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桐島凧
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違う、違う。
あいつは、そんな目で俺を見ない。
あいつは、そんな声色で話さない。
あいつは、あいつは──。
──違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う! 何もかも間違っている!
俺は、何をしていたんだ。
「……おい」
いつの間にか早まっていた鼓動を静め、背後にいる部下の二人に問いかける。
「お前ら……何をした?」
「えーと……その、なあ……」
「うん……まあ……」
視線をそらし、言葉を濁す二人。クビを恐れているのか?
「先に言っておくが、お前らはクビだ。信用できねェからな」
「そんな……」
どうやら、図星のようだ。クビになりたくないのなら、こんなことするなよ馬鹿野郎。
「で? 何をやったんだ? 計画通りに行えば、こうならなかったはずなんだが?」
計画通り行えば、このホムンクルスは日向小春と同じ人格になったはずだ。
いや、待てよ?
「まさか、予定とは違う人格を入れたのか?」
試しにこう尋ねるとこれも図星だったらしく、見て分かるほど冷や汗をかき出した。
「おい、何か言えよ」
「……その通りです」
「男の人格を入れました……」
「そうか」
これで、違和感の正体は解明できた。これ以上の会話は無用だろう。
「荷物をまとめて、出ていけ。二度と戻って来るな」
二人は何かを言いたそうにしていたが、睨み付けると出ていった。
……これで、二人きりになれた。人の目を、気にしなくてすむ。
大人しく座ったままのホムンクルスに、向き直る。そいつは身体を震わせたが、瞳は俺を捕らえたままだ。
俺は、そいつの前に正座する。
水槽から洩れた液体が服を濡らすが、関係ない。俺はそのまま──。
「悪かった」
土下座した。
「お前を産み出したのはこの俺だ。人格に関しても、俺の不注意によるもの。だから、どうか、恨むなら俺だけを……!」
なぜ、俺は気がつかなかったのだろうか。日向小春と似た肉体、似た人格を持ったものを産み出したとしても、それは本物ではない。現に、このホムンクルスはどうだ。彼は、俺たち三人のうちの誰かの人格を持つはずだが、その誰にも似ていないように感じるではないか。
はやくそのことに気付いていれば、彼はここに産まれなかった。何も、嫌な思いはしなかったのだ。
「……俺がしたことは許されないだろう。それはよく分かっている。だから、お前には俺の持つ知識の全てを、生き方を教えさせて欲しい」
人の創造は倫理に反する。だから、本当はここで彼を殺すべきなのだろう。しかし、彼自身に罪はない。
彼を生かすのも殺すのも、結局は俺のワガママだ。ならば、彼が一人でも困らないよう──人とともに生きられるよう、俺ができることは何でもやろう。
もちろん、彼が望むならば、だが。
彼から返事がないため、顔を上げる。
ポカーンとした表情が、目に写った。
「……産まれてすぐのときに、訊くことではなかったか……」
難しすぎたのだろうな。たぶん。
あいつは、そんな目で俺を見ない。
あいつは、そんな声色で話さない。
あいつは、あいつは──。
──違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う! 何もかも間違っている!
俺は、何をしていたんだ。
「……おい」
いつの間にか早まっていた鼓動を静め、背後にいる部下の二人に問いかける。
「お前ら……何をした?」
「えーと……その、なあ……」
「うん……まあ……」
視線をそらし、言葉を濁す二人。クビを恐れているのか?
「先に言っておくが、お前らはクビだ。信用できねェからな」
「そんな……」
どうやら、図星のようだ。クビになりたくないのなら、こんなことするなよ馬鹿野郎。
「で? 何をやったんだ? 計画通りに行えば、こうならなかったはずなんだが?」
計画通り行えば、このホムンクルスは日向小春と同じ人格になったはずだ。
いや、待てよ?
「まさか、予定とは違う人格を入れたのか?」
試しにこう尋ねるとこれも図星だったらしく、見て分かるほど冷や汗をかき出した。
「おい、何か言えよ」
「……その通りです」
「男の人格を入れました……」
「そうか」
これで、違和感の正体は解明できた。これ以上の会話は無用だろう。
「荷物をまとめて、出ていけ。二度と戻って来るな」
二人は何かを言いたそうにしていたが、睨み付けると出ていった。
……これで、二人きりになれた。人の目を、気にしなくてすむ。
大人しく座ったままのホムンクルスに、向き直る。そいつは身体を震わせたが、瞳は俺を捕らえたままだ。
俺は、そいつの前に正座する。
水槽から洩れた液体が服を濡らすが、関係ない。俺はそのまま──。
「悪かった」
土下座した。
「お前を産み出したのはこの俺だ。人格に関しても、俺の不注意によるもの。だから、どうか、恨むなら俺だけを……!」
なぜ、俺は気がつかなかったのだろうか。日向小春と似た肉体、似た人格を持ったものを産み出したとしても、それは本物ではない。現に、このホムンクルスはどうだ。彼は、俺たち三人のうちの誰かの人格を持つはずだが、その誰にも似ていないように感じるではないか。
はやくそのことに気付いていれば、彼はここに産まれなかった。何も、嫌な思いはしなかったのだ。
「……俺がしたことは許されないだろう。それはよく分かっている。だから、お前には俺の持つ知識の全てを、生き方を教えさせて欲しい」
人の創造は倫理に反する。だから、本当はここで彼を殺すべきなのだろう。しかし、彼自身に罪はない。
彼を生かすのも殺すのも、結局は俺のワガママだ。ならば、彼が一人でも困らないよう──人とともに生きられるよう、俺ができることは何でもやろう。
もちろん、彼が望むならば、だが。
彼から返事がないため、顔を上げる。
ポカーンとした表情が、目に写った。
「……産まれてすぐのときに、訊くことではなかったか……」
難しすぎたのだろうな。たぶん。
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