異能力正義社

アノンドロフ

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桐島凧

08

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 ホムンクルスの製造に着手してからの五年間、家に帰ることすら煩わしかったため、研究所に居住スペースを設けて暮らしていた。つまり、俺の服ならばそれなりにある。目の前の彼は、精神は男性であるので、本人が良いのならば服を買いに行くまでの間は俺のを貸せる。試しに、あまり着ていないジャージを見せると、彼は喜んで受け取った。俺が着るのでもサイズがやや大きかったため、彼には大きすぎたのだが、体型を隠すことができたのでいいだろう。
「──やはり、その身体は嫌か?」
 袖を折り返してやりながら尋ねると、彼はこくりと頷いた。
「なんか、『これは違う』みたいな感じがするというか……」
「そうか」
 まあ、そうだろう。身体と精神の性別が違っているのだから。ならば、できるだけその違和感をなくしてやりたい。
 あとは……髪と声か? 声に関しては、いろいろと準備が必要になるため後回しになるが、髪は切るだけだ。
 髪を切りたいかと訊くと、再び頷いた。彼を椅子に座らせ目の前に鏡を置くと、ハサミの刃を髪に当てる。失敗しても大丈夫なように、最初は肩にかかるぐらいの長さにそろえよう。そう思いながら、一房切ったのだが。
 一瞬にして、元の長さに戻った。
 ──そういえば、ケガをしてもすぐに治るように、身体の一部が欠けたとしても完璧に再生されるように、彼の身体を設計した。髪も身体の一部になるから、切っても元の長さに戻ったのだろう。思っていたより不便だな。
 髪が切れないとなると、残す手段は結ぶことぐらいか。根本から編み込んで上の方で一つに結べば、見た感じの長さは変わる……はず。
 大丈夫、三つ編みのやり方はわかるし、俺の母親は元美容師だ。それに、最悪ネットで検索すればいい。ヘアゴムも、服の袖を止めたり髪をまとめたりする用に常備しているものがある。なんとかなるはずだ。
 そう意気込んでから一時間後、ようやく完了した。ネットは凄いとだけ感じた。あとは、やり方を彼に教えるだけだ。……また今度でいっか。
 
 思い付く限りの、生活するのに必要な最小限の知識──蛇口の使い方やトイレの使い方などを説明しているとき、ケータイが鳴った。相手は赤川義朝だったため、念のため彼に聞こえないよう廊下に出る。
「はい。桐島だ」
『桐島、訊きたいことがあるのだが、いいだろうか?』
「なんだ?」
『なぜ、研究員を勝手に解雇したのかね?』
 やっぱり、と思った。あの研究者二人は、赤川が送ってきたのだ。
「あの二人が、勝手に研究を進めた。おかげで、予定していたのとは違うものになってしまった。そんなやつらを、手元に残しておけるか?」
『たしかにそうだね』
 赤川は組織の長だ。自身にも経験があるのか、その件はこれで終わった。だが。
『……そうそう、あの二人にホムンクルスが完成したと言われたのだが、本当か?』
「……一応、完成した」
 完成したが、渡すわけにはいかない。
『そうか。ならば、作成方法を教えてくれ。さっそく作っていきたい』
「そのことなんだが、まだホムンクルスに対して調べたいことがあるし、観察が必要だ。あんただって、今から中途半端なものを作り出すより、数年待って完璧なものを作るほうがいいのではないか?」
『……なるほど。今の段階で作り出すのは、資源の無駄か。ちなみに、完璧なものを作れるようになるには、どれぐらいかかるだろうか』
「まだハッキリとは言えないが……五年はかかるだろう」
『そうなのか。では、これから君はそれに取りかかってくれ』
「わかった」
 よし、これで五年の猶予ができた。それにしても、ずいぶん騙しやすいな。俺はそれほど口が立つわけではないが、そんな俺でもこの結果だ。本当にこいつは組織の長なのか? まあ、俺は助かったのだから今はいい。
 あとは……そうだ。
「一つ、頼みたいことがあるのだが」

 後日、研究所に段ボールが届いた。
 中に入っていたのは、工具セットと細々とした部品、ボイスチェンジャーの作り方をまとめたDVD。赤川に頼み、技術屋から送ってもらったものだ。あとは、これを彼に見せて作らせる。ボイスチェンジャーが壊れたとき、自力で作れるようにするためだ。
 俺自身、工具を触るのは初めてのため、サポートらしいサポートができず、ほとんど一人で完成させていた。チョーカー型のそれは、どういう原理か首に巻くだけで声が低くなる。彼は嬉しそうに何度も声を出していたから、俺のしたことは間違いではなかったのだろう。
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