43 / 49
桐島凧
11
しおりを挟む
赤川頼朝の初めての訪問から、三年が経った。
その間、俺は「能力者」の研究に没頭していた。理由は単純だ。赤川義朝の興味をホムンクルスから逸らす。そうすれば、あと何年かは彼を守ることができる。
研究を通して、わかったことがいくつかある。
一つ目。能力者が能力を使うには、何らかの「モノ」が必要になる。彼の場合はスパナであり、身体の一部に触れているか近くにある場合──限界距離は布一枚分ほどだったが──能力を使うことができた。
二つ目。能力者が死亡した場合、その能力者が保持していた能力はそのときに産まれた子供に継承される。彼が水槽を割ったあの日も、調べてみると彼と同様の能力を持った男性が死亡していたことがわかった。
この二つに関しては、今まで経験的に言われていたものの確証が持てなかったことに対して確定させたに過ぎない。これら以外にも明らかになったことがあったのだが、ここでは割愛する。
問題は、研究をもとに彼が作った能力者を見分ける装置に、俺が引っ掛かったことだ。急いで調べてみたのだが、俺が生まれた日に能力者が死んだという情報は出てこなかった。まあ、すべての能力者の記録があるわけではないのだ、仕方がない。俺の能力がどのようなものなのかは、非常に気になるのだが。
このように、俺も彼もそれなりに平和に過ごしてきたわけなのだが、一つ……いや、二つ、失念していたことがあった。
その内の、一つ。
「桐島君……どうして、そんな状態になるまで放置していたの」
すっかり回復していたと思っていた病が、手遅れになるほどに進行していた。
今朝、朝食を食べたあと激しい腹痛に襲われ、床に倒れてからの記憶がない。気が付けば、病院のベッドにいて、医者に「手遅れだ」と言われた。
おそらく、俺の身体はあの日から──小春が死んでから、おかしくなっていた。思い返せば、あの日以降発作が起きていない。それは、俺の意識が全て「小春を生き返らせること」に向いていたからだろう。
そして、何も気が付かずに暮らしている間に、俺の身体は徐々に壊れていったのだ。
……過ぎたことは、仕方がない。後悔しても、あの日に戻れるわけではないのだ。
三日ほど入院した俺は、彼に付き添われながら退院した。
口を開くたびに「本当に治ったのか」と不安そうに訊いてくる彼に、俺はただ「大丈夫だ」と返すだけだった。
彼に残せるものは、何なのだろうか。夜が来るたびに、そんな疑問が浮かび上がる。
俺ができることは、何もない。ただ、彼に何も悟られないように生活するだけだ。
そして、退院してから数週間後。
俺は、死んだ。
その間、俺は「能力者」の研究に没頭していた。理由は単純だ。赤川義朝の興味をホムンクルスから逸らす。そうすれば、あと何年かは彼を守ることができる。
研究を通して、わかったことがいくつかある。
一つ目。能力者が能力を使うには、何らかの「モノ」が必要になる。彼の場合はスパナであり、身体の一部に触れているか近くにある場合──限界距離は布一枚分ほどだったが──能力を使うことができた。
二つ目。能力者が死亡した場合、その能力者が保持していた能力はそのときに産まれた子供に継承される。彼が水槽を割ったあの日も、調べてみると彼と同様の能力を持った男性が死亡していたことがわかった。
この二つに関しては、今まで経験的に言われていたものの確証が持てなかったことに対して確定させたに過ぎない。これら以外にも明らかになったことがあったのだが、ここでは割愛する。
問題は、研究をもとに彼が作った能力者を見分ける装置に、俺が引っ掛かったことだ。急いで調べてみたのだが、俺が生まれた日に能力者が死んだという情報は出てこなかった。まあ、すべての能力者の記録があるわけではないのだ、仕方がない。俺の能力がどのようなものなのかは、非常に気になるのだが。
このように、俺も彼もそれなりに平和に過ごしてきたわけなのだが、一つ……いや、二つ、失念していたことがあった。
その内の、一つ。
「桐島君……どうして、そんな状態になるまで放置していたの」
すっかり回復していたと思っていた病が、手遅れになるほどに進行していた。
今朝、朝食を食べたあと激しい腹痛に襲われ、床に倒れてからの記憶がない。気が付けば、病院のベッドにいて、医者に「手遅れだ」と言われた。
おそらく、俺の身体はあの日から──小春が死んでから、おかしくなっていた。思い返せば、あの日以降発作が起きていない。それは、俺の意識が全て「小春を生き返らせること」に向いていたからだろう。
そして、何も気が付かずに暮らしている間に、俺の身体は徐々に壊れていったのだ。
……過ぎたことは、仕方がない。後悔しても、あの日に戻れるわけではないのだ。
三日ほど入院した俺は、彼に付き添われながら退院した。
口を開くたびに「本当に治ったのか」と不安そうに訊いてくる彼に、俺はただ「大丈夫だ」と返すだけだった。
彼に残せるものは、何なのだろうか。夜が来るたびに、そんな疑問が浮かび上がる。
俺ができることは、何もない。ただ、彼に何も悟られないように生活するだけだ。
そして、退院してから数週間後。
俺は、死んだ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
後宮出入りの女商人 四神国の妃と消えた護符
washusatomi
キャラ文芸
西域の女商人白蘭は、董王朝の皇太后の護符の行方を追う。皇帝に自分の有能さを認めさせ、後宮出入りの女商人として生きていくために――。 そして奮闘する白蘭は、無骨な禁軍将軍と心を通わせるようになり……。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
あやかし薬膳カフェ「おおかみ」
森原すみれ@薬膳おおかみ①②③刊行
キャラ文芸
\2024/3/11 3巻(完結巻)出荷しました/
\1巻2巻番外編ストーリー公開中です/
【アルファポリス文庫さまより刊行】
【第3回キャラ文芸大賞 特別賞受賞】
―薬膳ドリンクとあやかしの力で、貴方のお悩みを解決します―
生真面目な26歳OLの桜良日鞠。ある日、長年続いた激務によって退職を余儀なくされてしまう。
行き場を失った日鞠が選んだ行き先は、幼少時代を過ごした北の大地・北海道。
昔過ごした街を探す日鞠は、薬膳カフェを営む大神孝太朗と出逢う。
ところがこの男、実は大きな秘密があって――?
あやかし×薬膳ドリンク×人助け!?
不可思議な生き物が出入りするカフェで巻き起こる、ミニラブ&ミニ事件ストーリー。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる