異能力正義社

アノンドロフ

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アザミの花事件

03

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 そして、その翌日。
 前回と同じように社屋前で待ち合わせをしていた二人は、赤川の能力によってM県S市へと移動した。
「知り合いから、ピンバッチを付けている人の目撃情報が多いところを教えてもらったんだ。とりあえず、順番に回っていこう」
 そう言いながら赤川が開いた地図には、「M県完全ガイド」と書かれていた。
「もしかして、旅行する気満々ですか?」
 隼人の冷ややかな目線が、赤川を射抜く。
「そもそも、今日のあなたの服装からおかしいなと思っていたんですよ、僕は。なぜ、普段のあの服ではなく、私服なんです? 人の服装に対して、あーだこーだ言うつもりはありませんが、今日は何が起きるかわからないんですよ? 汚すかもしれないのに、どうしてその服を選んで」
「あー! あー! 何も聞こえないなー!」
 耳をふさぐ赤川に、隼人はため息をついた。
 ──この人が自由すぎるのは、今に始まったことじゃない。怒るな、落ち着くんだ。
 心の中で、数回深呼吸する。波立っていた心が、少しだけ穏やかになったような気がした。
 隼人は何とか笑顔を作ると、赤川の方を向く。
「で? なぜ私服なんですか?」
「……まだその話を引っ張るのかい?」
 今度は、赤川がため息をつく番だった。
「私服なのはね、純一君に『私服にした方がいい』と言われたからだよ。別に、『やったー! 旅行だ、わーいわーい!』とは思ってないから。安心したまえ」
「……そういうことにしておきましょう」
 完全に信じてはいない様子の隼人。赤川は少し口をとがらせた。
「いつも思っているのだが、君こそ、その恰好は暑くないのかい? フードを脱ぐだけでも違うと思うのだけど……」
 外出する際、隼人は常に黒いパーカーを羽織って、フードまで被っている。それは、夏の暑い日でも、変わらない。
 赤川の指摘に、隼人はこう答えた。
「紫外線対策です」
「そっか。それなら仕方がない」
 赤川は、これ以上追求するのをやめた。

 この後、赤川が仕入れた情報をもとに、二人は探索を続けた。
 その途中で、何度か街頭アンケートやキャッチに話しかけられることもあったが、無視してやり過ごした。
 そして、探索を始めてから二時間後。
「全然見つからないね」
 コーヒーショップでテイクアウトしたカフェオレを飲みながら、人通りの少ない路地裏で、赤川は「M県完全ガイド」を開く。
「目撃情報のあったところは、全部回ったはずなんだけど」
 地図には、目撃情報のあったところに赤ペンで丸印が入っていたのだが、そのすべてにバツ印が上から書かれている。
「聞き込みもしましたけど、観光客が多いからか、情報も集まりませんね」
 アイスコーヒーを飲みながら、途方に暮れる隼人。日陰になっているためか、フードを脱いで熱を逃がしている。
「どうします? 出直しますか?」
 隼人の提案に、赤川は渋々うなずいた。
「そう、だね。日が変われば、少しは違うかもしれないし」
 カフェオレを飲み干し、腕時計を確認する。
「テレポートが使えるようになるまで、あと一時間あるね。それまで、聞き込みを続けようか」
 赤川のテレポートは、連続して使用することができない。再使用するには、三時間ほどのクールタイムが必要なのだ。
 先に表通りへと歩を進める赤川の後姿を、隼人は慌てて追う。
 その彼の背後から、何者かが音もなく忍び寄ってくるのに誰も気が付かなかった。
 後頭部に、強い衝撃。
「あ……」
 揺れる頭。
 かすむ視界。
 無意識に伸ばした右腕は、赤川頼朝に届かなかった。
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