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第二部 祐
88 お父様がお父様でなくなったらしい
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ジョセフがアレクシスに連れて行かれた翌日。
私の執事や従者や侍女であるアンディやレオンやリリは勿論だが、ジョセフをざまぁする協力者という事でウジェーヌとその家政婦であるロザリーもヴェルディエ侯爵邸に泊らせてもらっている。
この時はまだ最悪な事態が起こっている事を知らなかった私は、昼食後、ヴェルディエ侯爵邸の宛がわれた部屋の応接間でウジェーヌと紅茶を飲んでいた。
壁にはアンディが控えている。ソファに座る事を勧めたが「執事ですから」と断られた。
ジョセフをざまぁするために、ブルノンヴィル辺境伯としての仕事である社交は一昨日全て済ませていた。今日は一日のんびりして明日ブルノンヴィル辺境伯領に帰る予定だ。
ロザリーとリリとレオンには、ブルノンヴィル辺境伯領の領主館の使用人達へのお土産を買いに行ってもらった。
まったりしていた私達は、ノックもせず乱暴に部屋の扉を開けて入って来たアレクシスを見て驚いた。
「宰相閣下?」
その姿は、まぎれもなくラルボーシャン王国の宰相、アレクシス・ヴェルディエ侯爵だ。
けれど、普段他人に見せる穏やかな微笑がないだけで、これだけ印象が変わるとは。
顔からは表情が抜け落ち、ただその青い瞳だけがぎらついていた。
容姿が美しいからか、彼がやばい類の人間だからなのか、心弱い人間ならば裸足で逃げ出すような迫力があった。
けれど、ウジェーヌとアンディと私は前世で秘密結社の総帥とNo.2と実行部隊員だった人間だ。多少の事では動じない。
アンディが警戒心も露にソファに座っている私の前に立った。
「どうなさったのですか? しばらくは、お父様で『遊ぶ』おつもりだったのでしょう?」
ずっとほしかった「おもちゃ」であるお父様を手に入れたのだ。少なくとも一週間は別宅に籠っていると思ったのに。
「……ジョセフに逃げられた」
「はあ!?」
苦虫を噛み潰したように言うアレクシスに対し、私は思いっきり呆れた大声を上げた。
「あんな甘ったれたお坊ちゃんのお父様に逃げられるなんて、何やっているんですか?」
「……あれは、もう『ジョセフ』ではない」
「「転生者か」」
アレクシスのこれだけの言葉でウジェーヌとアンディは理解したようだ
「……転生者」
前世の記憶と人格を持つ人間だ。私、アンディ、ウジェーヌ、レオン、リリがそうだ。
「ジョセフであれば、鍵もなしで手枷から手を抜いて私の首を絞めるなどできやしないからな」
「……手枷って、あんた、お父様に何して……いや、いい。くわしく知りたくない」
アレクシスであれば私に思いつかないようなおぞましい事をしてくれるだろうとジョセフの「ざまぁ」への協力要請したのだ。
アレクシスがジョセフにしただろう事を思えば、貴族の甘ったれたお坊ちゃんである「ジョセフ」の人格が崩壊するのは無理もない。
けれど、そのせいでジョセフとしての今生の人格が消え、彼の前世の人格が目覚めたようだ。
お父様がお父様でなくなったと知っても何とも思わなかった。
私は虐待されてもお父様を慕っていた今生の人格ではないからだ。
だから、この時の私はまだ冷静でいられた。
まさかジョセフの前世の人格が「彼」だとは思いもしなかったからだ。
それを知るのは、三年後――。
今生で「彼」と邂逅する時だ。
私の執事や従者や侍女であるアンディやレオンやリリは勿論だが、ジョセフをざまぁする協力者という事でウジェーヌとその家政婦であるロザリーもヴェルディエ侯爵邸に泊らせてもらっている。
この時はまだ最悪な事態が起こっている事を知らなかった私は、昼食後、ヴェルディエ侯爵邸の宛がわれた部屋の応接間でウジェーヌと紅茶を飲んでいた。
壁にはアンディが控えている。ソファに座る事を勧めたが「執事ですから」と断られた。
ジョセフをざまぁするために、ブルノンヴィル辺境伯としての仕事である社交は一昨日全て済ませていた。今日は一日のんびりして明日ブルノンヴィル辺境伯領に帰る予定だ。
ロザリーとリリとレオンには、ブルノンヴィル辺境伯領の領主館の使用人達へのお土産を買いに行ってもらった。
まったりしていた私達は、ノックもせず乱暴に部屋の扉を開けて入って来たアレクシスを見て驚いた。
「宰相閣下?」
その姿は、まぎれもなくラルボーシャン王国の宰相、アレクシス・ヴェルディエ侯爵だ。
けれど、普段他人に見せる穏やかな微笑がないだけで、これだけ印象が変わるとは。
顔からは表情が抜け落ち、ただその青い瞳だけがぎらついていた。
容姿が美しいからか、彼がやばい類の人間だからなのか、心弱い人間ならば裸足で逃げ出すような迫力があった。
けれど、ウジェーヌとアンディと私は前世で秘密結社の総帥とNo.2と実行部隊員だった人間だ。多少の事では動じない。
アンディが警戒心も露にソファに座っている私の前に立った。
「どうなさったのですか? しばらくは、お父様で『遊ぶ』おつもりだったのでしょう?」
ずっとほしかった「おもちゃ」であるお父様を手に入れたのだ。少なくとも一週間は別宅に籠っていると思ったのに。
「……ジョセフに逃げられた」
「はあ!?」
苦虫を噛み潰したように言うアレクシスに対し、私は思いっきり呆れた大声を上げた。
「あんな甘ったれたお坊ちゃんのお父様に逃げられるなんて、何やっているんですか?」
「……あれは、もう『ジョセフ』ではない」
「「転生者か」」
アレクシスのこれだけの言葉でウジェーヌとアンディは理解したようだ
「……転生者」
前世の記憶と人格を持つ人間だ。私、アンディ、ウジェーヌ、レオン、リリがそうだ。
「ジョセフであれば、鍵もなしで手枷から手を抜いて私の首を絞めるなどできやしないからな」
「……手枷って、あんた、お父様に何して……いや、いい。くわしく知りたくない」
アレクシスであれば私に思いつかないようなおぞましい事をしてくれるだろうとジョセフの「ざまぁ」への協力要請したのだ。
アレクシスがジョセフにしただろう事を思えば、貴族の甘ったれたお坊ちゃんである「ジョセフ」の人格が崩壊するのは無理もない。
けれど、そのせいでジョセフとしての今生の人格が消え、彼の前世の人格が目覚めたようだ。
お父様がお父様でなくなったと知っても何とも思わなかった。
私は虐待されてもお父様を慕っていた今生の人格ではないからだ。
だから、この時の私はまだ冷静でいられた。
まさかジョセフの前世の人格が「彼」だとは思いもしなかったからだ。
それを知るのは、三年後――。
今生で「彼」と邂逅する時だ。
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