異能力正義社

アノンドロフ

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一週間耐久生活

三日目

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「そういや、純一って帰ってきたっけ?」
 テレビの画面を見たまま、真田が尋ねる。
 三時間前、純一は「ちょっと山に行ってくる~」と言ってここを出ていった。それから、何も連絡がない。
 今は午後五時を過ぎようとしている頃だ。そろそろ戻ってこないと、暗くなってしまう。
「迷っているのかもしれないね。探しに行くかい?」
「そうだな……」
 真田はソファーから立ち上がると、別の部屋にいる隼人と柊を呼びに行った。
 そして、じゃんけんで負けた真田が留守番として残り、他のメンバーが山へと向かった。

「けっこう歩きにくいな……」
 一人歩きながら、隼人は呟く。あまり手入れのされていない山は木々が密集しており、歩きにくい上に暗くて見通しが悪い。実家が山奥にあってこういう場所に慣れている隼人ならまだしも、純一なら少し歩くだけでひどく疲れるだろう。
 山に入った彼らは、手分けして純一を探している。しかし、まだ見つからない。
 足跡があるから、この辺りのはずなんだけど……と思いながら、視線を下にずらしたちょうどそのとき、誰かが隼人の方へ近づいてくる気配がした。まさか、純一なのではと立ち止まったが、しげみから姿を現したのは相田だった。
「あれ? 隼人君?」
 相田もどうやら足跡をたどっていたらしく、隼人を見て驚いているようだった。おそらく、間違って隼人の足跡をたどってしまったのだろう。
 もうせっかくだから、一緒に探そうということになり、二人で隼人がたどっているほうの足跡に沿って歩いていく。
「君、それ暑くないの?」
 草木で切ったり虫に刺されないように、相田も一応長袖長ズボンの格好ではあるが、隼人はさらに、その上にいつも羽織っている黒いパーカーを着て、フードまで被っている。見ているだけでも暑くなってしまいそうな格好だ。
「暑いですけど……これ脱ぐと日焼けするんで」
 相田は、出掛ける前に隼人が日焼け止めを念入りに塗っていたのを思い出す。これだけ聞くと、男なのに女子っぽいと思われるかもしれないが、隼人は見た目にこだわっているわけではない。
「僕色素が薄いんで、ちょっと外に出るだけですぐに肌が真っ赤になるんですよ。小さい頃調子にのって半袖で外に出たら、腕がやけどみたいになって。まだちょっと跡が残ってます」
「……大変だね」
「僕はこの色好きなんですけどね、ちょっと不便なこともありますけど。──それに、結構使えますしね」
 急に声のトーンが下がったので相田は振り向いて見たが、隼人は何事もなかったかのように大木を見つめていた。
「……隼人君?」
「この木、登りやすそう……」
 この辺りに手をかけて、足を乗せて……と、シミュレーションしてたかと思うと、
「高いところからのほうが、探しやすいと思いませんか?」
と、言い出した。登りたいのがバレバレである。
 隼人が木登りをしているその頃、柊はまじめに純一を探していた。そして──。
「……いた」
 柊の口から漏れたその言葉に気付いたのか、うずくまっていた純一は顔を上げた。
「あ、柊さん! よかった~、このまま帰れないかと思った~」
 元気そうな言葉とは裏腹に、純一の笑顔は取って付けたもののように見えた。柊は純一に近付き、そして驚く。
「あんた……その足……」
「これ? 気付かなくって踏んじゃった」
 「誰がこんなことしたんだろうね」と明るい調子で言いながら、左足を見つめる純一。その足には、獣用の罠が噛みついていた。
「待てよ、すぐに外してやる」
 柊は異能力正義社の技術班だ。普段から携帯しているコンパクトな工具セットをツナギのポケットから取りだし、罠を分解していく。
「今、治癒はできんの?」
「それが……メスを置いてきちゃった」
「バカか」
 罠を外した後から溢れてくる血液を、純一が持っていた三角巾を巻き付けることで止めて、左腕を肩に回して立ち上がらせる。
「道は覚えてるの?」
「俺には記憶力しかねーから」
 柊は、純一の体を支えるようにして進む。数歩進んだあと、純一が口を開いた。
「ちょうど二人だけだし、訊いてもいいかなあ?」
 「なんだ?」柊は、これから始まる質問の内容がなんとなく分かっていた。
「あのあと、あなたのこと、どこまで真田さんに言ったの?」
「……あんたと、頼朝が知っているぐらいまでは、言った」
「つまり、全部だね」
 純一の右足が、地面を蹴りつける。
「この際、みんなにほんとうのことを言うべきだと思うよ。これ以上、隠し通すことは難しいし。みんなも怪しんでいるだろうし」
「……いつか、言う」
「断言しよう。そのままだとあなたの『いつか』は一生来ないよ。何かきっかけがないかぎり」
 柊は口をつぐむ。自分でも、そうなるだろうと感じていたのだ。
 その後、二人は何も話さずに帰った。そこには真田しかおらず、隼人と相田はまだ帰っていなかった。
 そして、その二人が帰ってきたのは、三十分後のことだった。

 
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