ショートショート劇場

アノンドロフ

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星の砂

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一通目

 前に、娘と海水浴に行く話をしたじゃない? 日帰りで、S県に。先週の日曜日に行って来たんだけど。
 そこでね、変なことがあって。あなたに相談したいの。
 あなたも知っていると思うけど私ってカナヅチだから、その日はレジャーシートを敷いて、娘が泳いでいるのをそこから見ていたの。ただ、娘は飽き性だから泳ぐのはすぐに止めて、砂のお城を作ろうとしてた。
 小さいバケツとかスコップとかは持ってきていたから、娘はそれを使って砂を集めていたの。湿った砂の方が作りやすいから、波がぎりぎり寄せてくるところの砂を、バケツに入れて私の近くまで持ってきていたわ。
 変なことがあったのは、砂が足りなくなってもう一回集めにいったときだったかしら。バケツに何も入れずに戻ってきた娘が「あそこに星の砂があるからついてきて」って言ったの。荷物も見てないといけないから、どうしようって思ったんだけど、あまりにも見てほしいっていうからついていったのよね。
 星の砂ってあるじゃない? お土産屋さんとかで小瓶に詰めて売られている、星の形をした砂(あれって、本当は砂じゃないらしいわね)。最初、私はその「星の砂」だと思ったの。だけど、娘に言われたところをどんなに探しても、「星の砂」は見つからなかったわ。あったのは、白い普通の砂だけ。
 だから「どこに星の砂があるの?」って娘に尋ねてみたの。私が見落としているのかもしれないし、娘の見間違いかもしれない。そう思ったのよね。そしたら、娘は何と答えたと思う? 「お母さんが見てるとこ、砂がピカピカ光ってる」「お星さまみたい」って言ったの。
 ねえ、あの子の目には何が見えているのかしら。世の中には「幽霊が見える人」とか「オーラが見える人」とか、私には見えないようなものが見えるって言っている人がいるけど、あの子もそうなのかしら。
 私は、どうするべきなのかしら。

二通目

 聞いてちょうだい。この前、あなたに「星の砂」の話をしたでしょう? あのあと、あなたのアドバイス通りその話を忘れようとしたのよね。あの子の見間違いなんだからって。
 だけどね、またあったの。
 今って紅葉が綺麗でしょう。だから、娘と一緒に登山に行ったの。紅葉が綺麗なことで有名な○○山にね。
 遊歩道はあったけど、少し険しかったわ。整備されてないところは、足を滑らせて落ちてしまいそうな。まあ、木が多かったから、木に引っかかって止まれそうだったのだけど。
 娘と手を繋いで、足元を見ながら歩いていると、急に娘が立ち止まったからビックリしたわ。
 「なあに。どうしたの?」ってきいてみたら、あの子はたくさんある木の一つを指差して、「お母さん、あそこの木のしたが光ってる」って言った。
 今度は、土が光って見えたって言うのよ。不思議だと思わない?
 気のせいだって思っていたけど、やっぱりこうするわ。あの子を病院につれていく。
 何かわかったら、また連絡するわね。

三通目

 前に手紙で書いた通り、病院につれていったわ。何かはわからなかったんだけど、また変なことがあったから書くわね。
 あの子はものが光って見えるって言うから、はじめに眼科につれていったの。検査をしてもらったんだけど、目には異常がないって言われて。もしかすると脳の異常かもしれないっていうことだったから、市民病院の脳外科の先生の紹介状を書いてもらったの。
 変なことがあったのは、病院の中を歩いているときだった。
 「ピカピカ光ってまぶしい」って言って、娘が両目を手で覆ったの。私には全然眩しくなかったのよ? ちょうどいいくらいだった。
 仕方がないから、ニット帽をのばして目を隠させて、娘の手をひいて歩かせたわ。眼科ではなにもなかったのに、どうしてあそこではまぶしいって言ったのかしら。
 結局、脳にも異常はないって言われたから、安心したような、不安になったような、なんだかよくわからない気分で病院を出た。
 つぎは、何が光って見えているのかを調べないといけないわよね。
 また連絡するわ。

四通目
 
 あのあとも光って見えたものがあったから、まとめておくわね。
・正月、母の家に帰ったとき家の中が光って見えた。
・四月頃、ビルの真下が光って見えた。
・道路が光って見えた。
 何か共通点があるかもと思っていたのだけど、無さそうよね。
 そうそう、三つ目の道路は、先月バイクの事故があったところよ。すごかったわよね、あれ。ニュースで見たのだけれど、バイクの運転手は即死ですって。
 話が脱線したわ。
 結局、私にはあの子が何を見ているのかわからないわ。お手上げ状態よ。
 本当、あの子は何を見ているのかしら……。
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