今、私は幸せなの。ほっといて

青葉めいこ

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 私と奴が婚約者となったのは八歳、それから十年、王妃教育を施された。

 奴は「足を引っ張るなよ」と言い放ったが、むしろ、自分が婚約者わたしより劣っているのを周囲に知らしめている。

 貴族の子弟や富豪や優秀な平民の子供が通う王立学園で張り出される学年ごとのテスト順位で私は王女と共に常に首席、奴は、いつも真ん中あたりをうろうろしている。

 さらには、王子の婚約者として生徒会の仕事や政務を任されているのだが、それらも奴より早く的確に処理するので王子よりも有能だと周囲から賞賛されている。

 それが奴には気に食わなかったのだろう。

 人前でこそ私を尊重した態度だが、二人きり、もしくは取り巻き達と一緒にいる時に「いい気になるな」だとか「女のくせに生意気だ」とか「婚約者なら僕を立てるのが当然だのに、それもできないのか? 気がかない女だな」とか、私からすれば理不尽で負け犬の遠吠えとしか思えない暴言の数々だ。

 悔しいのなら私を貶めるのではなく自分が努力すればいいだけなのに。

 学園内では平等だと言われているが、そんなもの建前だ。無論、教育する手前、学園内では教師に権力を笠に着て命令できないようになっているが。

 生徒の中では王子である自分が一番偉い。だから、気が緩んだのだろう。

 以前は二人きりの時だけだったが、自分の取り巻き達しかいない時にも平気で私に暴言を吐くようになった。

 取り巻き達も、そんな奴を諫めるではなく、にやにやと見ているだけ。時には奴の尻馬に乗って王子の婚約者であり公爵令嬢である私を罵倒する事さえある。

 絶対王政のこの世界で王族相手に失礼な言動はできない。不敬罪になるからだ。だから、奴にどれだけ暴言を吐かれても我慢してやっているが、私よりも身分が下の奴の取り巻き達からの罵倒を我慢する気はないので、後で、きっちり彼らの生家に抗議の手紙を送りつけた。幸い、彼らの親御さん達は、まともだったようで、公爵家や私に謝罪に来た後、息子達は厳しいと評判の国境警備隊に、娘達は、これまた厳しいと評判の修道院に放り込んだようだ。それで性根を入れ替えればいいが、そのままなら廃嫡になるだろう。私の知った事ではないが。

 奴の取り巻き達は高位貴族の令息や令嬢ではない。男爵家や子爵家の令息令嬢、富豪の息子や娘達だ。

 有能な高位貴族の令息令嬢は、軒並み、王家に最も近い血統の公爵家の令息、王位継承権第二位の私の年子の弟の取り巻きになっている。

 それが、何を意味しているか、奴には分かっていないようだ。

 だから、私は、を心待ちにしていた。



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