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赤川頼朝救出計画
01
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S県、異能力正義社のビルディングにて──。
「どうしましょうか、これ」
伊川隼人は、冷蔵庫の前で頭を悩ませていた。彼の目線の先には、昼に食堂で提供した唐揚げ定食が、ラップをされた状態で置かれている。
「赤川さん、どういうつもりなのでしょうか──」
今朝、赤川が外に出る前のこと。彼女は
「昼までには帰るから! 絶対に食べるから! 絶対に私の分は置いておいて!」
と何度も何度も隼人に念を押していた。しかし、実際はどうだ。十五時を回っても帰ってこないではないか。これだと、昼食ではなく晩御飯になってしまうではないか。そして、晩御飯にまで時間を空けてしまうと、せっかく作った唐揚げの味が落ちる。そのような状態のものを、赤川に食べさせるのはプライドが傷付く。
──仕方がない。お腹が空いてそうな誰かに食べてもらおう。
うんうんと頷きながら、隼人は冷蔵庫の扉を閉めると事務室へと向かった。
事務室の扉を開けると、そこには異様な光景が広がっていた。
デスクに突っ伏して、肩を震わせる相田康介。そして、困った表情で相田をなだめている桐島凧。
「えっ……と? 何かあったのですか?」
唐揚げ定食がどうこう言っている場合ではないことを感じとり、隼人は桐島に声をかける。
隼人の記憶が正しければ、今日桐島は相田から事務作業を教わる予定となっていたはずであり、今のような状況には間違いなくならないはずだったのだが。
桐島は少しホッとした表情を見せると、今までの経緯を説明し始めた。
「赤川が昼を過ぎても帰って来ないって、急にパニックになったと思ったら次は泣き出した。取り敢えず、色々となだめてたんだが正直めんどうくさい」
「……お疲れ様です」
隼人は、桐島とは反対側のデスクに座ると、相田に声をかける。
「相田さん。赤川さんがフラーっとどこかに行ってしまうことって、よくあることじゃないですか。あの人のことですから、仕事のついでに散歩でもしているのでは?」
しかし、相田は首を横に振った。
「それはないよ。だって、昼ごはんを食べに戻ってきてないじゃないか」
「それは……そうですね。自分の分を置いておくように何度も言っていましたし」
「あとそれと、メールの返事は返ってきてないし、電話も出ないし、それに、発信器も動いていないし……」
隼人と桐島は、顔を見合せた。そして、大きく息を吸い込んで
「「発信器!?」」
「え? うんGPS」
相田は不思議そうに、若干ひいている彼らの顔を見比べた。
「相田さん……まさかとは思いますが……赤川さんに発信器つけてるんですか……?」
「うん」
「や、うんじゃねェだろ。……あれか? 本人には許可を取ってるのか?」
「取ってない」
「──キモッ」
桐島の手が、デスク上にある電話機へと延びる。
「この場合は、110番が正解なのか……?」
彼の中で、相田はすでに変質者と同等のものになっている。
「でも、その発信器のある場所を調べれば、赤川さんがどこにいるのかもわかりますよね? 不安なら、調べてみるといいのでは?」
桐島の手をやんわりと退けながら隼人がそう言うと、相田はパソコンを立ち上げて調べ始めた。
そして、数分後。
「……少し、電話する」
相田はスマホを取り出すと、通話アプリを起動した。
「──もしもし、五十嵐? 今、少し大丈夫か? 調べて欲しいことがあるのだけれど──」
「五十嵐……というのは、誰だ?」
桐島は、隼人に小声で尋ねる。
「五十嵐さんは、うち専属の情報屋ですね。あの人の能力は、基本的に何でも覗けるものですので、五十嵐さんの知らないことは基本的にないものだと思っていてください」
「なるほど?」
それはまた、敵にまわすと厄介な……。桐島と隼人が五十嵐について話している間に、相田の声は徐々に大きくなっていく。
よって、
「監禁されてる!?」
と驚いた声は二人の耳にもバッチリ届き、彼らの視線は相田へと集まる。
相田は一度電話を切る。
「隼人君。今社屋にいる人たちをここに集めてくれないかな? 至急、話し合いたいことができた」
「ええ、わかりました。わかりましたけど──まさか、赤川さんが監禁されてるとか、そんなことはないですよね?」
「いや、そのまさかだよ」
否定してほしいという隼人の願いは届かなかった。
「どうしましょうか、これ」
伊川隼人は、冷蔵庫の前で頭を悩ませていた。彼の目線の先には、昼に食堂で提供した唐揚げ定食が、ラップをされた状態で置かれている。
「赤川さん、どういうつもりなのでしょうか──」
今朝、赤川が外に出る前のこと。彼女は
「昼までには帰るから! 絶対に食べるから! 絶対に私の分は置いておいて!」
と何度も何度も隼人に念を押していた。しかし、実際はどうだ。十五時を回っても帰ってこないではないか。これだと、昼食ではなく晩御飯になってしまうではないか。そして、晩御飯にまで時間を空けてしまうと、せっかく作った唐揚げの味が落ちる。そのような状態のものを、赤川に食べさせるのはプライドが傷付く。
──仕方がない。お腹が空いてそうな誰かに食べてもらおう。
うんうんと頷きながら、隼人は冷蔵庫の扉を閉めると事務室へと向かった。
事務室の扉を開けると、そこには異様な光景が広がっていた。
デスクに突っ伏して、肩を震わせる相田康介。そして、困った表情で相田をなだめている桐島凧。
「えっ……と? 何かあったのですか?」
唐揚げ定食がどうこう言っている場合ではないことを感じとり、隼人は桐島に声をかける。
隼人の記憶が正しければ、今日桐島は相田から事務作業を教わる予定となっていたはずであり、今のような状況には間違いなくならないはずだったのだが。
桐島は少しホッとした表情を見せると、今までの経緯を説明し始めた。
「赤川が昼を過ぎても帰って来ないって、急にパニックになったと思ったら次は泣き出した。取り敢えず、色々となだめてたんだが正直めんどうくさい」
「……お疲れ様です」
隼人は、桐島とは反対側のデスクに座ると、相田に声をかける。
「相田さん。赤川さんがフラーっとどこかに行ってしまうことって、よくあることじゃないですか。あの人のことですから、仕事のついでに散歩でもしているのでは?」
しかし、相田は首を横に振った。
「それはないよ。だって、昼ごはんを食べに戻ってきてないじゃないか」
「それは……そうですね。自分の分を置いておくように何度も言っていましたし」
「あとそれと、メールの返事は返ってきてないし、電話も出ないし、それに、発信器も動いていないし……」
隼人と桐島は、顔を見合せた。そして、大きく息を吸い込んで
「「発信器!?」」
「え? うんGPS」
相田は不思議そうに、若干ひいている彼らの顔を見比べた。
「相田さん……まさかとは思いますが……赤川さんに発信器つけてるんですか……?」
「うん」
「や、うんじゃねェだろ。……あれか? 本人には許可を取ってるのか?」
「取ってない」
「──キモッ」
桐島の手が、デスク上にある電話機へと延びる。
「この場合は、110番が正解なのか……?」
彼の中で、相田はすでに変質者と同等のものになっている。
「でも、その発信器のある場所を調べれば、赤川さんがどこにいるのかもわかりますよね? 不安なら、調べてみるといいのでは?」
桐島の手をやんわりと退けながら隼人がそう言うと、相田はパソコンを立ち上げて調べ始めた。
そして、数分後。
「……少し、電話する」
相田はスマホを取り出すと、通話アプリを起動した。
「──もしもし、五十嵐? 今、少し大丈夫か? 調べて欲しいことがあるのだけれど──」
「五十嵐……というのは、誰だ?」
桐島は、隼人に小声で尋ねる。
「五十嵐さんは、うち専属の情報屋ですね。あの人の能力は、基本的に何でも覗けるものですので、五十嵐さんの知らないことは基本的にないものだと思っていてください」
「なるほど?」
それはまた、敵にまわすと厄介な……。桐島と隼人が五十嵐について話している間に、相田の声は徐々に大きくなっていく。
よって、
「監禁されてる!?」
と驚いた声は二人の耳にもバッチリ届き、彼らの視線は相田へと集まる。
相田は一度電話を切る。
「隼人君。今社屋にいる人たちをここに集めてくれないかな? 至急、話し合いたいことができた」
「ええ、わかりました。わかりましたけど──まさか、赤川さんが監禁されてるとか、そんなことはないですよね?」
「いや、そのまさかだよ」
否定してほしいという隼人の願いは届かなかった。
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