あなたを破滅させます。お父様

青葉めいこ

文字の大きさ
上 下
87 / 113
第二部 祐

87 私から俺へ②(?視点)

しおりを挟む
 手枷についた鎖は、それぞれ左右にベッドの柵に繋がれているが、幸い左手が右手に届いた。

「いやだ! やめろ!」

 ジョセフと同じように叫びながら気づかれないように左手で右手の親指の関節を外した。

 痛みはあったが今はそれがありがたい。痛みのお陰で無理矢理与えられるおぞましい快感に溺れずに済むからだ。

 痛みに顔をしかめながら右手を手枷から抜き左手も同じ手順で抜いた。

 両手の親指の関節を元に戻すと、ベルトを外し醜悪なモノを取り出そうとしている男の首に右腕を巻きつけ容赦なく締め上げた。

「なっ!?」

 驚く男が死に物狂いで抵抗するが、も必死で男の首を締め上げた。

 やがて、ぐったりして動かなくなった男から腕を外した。

 気絶させただけで殺してはいない。貴族の甘ったれたお坊ちゃんで大して鍛えてもいないこの体の腕力では絞殺など到底無理だったし、何より簡単に死なせてやる気などない。

 足枷の鍵があるかと男のズボンのポケットを探ると鍵は三本あった。手枷と足枷と牢屋の扉の鍵だろうか?

 試しに鍵の一本を足枷の鍵穴に入れて回すと外れた。

 全ての手枷足枷を外し裸足でベッドから下りた俺は、気絶した男を俺と同じように全裸にし手枷足枷もした。先程までのジョセフと同じ格好だ。

 こんな事で到底気はおさまらないが、俺が逃げる時間稼ぎにはなる。

 脱がせた男の服を手にして躊躇したが、全裸で外に出れば、この世界であっても捕まるだろう。ただでさえ、この体は娘であるブルノンヴィル辺境伯の殺害未遂の犯罪者なのだ。

 ものすごく嫌だったが、仕方なく脱がせた男の下着と靴下以外の衣服を身に着け靴も履いた。この体と体格はさほど変わらないので服も靴もぴったりだ。

 いつまでもこのおぞましい男の服や靴を身に着けているのは嫌なので後で絶対服と靴を替えよう。

 牢屋から出ると扉の前に手にしていた鍵三本を置いた。

 俺にとって幸いな事に、あの男は部下を連れてこなかったが、さすがに宰相であるあの男がいつまでもおぞましい趣味に耽溺するのをよしとしないだろうから、いずれはやって来るだろう。その時に部下が、あの男の手枷足枷を外せるように、ここに鍵を置いておく。

 あの男をこの牢屋で囚われたまま死なせる気などない。

 俺自身が、この体に受けた屈辱を晴らさなければ気がおさまらない。

 牢屋は二つで、ジョセフが囚われていなかった牢屋には拷問道具が取り揃えられていた。……あの男がおぞましい趣味を楽しむためのものなのだろう。

 右に見える階段を上った。どうやら、ここは地下牢だったようだ。

 階段を上りきると扉があったが幸い鍵はされてなかった。あの男が出入りするためだろう。

 外に出ると明け方の澄んだ空気が俺を包んだ。

 この体で俺が初めて見る世界。

 初めて目にし感じさせられたものは、何ともおぞましい、俺のトラウマを思いっきり刺激するものだったが(そのせいで「俺」は目覚めさせられたのだ)、明け方の空は、この世界でも変わらず美しいと思える。

 それでも、この世界がどれだけ美しかろうと、俺は目覚めたくなどなかった。

 その元凶となったあの男を許す気はない。

「俺」を目覚めさせたのは、あの男だけではないのは分かっている。

 あの男も、も、こうなるとは思ってもいなかっただろう。

 特に、あの二人は「俺」が目覚めると知っていたら、絶対にこんな事画策しなかったはずだ。

 けれど、そんな事は、もうどうでもいい。

 目覚めたくなかった俺を目覚めさせたのだ。

 せいぜい俺を楽しませろ。

「吉彦と――」

 俺が唯一恋した女の双子の弟、《マッドサイエンティスト》、武東吉彦。

 今生では、この体のはとこ、ウジェーヌ・アルヴィエ。

「――リリス」

 俺しか口にしなかった「あの子」の呼び名。

 俺が唯一恋した女の曾孫で彼女に酷似した《ローズ》、相原祥子。

「俺」を殺した女。

 そして、俺がこれから生きるこの体の――。

(――「娘」)

 ジョゼフィーヌ・ブルノンヴィル。

 殺された者と殺した者が今生では親子となった。

 それは、どんな運命の悪戯なのか。




 ジョセフ・ブルノンヴィルは、もういない。

 これからこの体で生きるのは、この俺――。

 異世界の秘密結社《アネシドラ》でコードネームは《バーサーカー》。

 武東むとうたすく

 ジョセフ・ブルノンヴィルの前世の人格だ。




 


 



 
















 




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

逆行死神令嬢の二重生活 ~兄(仮)の甘やかしはシスコンではなく溺愛でした~

猪本夜
恋愛
死神業という特殊な職業の後継者である第三皇妃の紗彩(さあや・サーヤ)は、最愛の夫(皇帝)の他の妻(第一皇妃)に殺され、気づいたら時間が逆行して五歳に戻っていた。 前世の最愛の夫に二度と関わらないことを神に約束した紗彩は、現世では恋を諦め、愛のない結婚をすると決めていた。しかし愛のない婚約者から婚約破棄されてしまう。 現世で伯爵令嬢で勤労学生の紗彩は、日本(東京)と異世界で二重生活を送り、仕事に学生に多忙を極める。 複雑な家庭環境だが、兄や兄(仮)に甘やかされ、弟や妹を甘やかしながら、前世とは違う毎日を過ごす内に、恋をしてしまう。 いつのまにか溺愛に順応させられ苦悩する。また人を愛してもいいのだろうか。 愛した人との幸せを願う紗彩に、色んな思惑が錯綜する中、再び死の危険が迫る。そして逆行前に起きた紗彩の死の真相とは。 ――紗彩を最も深く愛したのは誰なのだろうか。 ※ラストまで構想済みですので、完結保証します 溺愛 × ブラコンシスコン × 若干サスペンス風 でお送り致します。 東京などの場所は、全て架空の場所です。 基本は紗彩(主人公)視点、主人公以外の視点は記載しております。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも投稿中

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

処理中です...