異能力正義社

アノンドロフ

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一週間耐久生活

六日目

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「なあ……」
「どうした?」
「どうして、こうなった?」
「さあ、どうしてだろうな」
 ひそひそ声でやりとりする柊と真田。二人は、眠っている他の仲間たちの様子を観察する。
「……あ、隼人起きそう」
 柊が言う通り、隼人のまぶたがゆっくりと持ち上がる。そして──。
「ふわぁ、よく寝た……って、なんですか! この状、痛ぁ」
「静かにしろ」
 隼人の髪から口を離し、柊が睨み付ける。
「なんかよくわかんねーけど、この場には知らねーやつがいる気がする」
 彼らは現在、何者かに拘束されている。手首を縄で縛られ、誰一人誰かと顔が会わないように背を向けて円になるように座らせられていた。
「ん……あれ?」
「んん? なにこれ」
 相田と純一も目覚めたようだ。状況をすぐに理解できたらしく、口を閉じる。
 しばらくしてから、床を叩く二種類の音が聞こえてきた。「トン」という低い音と「カッ」という高い音が規則性もなく鳴らされ、そして間が空いたかと思うと再び鳴らされる。
「……モールス信号か?」
「トントントンカッ カッカットン トンカッ カッカッ トントン(そうだよ)」
 柊の問いかけに、純一はすぐにモールス信号で答える。
「トンカッカッカッ カットンカットンカッ トンカットンカッ カットンカットンカッ カッカットントン カットンカッカッ カットンカッカッカッ トンカッカッカッ トンカッ カッカッ トントントン カットンカッカッ カッカットンカットン トンカッ(犯人の顔は誰か見た)」
「カットン カットン カットントン(いいや)」
「トンカッ トントンカッカッ カッカッ カットンカットンカッ トンカッカッカッ カットンカットンカッ トンカットンカッ カットンカットンカッ トンカッカッカッ トンカッカッ カッカッ カッカッカットン トンカッ カッカットンカッ カットントントン トントンカットンカッ カッカッカッ カットンカッ カットン(たぶん犯人は僕たちを知らない)」
「カットンカッ カットントントンカッ カッカッ(なぜ)」
「カッカットントン カッカットン トントンカッ カッカッカットン トンカットントン カッカッ カットンカットンカッ カットンカッカッ カッカッ トントンカットントン トンカットントンカッ カットンカッカッ カッカッカッ(能力源があるから)」
 能力者は、能力源と呼ばれるアイテムを身に付けるか持つかをしないと能力を使うことができない。つまり、能力源さえ奪ってしまえば、彼らはただの人間と変わらない。それらが奪われていないのなら、犯人は純一たちのことを知らないと言えるだろう。
 しばらくモールス信号で会話していたが、廊下から足音が聞こえてきたので、やめる。
 ドアを開けて入ってきたのは、屈強そうな男二人と一人の女だった。リーダーはこの女らしく、男は彼女を守るように立っている。
 彼女は五人を見て少し驚いているようだったが、涼やかな声で話しかける。
「まだ、起きてないつもりでいたけど……ねぇ、あなたたち、をどこにやったの?」
「あれ……?」
 あれと言われても、なんのことかわからない。そういう意味で五人は呟いたのだが、彼女はそう受け取らなかったようだ。彼女は彼らの目の前で、探し物を始めた。
 壁に付けられた棚の上にあるものを、片っ端から物色する。
 そして、置物の後ろに隠すかのように置かれたビンを見つけ、顔をゆるめる。
「これは何かしら?」
 反応をうかがうために、わざと口に出す。ラベルのない、色つきで中身がわからないそのビンを見て、純一は小刻みに震えだした。
「あ……それは……!」
 当たりだと思った彼女はビンのフタを開け、そして──。
「きゃああ!」
 落としてしまった。割れたビンから、大きなムカデがのっそりと現れる。
 彼女たちの注意がそちらにむいたそのとき、彼女の両脇を突風が吹く。後ろを振り返ると、体を打ち付けて意識のない二人の大男と、蹴りあげた右足をもとに戻す隼人と相田の姿があった。
「ちょっと加速させすぎですよ、相田さん。吹っ飛ぶかと思いました」
「ごめん、久し振りだったから加減が分からなくて」
 そう言いながら、振り返る二人。怒らせると鬼よりも怖いといわれている二人の瞳は、真っ直ぐ彼女をとらえる。
 たいして、女は後ずさりながら、信じられないこの状況を受け止められずにいた。
「うそ、どうして拘束してたのにそこにいるの? 刃物は持っていなかったはずなのに」
「拘束って、この縄か?」
 柊は、縄の切れ端を持ち上げる。しかし、彼女の目は縄ではなく、それを持つ手に向いていた。
 ツナギの袖──本来なら手が出ているその部分から、ハサミの刃がにょっきりと生えていた。
「まさか……能力者!」
「そのまさかだよ~」
 ビンを復元させながら、純一は畳み掛ける。
「誰の情報かわかんないけど、あなたはだまされたんだねー、かわいそ。ちゃんと情報の裏をとって僕らのことも調べていたら、こんなことにはならなかっただろうに。あなたが連れてきていたボディーガードさんは、しばらく目を覚まさないと思うけど、どうするの? なにを探してたのか教えてくれるのかなぁ?」
 彼女は下を向き黙っていたかと思うと、
「よかったわ」
と言って顔をあげる。そこには余裕の二文字があった。
「こんなこともあろうかと、能力者を雇っておいて正解だった」
 彼女はスマートホンを取りだそうとした。しかし。
「あれ、私のスマホは!?」
 確かにあったはずのスマートホンがなくなっている。探し回っているうちに、彼女は拘束された。
 無数の細い糸が、光に反射してきらめく。それは、天井の方から伸びていて、それを目でたどっていくと、
「君たち、おつかれさん」
コウモリのように梁にぶら下がった赤川がいた。
 軽やかに床へと降り立った彼女に、呆然とする一同。
 赤川は女を一瞥し、突っ立ったままの五人に近付く。
「六日間にはなってしまったが、共同生活は楽しかったかい? もう仕事は終わったから、帰ってくれても構わないよ?」
「……いや、説明してください! 何がどうなってこうなったんですか!?」
 耐えきれなくなった隼人が声をあらげる。赤川は、やれやれというふうに、口を開く。
「そこにいるのは、巷を賑わす泥棒だよ。最近、よく美術品とか宝石とか盗まれているじゃないか。あれ、全部彼女の仕業。それで、彼女をできるだけ早く捕まえて欲しいっていう依頼があって、一週間以内に捕まえるって言ったんだけど、私その週出張で五日ぐらい埋まってて。だから君たち五人を一ヵ所に集めて、そこに彼女を誘きだそうとした。そうすれば、私がいなくても君たちがどうにかしてくれるだろうと思ったんだ」
 納得する一同。しかし、一つだけ腑に落ちないことがある隼人は、赤川に尋ねる。
「それなら、どうして僕たちに言ってくれなかったんですか?」
「それは、おもしろそうだと思ったから!」
 赤川頼朝は、そういう人間である。
 こうして、長かった耐久生活は幕を閉じた。
〈Fin〉
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