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魔法使いへの道

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 【魔法の心得】がどのようなものなのかはリタさんにもわからなかったが、かわりに【剣の心得】のことを教えてもらった。
 リタさんが【剣の心得】を取得したのは、彼女が十歳の頃だったらしい。リタさんのお父さんは元兵士で、剣の稽古をつけてくれていたそうだ。その稽古の目標が、「【剣の心得】の取得」だったらしい。リタさんが稽古のなかでしていたのは打ち合いのみで、モンスターを倒し始めたのは【剣の心得】を取得してから。つまり、どれくらい剣の練習に打ち込んだかが重要であり、モンスターの討伐数は関係がない。
 これを魔法に置き換えてみると、「魔法でどれくらいモンスターを倒したのか」ではなく、「どれくらい魔法を使ったのか」によって【魔法の心得】が得られるというわけで、つまり、こうすればいい。
「【ライトニング】……おやすみなさい」
 真っ暗な状態では寝られないため、光魔法で部屋を少しだけ明るい状態にしてから、ベッドの上で横になる。日常生活で積極的に魔法を使っていこうと心に決めて、重たいまぶたを下げた。

「おはようございます! 昨日は眠れましたか?」
「うん! ベッドふかふかだった!」
 翌日。宿屋一階の食堂へ降りていくと、リタさんが二人分の席を確保してくれていた。店員さんを呼び、リタさんと同じものを注文してから、今日することを相談する。
「とりあえず、野宿に必要なものを揃えないといけないよね?」
「そうですね。毎日宿屋に泊まるわけにはいきませんよね」
「だよね。とりあえず、テントと寝袋は必要かな? お金足りそうかな?」
「あ。そういった物も、武器や防具と同じで値段が下がっているらしいですよ? だから、揃えられると思います!」
 なるほどと頷いて、ちょうど運ばれてきたものを見る。おいしそうなツナサンドだった。

 必要なものを揃えた私たちは、昨日と同じ森へと向かう。
「この森を抜けて進んだ先に、ルート村という小さい村があるんです。まずはそこまで目指してみませんか?」
「そうだね。薬草が生えているところも訊きたいし」
 昨日ドロップ品を素材屋で売ったときに、薬草がどの辺りに生えているのかを訊いてみた。店主さんは「南の方に群生地があるというのを聞いたことはあるが、詳しくはわからない」と言っていたので、とりあえず南の方にある村で情報を集めていこうということになった。ルート村は、あの街から見てちょうど南に位置しているので、情報を集めることができるかもしれない。
 私たちはモンスターを倒しながら南へ進む。太陽が出ているころのモンスターはそこまで強くないため、リタさんが一撃で仕留めてくれる。私はまだ攻撃魔法を持っていないので、【鋼の守り】で防御力を上げたり【氷結】でモンスターの足止めをしたりと補助魔法を使い続けた。
 そして、夜。
「【フレイム】」
 集めてきた枝の山に火をつけ、モンスターからドロップしたお肉を串に刺して焼く。一部、食べていいのかわからないようなものもあったけれど、リタさんが「大丈夫」と言ったので食べてもいいのだろう。
 リタさんが、こんがりと焼けたお肉(ウサギとイノシシが合体したようなモンスターだったもの)を食べている。私も食べようか、と串に手を伸ばした瞬間。
「──あ。火が」
 消えた。さっきまで強すぎるぐらいに燃えていたのに……。けど、まあいいか。もう一回つけられるし。
「【フレイム】……あれ? なんで?」
 火がつかない。何度やってもつかない。え、なんで? さっきまで好調だったのに。
「ナナちゃん……?」
 リタさんが不思議そうな顔でこちらを見る。
「なにしてるんですか……?」
「なにって……火をつけようとしているんだけど、つかなくて」
 リタさんは首をかしげてジッと私を見つめ、そしてなぜかため息をついた。
「あの、ナナちゃん?」
「はい」
「MPって、知ってますか?」
「知ってるけど……あ、まさか」
 急いでステータスを開いてみると、思ったとおりMPがなくなっていた。
「……MPって、回復したっけ?」
「寝ると回復しますけど……でも、不思議ですね。ナナちゃんのMPって多いのに、なぜなくなったのでしょう」
 たしかに、謎だ。今日は魔法をたくさん使ったが、それでもMPの半分も使ってないはずである。
 ……いや、待てよ……? 
「……寝てるあいだの【ライトニング】?」
「え?」
 リタさんに話すと、なんとも言えない表情で「それですね」と言われた。
 魔法の効果を持続させるにも、MPが必要である。おそらく、昨夜の【ライトニング】のおかげで、MPが回復されなかったようだ。

 この夜、私は初めて真っ暗のなか眠ることとなった。
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