に想ってくれている人達と一緒に。
前世の記憶があろうと、この体で生きられるただ一度の人生を――。
私は下町を必死に逃げる男を追いかけていた。
私の後ろからレオンとリリも追いかけている。
「レオンは左! リリは右! 回り込んで捕まえるのよ!」
「「了解!」」
レオンとリリは同時に返事をすると下町の入り組んだ道を左右に別れた。
しばらく走ると、左右から回り込んできたレオンとリリが現われた。
これにはぎょっとした男だが構わず突破しようとする。少女だと思って甘く見たのだろう。リリのほうに向かって。
向かってきた男の股間をリリは容赦なく蹴り飛ばした。男は悶絶して、その場に蹲る。
一瞬だけレオンの顔に憐憫が浮かんだ。同じ性を持つ者として、その痛みを慮ってしまったのだろう。この男がしてきた事を考えれば蹴り飛ばすどころか、ちょん切られても当然だと分かっていてもだ。
「よくやったわ! リリ!」
「ありごとうございます。ジョゼ様」
私が手放しで褒めると、リリは今の暴挙からは想像できないそれはそれは愛らしい笑顔を見せた。
その後、連絡してきてもらった同僚達に男を運ばせた。
平民となった私だけでなくアンディとレオンとリリもウジェーヌが経営している会社《アネシドラ》に入れてもらった。わざわざ求職活動をするのが面倒だったし、お祖母様から私の事を頼まれた無駄に人脈とお金があるウジェーヌなら何かと便宜を図ってくれると思ったのだ。
入社の経緯は完全にコネだけど、それからは実力をちゃんと示したので他の社員から不満はでなかったはずだ。たぶん。
《アネシドラ》という会社名で分かるだろうが、前世で双子の姉と創立した秘密結社からとったのだ。そして、実際、表向きは飲食や服飾関連、人材派遣など業種が多岐に渡る会社だが、裏では前世と同じく秘密結社をしている。「法や国家が救えない弱い立場の人達を救う」という「祥子」の信念からだ。
前世で私が壊滅させた秘密結社《アネシドラ》。
今生で再び創立したそこで働く事になるとは、何という運命の皮肉なのだろう。
「たまたま入ったレストランで指名手配中の強姦魔と遭遇するとはね」
来た時と違い、ゆっくりと歩いて戻りながら私の隣でレオンは言った。
「そうね」
私は相槌を打った。
私達が追いかけて捕まえた男は警察が指名手配中の強姦魔だったのだ。
秘密結社《アネシドラ》では警察や探偵が請け負うような事も依頼される。
今回の依頼者は強姦魔の被害者達の家族だ。強姦魔を見つけ次第、自分達の元に生きたまま連れてきてほしいと。
警察に渡す気がないのは彼らの表情で分かった。
私刑するつもりなのだ。
法の裁きでは生温いと思っているからだろう。
強姦魔のせいで自殺した女性もいたし、生きていても心に癒えぬ傷を抱えている女性もいるという。
娘や姉妹がそんな目に遭えば、大抵の人間なら復讐したいと考えるのは当然だ。
だから、《アネシドラ》は引き受けた。
前世で実行部隊員だったし今生でもそれに見合う身体能力があるため今生の秘密結社《アネシドラ》でも危険な任務に就く事が多い。
それでもブルノンヴィル辺境伯として領民の生活や命に責任を負うよりも一実行部隊員として有能な上司の命令に従うほうが、ずっと楽だ。
やはり私は人の上に立つよりも、どんなに過酷でも一兵士としての任務を全うするほうが性に合っていたのだ。
前世とは違い復讐のために生きているのではない。
つい数か月前までのように生まれによる義務や責任のためでもない。
自分のためだけに生きていられる。
今度こそ人生を謳歌する。
私が大切に想い、また私を大切に想ってくれている人達と一緒に。
前世の記憶があろうと、この体で生きられるただ一度の人生を――。
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