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柊カイト
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窓ガラスを大きくくりぬいて、できた穴に体をねじ込んで外へ飛び出す。着地地点にマットを生み出し、衝撃から身を守った。
現在の時刻は夜の三時頃。外は非常に静かで、少し気味が悪い。
正八は、能力を一時的に「覚醒」状態にすることができる。正八をここに呼んだのは、ロボットが脱走を阻止してくるのを防ぐためだ。
今はまだ気付かれていないようで、追っ手がこない。今のうちに逃げてしまおう。
脚の筋肉をポンプに置き換え、骨を鉄骨へと変化させる。
普段ならばできないが、能力が底上げされた今ならばできる。
自分の体の弱いところを機械で補えば、誰よりも強くなれるのだ。
変化し終わってから走り出したが、思っていたよりもすぐに追っ手が来た。
数枚の浮遊する壁を作り出し、ロボットの邪魔をしながら門へと走る。強化された両目が、門の向こうに立つ正八の姿をとらえた。
──もうすぐだ。
回り込んで来たロボットを叩き潰し、門へと真っ直ぐに走る。
あと少し。あと少しで、あの場所に帰れる。
門を壊せ。
門を──。
「何をやっているんだ? FZ・0027?」
その声を聞いたとたん、身体が硬直してしまった。
尾十切だ。
尾十切に、見つかってしまった。
「あ、あぁ……」
体の震えが止まらない。恐怖によって全ての器官が乗っ取られたみたいだ。
「お前が、逃げたいのならばそれでいい」
尾十切が、静かな声で続ける。
「だが、それで私が諦めると思ったか? それで、お前の仲間とやらが無事でいられると思ったか?」
力なく地面へと座り込む。
──そうだ。ただ逃げただけじゃ、同じことを繰り返すことにしかならない。結局、俺は自分のことしか考えていなかったのだ。
「お前は、ここでしか生きてゆけん。その意味が、わかっただろう?」
尾十切が、俺の腕を持って、立ち上がらせようとする。
「──待て」
正八が、震えた声を出した。
俺を引っぱって行こうとしていた尾十切の手が止まる。
「なんだ?」
「……柊から手を離せ。そいつは、お前の物なんかじゃない」
正八は、真っ直ぐ尾十切を睨み付けた。
「だが、これを不衛生な環境から救いだしてやったのも、食事や寝床を与えてやったのもこの私で──」
「それじゃ、どうしてこいつはこんなに嫌がってる? お前がやったのは救済ではない。ただ自分の都合のいいように監禁しただけだ」
尾十切の手が、一瞬震えたのを感じた。しかし、すぐ正八へと向き直る。
「──そんなにこれのことが大事なのなら、どうしてお前は門の外にいるんだ? 本当は……これの問題に付き合うのが嫌なのではないのか?」
「俺は──」
正八は、ここで尾十切から視線をそらした。口を動かし、何かを呟いたあと、俺の方を見た。
「俺は──何もできない。頭は悪いし運動音痴。唯一持っている能力も、誰かを強くさせることしかできない、地味なものだ。それでも、柊は凄いと言ってくれた。本当に凄いのは、柊のほうなのにな。……初めて、認めてくれたのが、柊だった。だから、俺も支えになりたい」
「正八……」
ありがとう。正八のおかげで、自分が今何をすべきなのかがわかった。
尾十切の手を振り払い、門の前に立つ。
手をハンマーに変えて、振り上げる。
「下がってろよ、正八」
ここで、お前との関係を打ち砕いてやる。尾十切。
振り上げたハンマーを、力いっぱい振り落とした。
現在の時刻は夜の三時頃。外は非常に静かで、少し気味が悪い。
正八は、能力を一時的に「覚醒」状態にすることができる。正八をここに呼んだのは、ロボットが脱走を阻止してくるのを防ぐためだ。
今はまだ気付かれていないようで、追っ手がこない。今のうちに逃げてしまおう。
脚の筋肉をポンプに置き換え、骨を鉄骨へと変化させる。
普段ならばできないが、能力が底上げされた今ならばできる。
自分の体の弱いところを機械で補えば、誰よりも強くなれるのだ。
変化し終わってから走り出したが、思っていたよりもすぐに追っ手が来た。
数枚の浮遊する壁を作り出し、ロボットの邪魔をしながら門へと走る。強化された両目が、門の向こうに立つ正八の姿をとらえた。
──もうすぐだ。
回り込んで来たロボットを叩き潰し、門へと真っ直ぐに走る。
あと少し。あと少しで、あの場所に帰れる。
門を壊せ。
門を──。
「何をやっているんだ? FZ・0027?」
その声を聞いたとたん、身体が硬直してしまった。
尾十切だ。
尾十切に、見つかってしまった。
「あ、あぁ……」
体の震えが止まらない。恐怖によって全ての器官が乗っ取られたみたいだ。
「お前が、逃げたいのならばそれでいい」
尾十切が、静かな声で続ける。
「だが、それで私が諦めると思ったか? それで、お前の仲間とやらが無事でいられると思ったか?」
力なく地面へと座り込む。
──そうだ。ただ逃げただけじゃ、同じことを繰り返すことにしかならない。結局、俺は自分のことしか考えていなかったのだ。
「お前は、ここでしか生きてゆけん。その意味が、わかっただろう?」
尾十切が、俺の腕を持って、立ち上がらせようとする。
「──待て」
正八が、震えた声を出した。
俺を引っぱって行こうとしていた尾十切の手が止まる。
「なんだ?」
「……柊から手を離せ。そいつは、お前の物なんかじゃない」
正八は、真っ直ぐ尾十切を睨み付けた。
「だが、これを不衛生な環境から救いだしてやったのも、食事や寝床を与えてやったのもこの私で──」
「それじゃ、どうしてこいつはこんなに嫌がってる? お前がやったのは救済ではない。ただ自分の都合のいいように監禁しただけだ」
尾十切の手が、一瞬震えたのを感じた。しかし、すぐ正八へと向き直る。
「──そんなにこれのことが大事なのなら、どうしてお前は門の外にいるんだ? 本当は……これの問題に付き合うのが嫌なのではないのか?」
「俺は──」
正八は、ここで尾十切から視線をそらした。口を動かし、何かを呟いたあと、俺の方を見た。
「俺は──何もできない。頭は悪いし運動音痴。唯一持っている能力も、誰かを強くさせることしかできない、地味なものだ。それでも、柊は凄いと言ってくれた。本当に凄いのは、柊のほうなのにな。……初めて、認めてくれたのが、柊だった。だから、俺も支えになりたい」
「正八……」
ありがとう。正八のおかげで、自分が今何をすべきなのかがわかった。
尾十切の手を振り払い、門の前に立つ。
手をハンマーに変えて、振り上げる。
「下がってろよ、正八」
ここで、お前との関係を打ち砕いてやる。尾十切。
振り上げたハンマーを、力いっぱい振り落とした。
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