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第二部 異世界転生
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フェブルウスが言っていた「嫌がらせ」とは、前世の自分を殺した男の転生である今生の弟の妻を寝取り、その彼女との間に生まれた自分の子の形式上の父親にする事だったのだ。
自分に係わりがなければ、嫌がらせでも何でも勝手にしろと言えるのだけれど。
何でよりによって、前世で誰よりも嫌悪し軽蔑していた男と今生でも親子にならなければいけないのか。それも、彼の嫌がらせの結果、今生の命を与えられたのだ。
しかも、今生の形式上の父親は、前世で私が殺し、私を殺した夫の転生だ。
運命の悪戯というにしても、あまりにもひどい。
形式上は今生の私の父親になったディウエスは、「私」に気づかなかった。
無理もない。
普通は姿形が変わった人間を前世の妻だと気づかない。
姿形が変わっても魂が同じだと気づくのは、相手に対して余程強い想いがあるからこそなのだ。
だから、私は前世の夫の転生に気づかず、前世の父親の転生は姿形が違っても気づいた。
前世の妻だろうと、前世の自分を殺した相手だろうと、今の私がそうであるように、彼も私に対してもう何とも思っていないのだろう。
隠す事でもないが、わざわざ言い触らす事でもないと思ったので前世が「私」だというのは黙っている。
「私」に気づいたのは、意外な人達だった。
一人は、前世と今生の私の父親、エリジウム王国の王太子、フェブルウスだ。
もう一人は、今生の私の祖母、エリジウム王国の王妃、そして、前世の私の母の転生だ。
フェブルウスと王妃は「私」の顔を見にミノス公爵邸を訪ねに来て、一目で「私」に気づいた。
二人は驚愕した顔で同時に同じ言葉を呟いた。
「――美音」と。
後になって、今生は祖母である王妃が前世で死んだ後も幽霊となって前世の私を見守ってくれていたのを知った。転生した今でも前世の娘を慈しんでくれているから「私」に気づいてくれたのだろう。
けれど、フェブルウスが「私」に気づいたのは意外だった。
前世で誰よりも嫌悪し軽蔑していた父親。
これだけ強い感情を彼に対して抱いていた私と違い、彼の「私」に対する想いは、ただ「前世の娘」というものでしかないと思っていたのに。
今生の私の名も「ミオン」になった。
二人が「美音」と呟き、今生の母が「いい名前ですね」と言った事で決まったのだ。
この国では珍しい名前だろうが、中身が「美音」である以上、他の名を付けられても違和感しかなかっただろうから「ミオン」でよかったのかもしれない。
自分に係わりがなければ、嫌がらせでも何でも勝手にしろと言えるのだけれど。
何でよりによって、前世で誰よりも嫌悪し軽蔑していた男と今生でも親子にならなければいけないのか。それも、彼の嫌がらせの結果、今生の命を与えられたのだ。
しかも、今生の形式上の父親は、前世で私が殺し、私を殺した夫の転生だ。
運命の悪戯というにしても、あまりにもひどい。
形式上は今生の私の父親になったディウエスは、「私」に気づかなかった。
無理もない。
普通は姿形が変わった人間を前世の妻だと気づかない。
姿形が変わっても魂が同じだと気づくのは、相手に対して余程強い想いがあるからこそなのだ。
だから、私は前世の夫の転生に気づかず、前世の父親の転生は姿形が違っても気づいた。
前世の妻だろうと、前世の自分を殺した相手だろうと、今の私がそうであるように、彼も私に対してもう何とも思っていないのだろう。
隠す事でもないが、わざわざ言い触らす事でもないと思ったので前世が「私」だというのは黙っている。
「私」に気づいたのは、意外な人達だった。
一人は、前世と今生の私の父親、エリジウム王国の王太子、フェブルウスだ。
もう一人は、今生の私の祖母、エリジウム王国の王妃、そして、前世の私の母の転生だ。
フェブルウスと王妃は「私」の顔を見にミノス公爵邸を訪ねに来て、一目で「私」に気づいた。
二人は驚愕した顔で同時に同じ言葉を呟いた。
「――美音」と。
後になって、今生は祖母である王妃が前世で死んだ後も幽霊となって前世の私を見守ってくれていたのを知った。転生した今でも前世の娘を慈しんでくれているから「私」に気づいてくれたのだろう。
けれど、フェブルウスが「私」に気づいたのは意外だった。
前世で誰よりも嫌悪し軽蔑していた父親。
これだけ強い感情を彼に対して抱いていた私と違い、彼の「私」に対する想いは、ただ「前世の娘」というものでしかないと思っていたのに。
今生の私の名も「ミオン」になった。
二人が「美音」と呟き、今生の母が「いい名前ですね」と言った事で決まったのだ。
この国では珍しい名前だろうが、中身が「美音」である以上、他の名を付けられても違和感しかなかっただろうから「ミオン」でよかったのかもしれない。
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