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第一部 異世界転移
10(ディウエス視点)
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前世の俺、豊柴志朗は、愛する妻、美音に殺された。
なぜ、美音が俺を殺すのか、前世の俺は最期まで分からなかった。
俺を殺した時の美音は、人を殺すためらいも興奮も何もない。ただ与えられた仕事を淡々とやる、そんな冷静さがあった。
それでも、俺をめった刺しにし、返り血を浴びる美音は美しかった。
豊柴志朗としての俺は死んだが、前世の記憶と人格を保持したまま異世界に生まれ変わった。
ディウエス・エリジウム。
エリジウム王国の第二王子。
それが今生の俺だ。
対外的に見れば、俺は幸せなのだろう。
王子として生まれ、今生でも容姿や能力にも恵まれた。
けれど、前世同様、家族には恵まれなかった。
前世では養護施設の前に捨てられ天涯孤独だったし、今生では家族はいるが愛されなかった。
父親はエリジウム王国国王ヘイディズ・エリジウム。
母親はエリュシオン帝国の皇女からエリジウム王国の王妃となったパセファニー・エリュシオン・エリジウム(王族や皇族など統治者の一族に限り、結婚しても実家の姓を名乗れるのだ)。
双子の兄はエリジウム王国の王太子フェブルウス。双子とはいっても今生の俺とは全く似ていない。兄は母親似で俺は父親似なのだ。
父と兄は俺に無関心、母は、どういう訳か俺を憎んでいるようなのだ。
胎児から前世の記憶と人格を保持している。だから、生まれた瞬間、赤ん坊だった俺を見た母の驚愕に満ちた顔と悲鳴を憶えている。
生まれてすぐ俺は離宮で幽閉同然に育てられた。
兄である王太子は学園で学ばせているのに、世間では第二王子は病弱だという事にして学園に通わせず、家庭教師に学ばせていた。
前世からの記憶があるし、この体の身体能力も前世同様優れていたようで教師陣から褒められていた。
だが、母は褒めてくれず、それどころか常に俺を否定する言葉のみを投げていた。しかも、それらは俺が美音に言った科白に似ていた。
「勉強はできるけど、人の気持ちは分からないのね」
「そんな事もできないの? 全く使えない子ね」
「何を得意がっているの? 王子なんだから、それくらいできて当然でしょう?」
「まるで美しいだけの人形ね」
母の俺に対する態度に同情し優しくしてくれた使用人達は、即、母が解雇していた。あくまでも仕事として俺に接する人間だけを周囲に残していたのだ。
今生の母の俺への態度から、俺はずっと母こそ美音の生まれ変わりなのだと思い込んでいた。
前世で俺が彼女にした事への仕返しをされているのだと。
俺を殺しても俺への憎しみや怒りはおさまらないでいるのだと。
けれど、この世界に転移してきた美音に会った。
今生の母、パセファニー・エリュシオン・エリジウムは、前世の俺の妻、豊柴美音の生まれ変わりなどではなかったのだ。
では、なぜ、母は、あれだけ俺を嫌悪し虐げていたのか。
母の俺に対する扱いを母が美音の生まれ変わりだと思っていたから耐えてきたが、実は違ったのだと分かった今でも不思議と母に対する怒りや憎しみはない。
母が俺をああ扱わなければ、前世で俺が美音にしていた事が、どれだけ人としてひどい事だったのか自覚できなかったからだ。
前世の俺は俺に惚れて妻になったのなら美音が俺に尽くして当然だと思い込んでいたのだ。
その前提が、そもそも間違っていたのに。美音は俺に惚れてなどいないどころか、関心すらなかったのに。
いや、もし美音が俺に惚れていたとしても、美音が言っていた通り、要求するだけで妻の話を聞こうともしない時点で見限られて当然だったのだ。
なぜ、美音が俺を殺すのか、前世の俺は最期まで分からなかった。
俺を殺した時の美音は、人を殺すためらいも興奮も何もない。ただ与えられた仕事を淡々とやる、そんな冷静さがあった。
それでも、俺をめった刺しにし、返り血を浴びる美音は美しかった。
豊柴志朗としての俺は死んだが、前世の記憶と人格を保持したまま異世界に生まれ変わった。
ディウエス・エリジウム。
エリジウム王国の第二王子。
それが今生の俺だ。
対外的に見れば、俺は幸せなのだろう。
王子として生まれ、今生でも容姿や能力にも恵まれた。
けれど、前世同様、家族には恵まれなかった。
前世では養護施設の前に捨てられ天涯孤独だったし、今生では家族はいるが愛されなかった。
父親はエリジウム王国国王ヘイディズ・エリジウム。
母親はエリュシオン帝国の皇女からエリジウム王国の王妃となったパセファニー・エリュシオン・エリジウム(王族や皇族など統治者の一族に限り、結婚しても実家の姓を名乗れるのだ)。
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父と兄は俺に無関心、母は、どういう訳か俺を憎んでいるようなのだ。
胎児から前世の記憶と人格を保持している。だから、生まれた瞬間、赤ん坊だった俺を見た母の驚愕に満ちた顔と悲鳴を憶えている。
生まれてすぐ俺は離宮で幽閉同然に育てられた。
兄である王太子は学園で学ばせているのに、世間では第二王子は病弱だという事にして学園に通わせず、家庭教師に学ばせていた。
前世からの記憶があるし、この体の身体能力も前世同様優れていたようで教師陣から褒められていた。
だが、母は褒めてくれず、それどころか常に俺を否定する言葉のみを投げていた。しかも、それらは俺が美音に言った科白に似ていた。
「勉強はできるけど、人の気持ちは分からないのね」
「そんな事もできないの? 全く使えない子ね」
「何を得意がっているの? 王子なんだから、それくらいできて当然でしょう?」
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今生の母の俺への態度から、俺はずっと母こそ美音の生まれ変わりなのだと思い込んでいた。
前世で俺が彼女にした事への仕返しをされているのだと。
俺を殺しても俺への憎しみや怒りはおさまらないでいるのだと。
けれど、この世界に転移してきた美音に会った。
今生の母、パセファニー・エリュシオン・エリジウムは、前世の俺の妻、豊柴美音の生まれ変わりなどではなかったのだ。
では、なぜ、母は、あれだけ俺を嫌悪し虐げていたのか。
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母が俺をああ扱わなければ、前世で俺が美音にしていた事が、どれだけ人としてひどい事だったのか自覚できなかったからだ。
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その前提が、そもそも間違っていたのに。美音は俺に惚れてなどいないどころか、関心すらなかったのに。
いや、もし美音が俺に惚れていたとしても、美音が言っていた通り、要求するだけで妻の話を聞こうともしない時点で見限られて当然だったのだ。
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