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第一部 異世界転移
12(ディウエス視点)
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今生の俺、ディウエス・エリジウム第二王子とアリデラ・ミノス公爵令嬢は政略結婚だ。
いくら王妃である母が俺を生涯幽閉したくても、俺も母も王族である以上、義務からは逃れられない。そのために、幽閉はしても王子として相応しい教育を施してくれたのだ。
元々はアリデラの双子の姉クノディケが俺の婚約者だった。姉で総領娘であるクノディケと結婚し、婿に入る事で第二王子である俺が次代のミノス公爵になるはずだった。
世間では俺の元々の婚約者だったクノディケが結婚一か月前に失踪したため、急遽、婚約者が妹であるアリデラに替わった事になっているが、ミノス公爵家に婿入りした事で俺が知った事実は違う。
クノディケは俺との結婚を厭い自殺しようとしたのだ。俺を幽閉していた母は、王家が正式に決めた婚約者やその家族とすら顔合わせさせなかった。顔を知らないどころか、その為人すら噂されない第二王子と一生を共にする事が不安だったのだろう。
運がいいのか悪いのか、クノディケは、すぐに両親に見つかり命は助かったものの、公爵令嬢としての知識や教養や所作を全て忘れ、日がな一日、ぼんやりしている状態だという。
とても次代の公爵夫人どころか貴族令嬢としてやっていけなくなった娘に、両親はクノディケを領地の領主館に連れ帰り面倒を見ているという。こうなった娘を見捨てないのは、親としての愛情なのだろう。
王子を空位にする訳にはいかないのと、元々、俺がミノス公爵家に婿入りした時点で、ミノス公爵は俺に代替わりする予定もあって、前ミノス公爵が領地に引っ込んでも誰も不思議に思わなかったのは幸いだっただろう。
政略結婚だ。妻が姉から妹に代わろうが、どうでもいい。
それでも、前世の失敗を教訓に今生の妻とは友好な関係を築こうと思っていたのだ。
そう思っていたのに――。
初夜で妻となったアリデラに言われた科白は衝撃だった。
「私、妊娠していますの。あなたが婿に入るのだから跡継ぎは私が産んだ子であれば、父親が誰だろうと構わないでしょう。なので、閨はなしで。私、あの方以外の男性に抱かれたくないので」
罪悪感など欠片もない、にこやかな笑顔で、それとは裏腹な醒めた瞳で、そう言ってきたのだ。
容姿は全く似ていないのに、夫に対する無関心ぶりは美音にそっくりだ。
前世とは違う。女全てが俺に惚れるとは、もう自惚れていない。これが俺の気を引くための演技だとは思わない。
「私がどんなに望んでも、お腹の子の父親とは結婚できないのと、お腹の子の父親として、あなたが最適なのもあって夫にしました」」
王子に対して、ずいぶんと尊大な言い様に怒るよりも笑ってしまった。
「なので、あなたが他の女性と浮気しようと子供を作ろうと文句は言いませんが、愛人への手当や子供の養育費は自分で賄ってください。くれぐれも公爵家のお金に手を付けないで。醜聞と病気には気をつけて遊んでくださいね」
アリデラは夫と友好関係を築こうとは最初から思っていないのだと分かった。ただお腹の子の形式上の父親が必要だから俺と結婚したに過ぎない。
それならそれでもいいと思った。
初夜にああいう宣言をされはしたが、アリデラが俺を蔑ろにする事はなかった。俺の妻として、ミノス公爵夫人として完璧に振舞ってくれている。うまく家政は取り仕切ってくれるし、夜会などでは仲のいい夫婦を演じてくれたからだ。
前世での妻との関係を抜きにしても、政略結婚が当たり前の貴族社会では充分良好な夫婦関係だろう。
それに満足していた俺は、アリデラが産む子にも、その父親にも興味なかった。
アリデラが望んだ通り、ただ彼女が産む子の形式上の父親でありさえすればいいと思っていたのだ。
結婚から七ヶ月後、アリデラは玉のような男の子を産んだ。
その子を見て、俺は驚愕した。
そして、アリデラの息子の父親が誰か分かってしまった。
「お腹の子の父親として、あなたが最適だった」とアリデラが言った意味も。
母親と同じ金髪で藍色の瞳の赤ん坊。
けれど、その顔は――。
あまりにも似ていた。
エリジウム王国王太子、今生の俺の双子の兄、フェブルウスに。
いくら王妃である母が俺を生涯幽閉したくても、俺も母も王族である以上、義務からは逃れられない。そのために、幽閉はしても王子として相応しい教育を施してくれたのだ。
元々はアリデラの双子の姉クノディケが俺の婚約者だった。姉で総領娘であるクノディケと結婚し、婿に入る事で第二王子である俺が次代のミノス公爵になるはずだった。
世間では俺の元々の婚約者だったクノディケが結婚一か月前に失踪したため、急遽、婚約者が妹であるアリデラに替わった事になっているが、ミノス公爵家に婿入りした事で俺が知った事実は違う。
クノディケは俺との結婚を厭い自殺しようとしたのだ。俺を幽閉していた母は、王家が正式に決めた婚約者やその家族とすら顔合わせさせなかった。顔を知らないどころか、その為人すら噂されない第二王子と一生を共にする事が不安だったのだろう。
運がいいのか悪いのか、クノディケは、すぐに両親に見つかり命は助かったものの、公爵令嬢としての知識や教養や所作を全て忘れ、日がな一日、ぼんやりしている状態だという。
とても次代の公爵夫人どころか貴族令嬢としてやっていけなくなった娘に、両親はクノディケを領地の領主館に連れ帰り面倒を見ているという。こうなった娘を見捨てないのは、親としての愛情なのだろう。
王子を空位にする訳にはいかないのと、元々、俺がミノス公爵家に婿入りした時点で、ミノス公爵は俺に代替わりする予定もあって、前ミノス公爵が領地に引っ込んでも誰も不思議に思わなかったのは幸いだっただろう。
政略結婚だ。妻が姉から妹に代わろうが、どうでもいい。
それでも、前世の失敗を教訓に今生の妻とは友好な関係を築こうと思っていたのだ。
そう思っていたのに――。
初夜で妻となったアリデラに言われた科白は衝撃だった。
「私、妊娠していますの。あなたが婿に入るのだから跡継ぎは私が産んだ子であれば、父親が誰だろうと構わないでしょう。なので、閨はなしで。私、あの方以外の男性に抱かれたくないので」
罪悪感など欠片もない、にこやかな笑顔で、それとは裏腹な醒めた瞳で、そう言ってきたのだ。
容姿は全く似ていないのに、夫に対する無関心ぶりは美音にそっくりだ。
前世とは違う。女全てが俺に惚れるとは、もう自惚れていない。これが俺の気を引くための演技だとは思わない。
「私がどんなに望んでも、お腹の子の父親とは結婚できないのと、お腹の子の父親として、あなたが最適なのもあって夫にしました」」
王子に対して、ずいぶんと尊大な言い様に怒るよりも笑ってしまった。
「なので、あなたが他の女性と浮気しようと子供を作ろうと文句は言いませんが、愛人への手当や子供の養育費は自分で賄ってください。くれぐれも公爵家のお金に手を付けないで。醜聞と病気には気をつけて遊んでくださいね」
アリデラは夫と友好関係を築こうとは最初から思っていないのだと分かった。ただお腹の子の形式上の父親が必要だから俺と結婚したに過ぎない。
それならそれでもいいと思った。
初夜にああいう宣言をされはしたが、アリデラが俺を蔑ろにする事はなかった。俺の妻として、ミノス公爵夫人として完璧に振舞ってくれている。うまく家政は取り仕切ってくれるし、夜会などでは仲のいい夫婦を演じてくれたからだ。
前世での妻との関係を抜きにしても、政略結婚が当たり前の貴族社会では充分良好な夫婦関係だろう。
それに満足していた俺は、アリデラが産む子にも、その父親にも興味なかった。
アリデラが望んだ通り、ただ彼女が産む子の形式上の父親でありさえすればいいと思っていたのだ。
結婚から七ヶ月後、アリデラは玉のような男の子を産んだ。
その子を見て、俺は驚愕した。
そして、アリデラの息子の父親が誰か分かってしまった。
「お腹の子の父親として、あなたが最適だった」とアリデラが言った意味も。
母親と同じ金髪で藍色の瞳の赤ん坊。
けれど、その顔は――。
あまりにも似ていた。
エリジウム王国王太子、今生の俺の双子の兄、フェブルウスに。
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