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18(終)
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「やめて! ウィル! 聡明なあなたなら分かるはずよ。人間にとって不死は苦しみでしかないわ。どうして、そんな事を望むの!?」
「だからだよ」
ウィルの決意を変えさせようと必死に言い募るイレーヌに、彼は静かな眼差しを向けた。
「ウィル?」
「俺が人間として異端になりたいのは、貴女と同じなりたいからじゃない。自分を罰したいからだ。
臣下達は本来守らなくてもいい俺を守って死んだ。だのに、俺は彼らの敵討ちをしないと決めて生きるんだ。だったら、彼らの事を心に刻みつけて永遠を生きるべきだろう。
……これが贖罪になるとは思わない。けれど、俺には他に方法が思いつかないんだ」
「あなたのせいじゃない! あなたには何の罪もないわ!」
そうだ。赤ん坊だった我が子を守れなかったイレーヌとウィルを奪った王妃と国王のせいなのだ。
「あなたが苦しむ必要も、贖罪をする必要もないわ!」
ウィルは何も悪くないのだから――。
「……俺がいくら貴女は何も悪くないと言っても、国と家族を奪ったこいつを愛した罪悪感は消せないんだろう? 俺もそうだよ」
いくらイレーヌが「ウィルは何も悪くない」と言い聞かせても、本当は王太子ではなかった自分を守って死んだ臣下達への罪悪感は消せないのだ。
「……ウィル」
イレーヌは何も言えなくなった。
「本当にいいんだな?」
「ああ。頼む」
セバスチャンの確認に、ウィルは迷うことなく頷いた。
魔刻印を押されたウィルが部屋から出て行くと同時に魔王も消えた。
セバスチャンもイレーヌを連れて、この場から転移しようとしたのだが――。
悲鳴が聞こえた。
「あれ、ドノー?」
修道院長として普段落ちついている彼女に何があったのだろう?
「やっと見つけたようだな」
「見つけた?」
「何を?」とイレーヌが訊く前に、セバスチャンが教えてくれた。
「国王の首をドノーとかいう女の部屋に置いた。あれは私の魔力で何をしても壊れない。どんな遠くに棄てに行っても、あの女の許に戻るようにしておいた」
「は?」
イレーヌは思わず間抜けな声を上げてしまった。
「……何だって、またそんな事を?」
「あの女も、お前から息子を奪った手助けをしただろう」
「……だから、嫌がらせに国王の首をドノーに?」
「それでは足りないか? あの女も首だけで永遠に生かしたほうがよかったか?」
さすが魔族というべきか、セバスチャンは、かなり的外れな事を訊いてきた。
「……そこまでしなくていいわ」
イレーヌは溜息まじりに言った。
息子を自分から奪う手助けをしたドノーの事も、勿論イレーヌは絶対に許さない。
けれど、イレーヌやウィルや国王と同じ身になれと強要する気はない。
許されぬ罪を犯したドノーだが、我が子の望みを叶えたいという思いは、イレーヌにも理解できる。
それに、罪の意識故でも、修道院長として、この修道院でしか生きられないイレーヌのために、いろいろと便宜を図ってもくれた。だからといって、ドノーを許す気は毛頭ないが。
それでも、ドノーに永遠に生きて苦しめと強要する気はない。
「彼女にとって生きる事は苦しみでしかないから」
――罪の意識を抱えたまま生きなさい。死に逃げ込む事は絶対に許さない。
十八年前、自分に懺悔したドノーに向けてイレーヌが言い放った言葉だ。
罪を犯してでも幸せを望んだ王妃は今、生きているか死んでいるか分からない身だ。
その上、ドノーは自らの罪を自覚している。
大切な娘を失い罪の意識に苛まれて生きる事は苦しみでしかない。
だから、死に逃げ込む事は絶対に許さない。
罪の意識に苛まれた者にとって死は安らぎでしかないのだから――。
「……まあ、彼女の寿命には限りがあるから、ずっと国王の首と一緒という訳ではないものね」
国王の首が常に共に在るならドノーが自らの罪を、娘を失った苦しみを、死ぬその瞬間まで忘れる事は絶対にない――。
「連れて行って。私とあなたが二人きりになれる場所へ――」
イレーヌは、これから騒ぎになる、自分を十八年閉じ込めていた修道院から離れるために、永遠を共に生きる恋人となった魔族に、そう言った。
セバスチャンが、すぐさま、その願いを叶えたのはいうまでもない。
「だからだよ」
ウィルの決意を変えさせようと必死に言い募るイレーヌに、彼は静かな眼差しを向けた。
「ウィル?」
「俺が人間として異端になりたいのは、貴女と同じなりたいからじゃない。自分を罰したいからだ。
臣下達は本来守らなくてもいい俺を守って死んだ。だのに、俺は彼らの敵討ちをしないと決めて生きるんだ。だったら、彼らの事を心に刻みつけて永遠を生きるべきだろう。
……これが贖罪になるとは思わない。けれど、俺には他に方法が思いつかないんだ」
「あなたのせいじゃない! あなたには何の罪もないわ!」
そうだ。赤ん坊だった我が子を守れなかったイレーヌとウィルを奪った王妃と国王のせいなのだ。
「あなたが苦しむ必要も、贖罪をする必要もないわ!」
ウィルは何も悪くないのだから――。
「……俺がいくら貴女は何も悪くないと言っても、国と家族を奪ったこいつを愛した罪悪感は消せないんだろう? 俺もそうだよ」
いくらイレーヌが「ウィルは何も悪くない」と言い聞かせても、本当は王太子ではなかった自分を守って死んだ臣下達への罪悪感は消せないのだ。
「……ウィル」
イレーヌは何も言えなくなった。
「本当にいいんだな?」
「ああ。頼む」
セバスチャンの確認に、ウィルは迷うことなく頷いた。
魔刻印を押されたウィルが部屋から出て行くと同時に魔王も消えた。
セバスチャンもイレーヌを連れて、この場から転移しようとしたのだが――。
悲鳴が聞こえた。
「あれ、ドノー?」
修道院長として普段落ちついている彼女に何があったのだろう?
「やっと見つけたようだな」
「見つけた?」
「何を?」とイレーヌが訊く前に、セバスチャンが教えてくれた。
「国王の首をドノーとかいう女の部屋に置いた。あれは私の魔力で何をしても壊れない。どんな遠くに棄てに行っても、あの女の許に戻るようにしておいた」
「は?」
イレーヌは思わず間抜けな声を上げてしまった。
「……何だって、またそんな事を?」
「あの女も、お前から息子を奪った手助けをしただろう」
「……だから、嫌がらせに国王の首をドノーに?」
「それでは足りないか? あの女も首だけで永遠に生かしたほうがよかったか?」
さすが魔族というべきか、セバスチャンは、かなり的外れな事を訊いてきた。
「……そこまでしなくていいわ」
イレーヌは溜息まじりに言った。
息子を自分から奪う手助けをしたドノーの事も、勿論イレーヌは絶対に許さない。
けれど、イレーヌやウィルや国王と同じ身になれと強要する気はない。
許されぬ罪を犯したドノーだが、我が子の望みを叶えたいという思いは、イレーヌにも理解できる。
それに、罪の意識故でも、修道院長として、この修道院でしか生きられないイレーヌのために、いろいろと便宜を図ってもくれた。だからといって、ドノーを許す気は毛頭ないが。
それでも、ドノーに永遠に生きて苦しめと強要する気はない。
「彼女にとって生きる事は苦しみでしかないから」
――罪の意識を抱えたまま生きなさい。死に逃げ込む事は絶対に許さない。
十八年前、自分に懺悔したドノーに向けてイレーヌが言い放った言葉だ。
罪を犯してでも幸せを望んだ王妃は今、生きているか死んでいるか分からない身だ。
その上、ドノーは自らの罪を自覚している。
大切な娘を失い罪の意識に苛まれて生きる事は苦しみでしかない。
だから、死に逃げ込む事は絶対に許さない。
罪の意識に苛まれた者にとって死は安らぎでしかないのだから――。
「……まあ、彼女の寿命には限りがあるから、ずっと国王の首と一緒という訳ではないものね」
国王の首が常に共に在るならドノーが自らの罪を、娘を失った苦しみを、死ぬその瞬間まで忘れる事は絶対にない――。
「連れて行って。私とあなたが二人きりになれる場所へ――」
イレーヌは、これから騒ぎになる、自分を十八年閉じ込めていた修道院から離れるために、永遠を共に生きる恋人となった魔族に、そう言った。
セバスチャンが、すぐさま、その願いを叶えたのはいうまでもない。
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