その程度の愛だったのですね

青葉めいこ

文字の大きさ
上 下
2 / 2

後編(ピーター視点)

しおりを挟む
 ――その程度の愛だったのですね。

 死の床に就いた今、最期のジュリアの言葉を思い出す。

 愛する人がこの世からいなくなっても、生きていける私の愛は、ジュリアにとっては「その程度の愛」だったのだろう。

 結局、妻の自殺を止められなかった。

 どんな言葉も説得も、ジュリアの心に届かないと分かってしまったから。

 無理矢理生かそうとしても、生きる屍状態となり、とても辺境伯の妻としての役割は果たせなかっただろう。

 それくらい、ジュリアにとって愛する人の死は衝撃だったのだ。

 愛する女性が亡くなっても、正気を保ち、生きていける私は、ジュリアにとっては理解不能な生き物だったのだろうか?

 愛した女性だけでなく妻まで失った。

 それを夫である私がどう思うのか、ジュリアは慮ってはくれなかった。

 愛する彼が死んだ後の事など、ジュリアにとっては、もうどうでもよかったのだ。

 ジュリアにとっては、愛する彼こそが全てだった。

 愛する人が亡くなっても生きていける私の愛は、その程度だったのか?

 妻にとっては、そうだった。

 かつて愛していた王太女殿下、フェリヤ。

 今思えば、フェリヤがロイドを夫に望んだ時に、私のこの愛は終わっていたのだ。

 皮肉な事に、愛する人がいないこの世には未練がないと、本当に彼の跡を追ったきみに恋をした。

 あのまま何事もなく夫婦として過ごしたとしても、そこそこ良好な関係は築けても、これほど、この心に君という存在が焼きつく事はなかっただろう。

 ジュリアが自殺した後は、どれだけ周囲に勧められても新たな妻を娶る気にはなれず、親戚から養子を迎えた。

 たった一人だけを愛し続け、自ら死ぬ事で、その想いの強さを証明した苛烈な女。

 あれだけ強いインパクトを残した妻と比べると、他のどんな女も色褪せて見える。

 自ら死ぬ事で、ジュリアは私の心と後の人生を縛ってくれたのだ。

 ジュリアにその気がないのは分かっている。

 ジュリアは、ただロイドを愛して、その跡を追っただけだ。

 それに比べて、「生涯、この愛は変わらない」と言ったくせに、きみに心変わりした私を君は軽蔑するだろうか?

 それでも、生きている間中、君を想っていた。

 私が生きている間は、この愛も生き続けていたのだ。

 これもまた、違う愛の形ではないのか?

 ――愛している。

 ジュリア。

 ようやく君の元に逝ける。
 





 











しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を仕向けた俺は彼女を絶対逃がさない

青葉めいこ
恋愛
「エリザベス・テューダ! 俺は、お前との婚約破棄を宣言する!」 俺に唆された馬鹿な甥は、卒業パーティーで愛する婚約者である彼女、ベスことエリザベス・テューダに指を突きつけると、そう宣言した。 これでようやく俺は前世から欲しかった彼女を手に入れる事ができる――。 「婚約破棄された私は彼に囚われる」の裏話や後日談みたいな話で「婚約破棄された私~」のネタバレがあります。主人公は「婚約破棄された私~」に登場したイヴァンですが彼以外の視点が多いです。 小説家になろうにも投稿しています。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。

黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。 差出人は幼馴染。 手紙には絶縁状と書かれている。 手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。 いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。 そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……? そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。 しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。 どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。

年増令嬢と記憶喪失

くきの助
恋愛
「お前みたいな年増に迫られても気持ち悪いだけなんだよ!」 そう言って思い切りローズを突き飛ばしてきたのは今日夫となったばかりのエリックである。 ちなみにベッドに座っていただけで迫ってはいない。 「吐き気がする!」と言いながら自室の扉を音を立てて開けて出ていった。 年増か‥仕方がない‥‥。 なぜなら彼は5才も年下。加えて付き合いの長い年下の恋人がいるのだから。 次の日事故で頭を強く打ち記憶が混濁したのを記憶喪失と間違われ、ならばとそのまま記憶喪失のフリをしたまま離縁しようと画策するが……

「アイシテル」と話すオウムを家の前で拾ったのですが、落とし主の意図がわかりません

麻宮デコ@ざまぁSS短編
恋愛
家の前に捨てられていたオウムを拾ったリエル。 そのオウムは「アイシテル」という言葉を覚えているが、そのオウムの持ち主にも心当たりがない。 そんなある日、リエルに結婚の申し込みをしてくる男性がいて、しかも親は相手の言う「もうリエルの意思は確認している」というのを信じ、申し出をOKされてしまう。 しかし、リエル本人はなんの話かさっぱり分からない。 外堀を埋められるような状況に困惑していたが、オウムの存在が婚約の申し入れのきっかけだと知って――。 全5話

【完結】重いドレスと小鳥の指輪【短編】

青波鳩子
恋愛
公爵家から王家に嫁いだ第一王子妃に与えられた物は、伝統と格式だった。 名前を失くした第一王子妃は、自分の尊厳を守るために重いドレスを脱ぎ捨てる。 ・荒唐無稽の世界観で書いています ・約19,000字で完結している短編です ・恋は薄味ですが愛はありますのでジャンル「恋愛」にしています ・他のサイトでも投稿しています

たのしい わたしの おそうしき

syarin
恋愛
ふわふわのシフォンと綺羅綺羅のビジュー。 彩りあざやかな花をたくさん。 髪は人生で一番のふわふわにして、綺羅綺羅の小さな髪飾りを沢山付けるの。 きっと、仄昏い水底で、月光浴びて天の川の様に見えるのだわ。 辛い日々が報われたと思った私は、挙式の直後に幸せの絶頂から地獄へと叩き落とされる。 けれど、こんな幸せを知ってしまってから元の辛い日々には戻れない。 だから、私は幸せの内に死ぬことを選んだ。 沢山の花と光る硝子珠を周囲に散らし、自由を満喫して幸せなお葬式を自ら執り行いながら……。 ーーーーーーーーーーーー 物語が始まらなかった物語。 ざまぁもハッピーエンドも無いです。 唐突に書きたくなって(*ノ▽ノ*) こーゆー話が山程あって、その内の幾つかに奇跡が起きて転生令嬢とか、主人公が逞しく乗り越えたり、とかするんだなぁ……と思うような話です(  ̄ー ̄) 19日13時に最終話です。 ホトラン48位((((;゜Д゜)))ありがとうございます*。・+(人*´∀`)+・。*

彼女(ヒロイン)は、バッドエンドが確定している

基本二度寝
恋愛
おそらく彼女(ヒロイン)は記憶持ちだった。 王族が認め、発表した「稀有な能力を覚醒させた」と、『選ばれた平民』。 彼女は侯爵令嬢の婚約者の第二王子と距離が近くなり、噂を立てられるほどになっていた。 しかし、侯爵令嬢はそれに構う余裕はなかった。 侯爵令嬢は、第二王子から急遽開催される夜会に呼び出しを受けた。 とうとう婚約破棄を言い渡されるのだろう。 平民の彼女は第二王子の婚約者から彼を奪いたいのだ。 それが、運命だと信じている。 …穏便に済めば、大事にならないかもしれない。 会場へ向かう馬車の中で侯爵令嬢は息を吐いた。 侯爵令嬢もまた記憶持ちだった。

処理中です...