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「姫様、大丈夫ですか?」
朝起きた途端、すごい勢いで化粧室に駆け込みそれ以降出てこないリーヴァに、扉の向こうからグートルーネが心配そうに声をかけた。
「……大丈夫よ」
リーヴァは言葉とは違い青い顔色で、よろよろと化粧室から出てきた。
「そんなお顔で大丈夫ではないでしょう! すぐにお医者様を連れてきます!」
「駄目!」
リーヴァは慌てて部屋から出て行こうとするグートルーネの腕を摑んだ。
「絶対に医者は呼ばないで!」
どこか必死なリーヴァを見ているうちに、グートルーネは却って冷静になったようだ。
「……姫様、私に何か隠していますか?」
探るように自分を見るグートルーネにリーヴァは観念した。生まれた時からの付き合いのこの乳姉妹に隠し事はできない。
リーヴァはベッドに腰掛け立ったままのグートルーネを見上げると衝撃の告白をした。
「……お腹に赤ちゃんがいるの」
グートルーネは、すぐにはリーヴァの言葉を理解できない様子だった。
「……御子の父親は、シグルズ様ですか?」
帝国に来てからリーヴァは竜帝すら破れない防御結界を張って引きこもっている。
それを抜きにしても、番だろうと、国同士が決めた結婚相手だろうと、生理的嫌悪感しか抱けない竜帝と肌を重ねるくらいなら自ら命を絶つくらいする。
番だろうと、リーヴァのお腹の子の父親が竜帝なのはありえない。
だから、考えられるのは、リーヴァと相愛のシグルズだけだ。彼女が他の男の子を妊娠するはずないのだから。
「ええ。お兄様に頼んで結婚式を挙げた後、彼と肌を重ねたわ。帝国で虐げられても彼が迎えにくるまで耐えられるように思い出がほしかったの」
リーヴァは幸せそうな顔で自らのお腹を撫でた。傍目には分からないが、間違いなくこの胎に命が宿っているのを感じとれるのだ。
「……結婚式を挙げていたのですか」
グートルーネの表情は決してリーヴァを責めるものではなく単純に驚いているものだった。
竜帝との結婚は国同士が決めたものだ。だのに、先にシグルズと結婚した上、彼と肌を重ねた。
王女として国と民のために生きていたリーヴァが、いくら結婚相手となる竜帝に生理的嫌悪感しか抱けないとはいえ、そういう行動をとるとは思わなかったのだろう。
「分かっているわ。王女としては決して許されない。でも、竜帝との結婚は、わたくしの我慢の限界を超えたわ。それでも……国王陛下と王妃殿下が少しでも抵抗してくださったのなら、二人の娘として王女の責務を果たすつもりだったのよ」
けれど、二人は、あっさり娘を売った。
「竜帝と結婚するくらいなら、この命を絶つつもりだったわ。そんなわたくしをシグルズがとめてくれたの」
「……伯爵令嬢としてはともかく、私個人としては姫様とシグルズ様の結婚を祝福します。御子が授かった事も喜ばしい事ですわ」
グートルーネは乳姉妹として侍女としてリーヴァをずっと気にかけてくれた。リーヴァとシグルズが政略で決められた婚約でも愛し合っているのも知っている。だから、こう言ってくれるのだろう。
「ありがとう」
リーヴァは微笑むと一転して真面目な顔になった。
「子ができた以上、シグルズが迎えにくるまで待てなくなったわ」
無理矢理連れて来られようと住居を占拠し運ばれてくる食材で調理した。帝国や竜帝に、この一ヶ月お世話になったのは事実だ。
いくら閉じこもって誰にも知られる事はないとはいっても、世間的には番として、竜帝妃として連れて来られたのに、他の男の子を宿した身で、これ以上ここにいる訳にはいかない。
朝起きた途端、すごい勢いで化粧室に駆け込みそれ以降出てこないリーヴァに、扉の向こうからグートルーネが心配そうに声をかけた。
「……大丈夫よ」
リーヴァは言葉とは違い青い顔色で、よろよろと化粧室から出てきた。
「そんなお顔で大丈夫ではないでしょう! すぐにお医者様を連れてきます!」
「駄目!」
リーヴァは慌てて部屋から出て行こうとするグートルーネの腕を摑んだ。
「絶対に医者は呼ばないで!」
どこか必死なリーヴァを見ているうちに、グートルーネは却って冷静になったようだ。
「……姫様、私に何か隠していますか?」
探るように自分を見るグートルーネにリーヴァは観念した。生まれた時からの付き合いのこの乳姉妹に隠し事はできない。
リーヴァはベッドに腰掛け立ったままのグートルーネを見上げると衝撃の告白をした。
「……お腹に赤ちゃんがいるの」
グートルーネは、すぐにはリーヴァの言葉を理解できない様子だった。
「……御子の父親は、シグルズ様ですか?」
帝国に来てからリーヴァは竜帝すら破れない防御結界を張って引きこもっている。
それを抜きにしても、番だろうと、国同士が決めた結婚相手だろうと、生理的嫌悪感しか抱けない竜帝と肌を重ねるくらいなら自ら命を絶つくらいする。
番だろうと、リーヴァのお腹の子の父親が竜帝なのはありえない。
だから、考えられるのは、リーヴァと相愛のシグルズだけだ。彼女が他の男の子を妊娠するはずないのだから。
「ええ。お兄様に頼んで結婚式を挙げた後、彼と肌を重ねたわ。帝国で虐げられても彼が迎えにくるまで耐えられるように思い出がほしかったの」
リーヴァは幸せそうな顔で自らのお腹を撫でた。傍目には分からないが、間違いなくこの胎に命が宿っているのを感じとれるのだ。
「……結婚式を挙げていたのですか」
グートルーネの表情は決してリーヴァを責めるものではなく単純に驚いているものだった。
竜帝との結婚は国同士が決めたものだ。だのに、先にシグルズと結婚した上、彼と肌を重ねた。
王女として国と民のために生きていたリーヴァが、いくら結婚相手となる竜帝に生理的嫌悪感しか抱けないとはいえ、そういう行動をとるとは思わなかったのだろう。
「分かっているわ。王女としては決して許されない。でも、竜帝との結婚は、わたくしの我慢の限界を超えたわ。それでも……国王陛下と王妃殿下が少しでも抵抗してくださったのなら、二人の娘として王女の責務を果たすつもりだったのよ」
けれど、二人は、あっさり娘を売った。
「竜帝と結婚するくらいなら、この命を絶つつもりだったわ。そんなわたくしをシグルズがとめてくれたの」
「……伯爵令嬢としてはともかく、私個人としては姫様とシグルズ様の結婚を祝福します。御子が授かった事も喜ばしい事ですわ」
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「ありがとう」
リーヴァは微笑むと一転して真面目な顔になった。
「子ができた以上、シグルズが迎えにくるまで待てなくなったわ」
無理矢理連れて来られようと住居を占拠し運ばれてくる食材で調理した。帝国や竜帝に、この一ヶ月お世話になったのは事実だ。
いくら閉じこもって誰にも知られる事はないとはいっても、世間的には番として、竜帝妃として連れて来られたのに、他の男の子を宿した身で、これ以上ここにいる訳にはいかない。
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