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第一部 異世界転移
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とある貴族の館で開かれるパーティーで私と知高さんが所属する楽団が演奏する事になった。
そこで、私は一人の男と目が合った。
私の知る「あの男」とは、あまりにも違いすぎる姿だが、どれだけ姿が変わろうと、あの男ならば私には分かる。
目が合った時、彼も驚いた顔をしていたから、まず間違いなく彼には私に関する記憶が、前世の記憶があるのだ。
私が殺した夫の転生といい、どうしてこの世界には会いたくもない人間がいるのかと神様に文句を言いたくなった。まあ、人を殺した事を知られても知高さんと再会できたのだけは感謝しているけれど。
演奏の合間、あの男が中庭に行こうとしているのを見て、隣に座っている知高さんに「少しだけ外に出るわ」とだけ告げると慌ててあの男の後をつけた。
「ちょっと待って!」
パーティー会場から離れた人気のない中庭で、あの男に追いつくと私は声をかけた。
私の声に、彼がゆっくりと振り返った。
この世界に転移してから読んでいる雑誌や新聞で散々見た顔だ。
それなのに、こうして実際に目にするまで「あの男」だと気づかなかった。
現在の年齢は十九歳だが、壮年まで生きた前世の記憶の影響か、老成した雰囲気がある。
外灯に反射する艶やかなプラチナブロンドに縁どられている完璧な美貌。白磁の肌、紫眼、均整の取れた長身。
前世でも今生でも容姿に恵まれているようだ。いや、容姿だけでなく権力や財力にもだが。前世でも今生でも、天は、この男に素晴らしい人格以外の全てを与えたようだ。
「私が誰か分かるわよね?」
私は彼を睨みつけた。
「――お父様」
まさか私が殺した夫の転生だけでなく、この世で一番嫌いで軽蔑していた父親の転生まで私の前に現れるとは思いもしなかった。
「よく『私』が分かったな」
前世とは違うが、今生も耳に心地いい低音で彼は言った。
「分かるわよ」
私は鼻で笑った。
「『あなた』なら、どんなに姿になっても私には分かる」
彼は苦笑した。
「『私』を殺した男も、愛した妻も、『私』が分からなかったのに、誰よりも『私』を嫌悪して軽蔑していた娘だけが『私』に気づくとは何とも皮肉だな」
彼の今の科白は二つ気になる箇所があったが、私は、まず一番気になった箇所を尋ねた。
「……気づいていたの。私が『あなた』をどう思っていたのか?」
私は表面上は父親を敬愛していたように見せていたし、父親だって私の嫌悪や軽蔑に気づくそぶりは欠片もなかったのに。
「私は母や弟と違って、胎児から豊柴康宗の記憶や人格を持っているわけではないんだ」
彼が何を思って、突然そんな事を言い出すのか分からなかったが、その話の行きつく先は、きっと私への答えだと思ったから彼の話を遮らず黙って聞いていた。
「十歳の時だ。剣術の稽古中、転んで頭を打って、それで前世を思い出した」
私が暇潰しで読んでいたネット小説で、ありがちな展開だ。
「豊柴康宗の記憶と今生の人格と記憶が融合して、今の私になったんだ。だから、康宗が気づかなかった事にも私は気づく。康宗の主観だけで前世の記憶を見ている訳ではないからな」
今、私の目の前にいる彼、エリジウム王国王太子フェブルウスの前世は、私の父親、豊柴康宗だ。
けれど、前世が私の夫、今生はフェブルウスの双子の弟、ディウエスとは違い胎児から前世の人格ではなかった。ただ魂が同じで前世の記憶を受け継いだだけの「別人」なのだ。
それでも、「豊柴康宗」だから私は気づいた。
気づかないはずがない。
誰よりも嫌悪し軽蔑していた父親なのだから――。
そこで、私は一人の男と目が合った。
私の知る「あの男」とは、あまりにも違いすぎる姿だが、どれだけ姿が変わろうと、あの男ならば私には分かる。
目が合った時、彼も驚いた顔をしていたから、まず間違いなく彼には私に関する記憶が、前世の記憶があるのだ。
私が殺した夫の転生といい、どうしてこの世界には会いたくもない人間がいるのかと神様に文句を言いたくなった。まあ、人を殺した事を知られても知高さんと再会できたのだけは感謝しているけれど。
演奏の合間、あの男が中庭に行こうとしているのを見て、隣に座っている知高さんに「少しだけ外に出るわ」とだけ告げると慌ててあの男の後をつけた。
「ちょっと待って!」
パーティー会場から離れた人気のない中庭で、あの男に追いつくと私は声をかけた。
私の声に、彼がゆっくりと振り返った。
この世界に転移してから読んでいる雑誌や新聞で散々見た顔だ。
それなのに、こうして実際に目にするまで「あの男」だと気づかなかった。
現在の年齢は十九歳だが、壮年まで生きた前世の記憶の影響か、老成した雰囲気がある。
外灯に反射する艶やかなプラチナブロンドに縁どられている完璧な美貌。白磁の肌、紫眼、均整の取れた長身。
前世でも今生でも容姿に恵まれているようだ。いや、容姿だけでなく権力や財力にもだが。前世でも今生でも、天は、この男に素晴らしい人格以外の全てを与えたようだ。
「私が誰か分かるわよね?」
私は彼を睨みつけた。
「――お父様」
まさか私が殺した夫の転生だけでなく、この世で一番嫌いで軽蔑していた父親の転生まで私の前に現れるとは思いもしなかった。
「よく『私』が分かったな」
前世とは違うが、今生も耳に心地いい低音で彼は言った。
「分かるわよ」
私は鼻で笑った。
「『あなた』なら、どんなに姿になっても私には分かる」
彼は苦笑した。
「『私』を殺した男も、愛した妻も、『私』が分からなかったのに、誰よりも『私』を嫌悪して軽蔑していた娘だけが『私』に気づくとは何とも皮肉だな」
彼の今の科白は二つ気になる箇所があったが、私は、まず一番気になった箇所を尋ねた。
「……気づいていたの。私が『あなた』をどう思っていたのか?」
私は表面上は父親を敬愛していたように見せていたし、父親だって私の嫌悪や軽蔑に気づくそぶりは欠片もなかったのに。
「私は母や弟と違って、胎児から豊柴康宗の記憶や人格を持っているわけではないんだ」
彼が何を思って、突然そんな事を言い出すのか分からなかったが、その話の行きつく先は、きっと私への答えだと思ったから彼の話を遮らず黙って聞いていた。
「十歳の時だ。剣術の稽古中、転んで頭を打って、それで前世を思い出した」
私が暇潰しで読んでいたネット小説で、ありがちな展開だ。
「豊柴康宗の記憶と今生の人格と記憶が融合して、今の私になったんだ。だから、康宗が気づかなかった事にも私は気づく。康宗の主観だけで前世の記憶を見ている訳ではないからな」
今、私の目の前にいる彼、エリジウム王国王太子フェブルウスの前世は、私の父親、豊柴康宗だ。
けれど、前世が私の夫、今生はフェブルウスの双子の弟、ディウエスとは違い胎児から前世の人格ではなかった。ただ魂が同じで前世の記憶を受け継いだだけの「別人」なのだ。
それでも、「豊柴康宗」だから私は気づいた。
気づかないはずがない。
誰よりも嫌悪し軽蔑していた父親なのだから――。
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