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第一部 異世界転移
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「君に話さなければいけない事がある。前世では結局言えなかった」
その話を言う前に私に殺されたのだろう。どちらにしろ、私の話を聞かない彼の話など聞く気は毛頭なかったけれど。
「君が俺を殺す少し前に、俺も君の父親、豊柴康宗をこの手で殺した」
無表情で私と彼の話を聞いているだけだった知高さんだが、殺人の告白には、さすがに息を呑んだ。
「……父を殺した?」
呆然と呟く私の様子は、さながらショックを受けたように見えるのだろう。知高さんが気遣うような視線を私に向けているのが分かる。
気遣ってくれる知高さんには申し訳ないが、私がショックを受けている理由は知高さんが想像しているものと違うと思う。
「……ああ。あの男、妻を亡くした財閥の御曹司が君を後妻に望んでいると聞いて俺に離婚しろと迫ってきやがったんだ」
あの父のやりそうな事だ。
いくら目をかけた有能な部下を娘婿にしようと、さらに利益をもたらしそうな男が娘に求婚すれば、そいつを娘の夫に挿げ替えるくらいする。
だが、そんな事はどうでもいい。
私にとって重要なのは――。
「――何て事してくれたのよ」
「……分かってる。俺も人殺しだ。しかも、警察官だのに。君を非難できやしない」
「そんなんじゃない! 私があんたを殺したのは、ひとえに、あの男を苦しめたかったからだのに!」
「は?」
ぽかんとする男の顔に、余計に怒りが募った。
「娘が夫を殺して自殺、加えて愛する妻が自分に何の興味もなかったという日記を読めば、多大なショックを受けるわ。先に、あの男が死んでいたら意味ないじゃない!」
「……俺が憎くて殺したんじゃないのか?」
呆然と呟く男に私は鼻で笑った。
「あんたを憎んでいたら殺したりせず、生涯苦しめるわよ」
死んだら、そこで終わりで苦しめる事もできなくなるのだから。
「……これじゃあ、あんたを殺した意味がないじゃない」
あんな生活を終わらせたいという以上に、あの男を苦しめたいから前世の彼を、夫を殺めたのに。
「……本当に、君にとって俺は、どうでもいい存在だったんだな」
「今更分かったの?」
がっくりと項垂れる彼に私は冷たい視線を向けた。
妻に殺されてもなお、妻が自分を愛しているなどと自惚れているなら本当の馬鹿だ。
「あの男に、君の父親に、娘は俺にべた惚れで結婚したいと強請られたと聞いたんだ」
だから、出会った時から、私に対して上から目線だったのか。
「私が本当に、あんたに惚れていたとしても、理不尽な言動をしていい理由にはならないわよ」
「……そうだな。今なら分かるよ」
「この世で一番嫌いで軽蔑している父親が選んだ夫など愛せるはずがないじゃない。実際、妻を軟禁して強姦するクズ野郎だったし」
「強姦じゃない! あれは夫婦なら当然の営みで」
「私は最初に、性行為と出産は絶対に嫌だと言ったわ。その私の言葉を聞き入れず私を犯したじゃない。警官なら当然知っているでしょう? 夫婦でも強姦罪は適用されるのよ」
「……君にとっては俺との行為は全て強姦だったんだな」
私は黙っていたが、それは肯定だと彼にも分かっているだろう。
「自分の要求を突きつけるだけで、私の要求は聞かなかった。そんな男、愛せるはずないでしょう」
それでも、殺していい理由にはならないのは分かっている。
彼を殺した事に罪悪感や後悔などない。
それでも、人殺しという人としての禁忌を犯した以上は、いつか断罪される覚悟はできている。
その話を言う前に私に殺されたのだろう。どちらにしろ、私の話を聞かない彼の話など聞く気は毛頭なかったけれど。
「君が俺を殺す少し前に、俺も君の父親、豊柴康宗をこの手で殺した」
無表情で私と彼の話を聞いているだけだった知高さんだが、殺人の告白には、さすがに息を呑んだ。
「……父を殺した?」
呆然と呟く私の様子は、さながらショックを受けたように見えるのだろう。知高さんが気遣うような視線を私に向けているのが分かる。
気遣ってくれる知高さんには申し訳ないが、私がショックを受けている理由は知高さんが想像しているものと違うと思う。
「……ああ。あの男、妻を亡くした財閥の御曹司が君を後妻に望んでいると聞いて俺に離婚しろと迫ってきやがったんだ」
あの父のやりそうな事だ。
いくら目をかけた有能な部下を娘婿にしようと、さらに利益をもたらしそうな男が娘に求婚すれば、そいつを娘の夫に挿げ替えるくらいする。
だが、そんな事はどうでもいい。
私にとって重要なのは――。
「――何て事してくれたのよ」
「……分かってる。俺も人殺しだ。しかも、警察官だのに。君を非難できやしない」
「そんなんじゃない! 私があんたを殺したのは、ひとえに、あの男を苦しめたかったからだのに!」
「は?」
ぽかんとする男の顔に、余計に怒りが募った。
「娘が夫を殺して自殺、加えて愛する妻が自分に何の興味もなかったという日記を読めば、多大なショックを受けるわ。先に、あの男が死んでいたら意味ないじゃない!」
「……俺が憎くて殺したんじゃないのか?」
呆然と呟く男に私は鼻で笑った。
「あんたを憎んでいたら殺したりせず、生涯苦しめるわよ」
死んだら、そこで終わりで苦しめる事もできなくなるのだから。
「……これじゃあ、あんたを殺した意味がないじゃない」
あんな生活を終わらせたいという以上に、あの男を苦しめたいから前世の彼を、夫を殺めたのに。
「……本当に、君にとって俺は、どうでもいい存在だったんだな」
「今更分かったの?」
がっくりと項垂れる彼に私は冷たい視線を向けた。
妻に殺されてもなお、妻が自分を愛しているなどと自惚れているなら本当の馬鹿だ。
「あの男に、君の父親に、娘は俺にべた惚れで結婚したいと強請られたと聞いたんだ」
だから、出会った時から、私に対して上から目線だったのか。
「私が本当に、あんたに惚れていたとしても、理不尽な言動をしていい理由にはならないわよ」
「……そうだな。今なら分かるよ」
「この世で一番嫌いで軽蔑している父親が選んだ夫など愛せるはずがないじゃない。実際、妻を軟禁して強姦するクズ野郎だったし」
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私は黙っていたが、それは肯定だと彼にも分かっているだろう。
「自分の要求を突きつけるだけで、私の要求は聞かなかった。そんな男、愛せるはずないでしょう」
それでも、殺していい理由にはならないのは分かっている。
彼を殺した事に罪悪感や後悔などない。
それでも、人殺しという人としての禁忌を犯した以上は、いつか断罪される覚悟はできている。
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