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「お前みたいな気色悪いブスが僕の婚約者にるなとは! 僕は、なんて不幸なんだ!」

 王宮にある東屋で二人きりになった途端、目の前のは大仰に言い放った。

 つい数分前は、にこにこして「君のような可愛い子が僕の婚約者になるなんて、うれしい」と言っていたのに、すごい変わりようだ。

 他の令嬢ならば驚きショックを受けるだろうが、予想していた私は平静だ。

 両親に伴われて現れた私を見た瞬間、奴は一瞬だけだが嫌そうに顔をしかめていたし、「君のような~」と言う科白が本心でないのは私に向ける目の冷たさで分かったからだ。

 期待していた。私同様、周囲から腫れ物扱いされている亡き妾妃から生まれた王子。彼となら相愛の夫婦になれると思っていたのに。

 十中八九、無理そうだと私は心の中で嘆息した。

 最初から嫌悪感を向けてくる相手を愛するなど無理だ。なぜこちらから歩み寄らなければならないと腹立たしく思うからだ。

「では、婚約はやめますか? そのほうが私もうれしいです」

 ささやかな意趣返しで言ってやった。

 この婚約は破談できない。

 奴も分かっているから人前では私に笑顔を向け「君と婚約できてうれしい」などと思ってもいない事を言っていたのだ。二人きりになった途端、悪態を吐くのはどうかと思うが。

「できる訳ないだろう、馬鹿が。僕が国王になるのに、お前が必要なんだから」

 奴の母親、妾妃は男爵家の庶子で奴を産んだ後、産後の肥立ちが悪くて亡くなった。

 母親が妾妃である上、王家特有の銅色あかがねいろの髪と瞳ではなく顔立ちも両親である国王にも妾妃にも似ていなかった。

 それでも奴が国王の息子だと認められているのは、王妃であれ妾妃であれ、国王の女は国王以外の男性と二人きりになる事はないからだ。万が一、国王以外の男の子を孕む事がないように、国王以外の男性との接触を厳しく制限されているのだ。

 王子の父親は国王以外ありえない。国王も周囲も、それは分かっているが、王家の特徴を持たない奴を王太子だと認める事もできないのだ。建国以来、銅色の髪と瞳ではない王はいなかったからだ。

 この国では国王と王妃の間に生まれた長男が王太子になる。王妃との間に息子が生まれなかった場合のみ妾妃との息子が王太子だと認められる。

 公式で現国王の子供は、奴と奴の異母姉である王女だけだ。

 王女は王家特有の銅色の髪と瞳で才色兼備で有名だ。

 けれど、嫡出子で有能でも即位できるのは王子だけだ。この国の歴史で女王はいなかった。

 王家の特徴を持っていなくても国王の息子が奴しかいない以上、奴が次期国王だ。

 けれど、王家の特徴を持たないために、奴の地位は盤石とはいえない。だからこそ、私が奴の婚約者に選ばれたのだ。

 私の亡き父は王弟で母親は王家と何度も婚姻を結んだ公爵家の当主。さらには、私は王家特有の銅色の髪と瞳を持っている。

 盤石とはいえない地位にいる王子の妻として、これ以上相応しい令嬢はいないだろう。

「ああ、それくらいは分かっていらっしゃるのね」

 私は嗤った。暴言を吐かれたのだ。遠回しに嫌味を言ってもいいだろう。

 だが、奴は、私のこの発言が遠回しな嫌味だと気づかなかったようだ。何とも上から目線な発言を返してきた。

「お前のような気色悪いブスが妻なのは嫌だが、次期国王になるために我慢してやる。お前、僕の足を引っ張るなよ」

 自分が国王になるためには、私が必要だと分かっていて、なぜ、こんな態度でいられるのだろう?

 人前で私を尊重した態度でいれば、どれだけ私が二人きりの時の奴の暴言を訴えても信じてもらえず、婚約解消をしたいと願っても周囲が聞き入れないと高をくくっているのだろうか?

 だとしたら、あまりにも考えなしだ。

 私は初対面で婚約者に見切りをつけた。決して暴言を吐かれたからではない。
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