たとえばこんな恋模様

響 恭也

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プロローグ 動き出した二人の時間

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俺の初恋は隣の家のお姉さんだった。小さなころから遊んでもらってた優しい姉のような人で、ある日中学生になったお姉さんが制服を着て現れた。ガキの目にはお姉さんが大人で、綺麗で、憧れだった。それから、俺は前にも増してお姉さんにまとわりついていたのだ。
ときは流れて、そして俺とお姉さんの年齢差は詰まるはずもなく、仲の良い兄弟のような関係は変わらなかった。
「ねーちゃん、俺が大人になったらお嫁さんになって!」
と言うような黒歴史まっしぐらなセリフもニコニコ笑って聞いてくれたものである。
さらにときは流れ、高校を卒業してお姉さんは就職し、俺が高校生になったころ、同僚の俺より大人の男の人と結婚して引っ越していった。
まあ良くあるガキの初恋物語である。

7年後、俺は学校を卒業して社会人になった。盆休みを利用して、久しぶりに帰省することにした。
バスを降りると懐かしい海の香りともわっとした湿気を含んだ風が俺を包み込む。なんとなく深呼吸して家路についた。
実家に着くとなんか話し声が聞こえる。ただいまと声をかけ家に上がると、居間には隣のおじさんが来ていた。
「ただいま」
「あら、おかえり」
「おお、勇司君、おじゃましてるよ。立派になったね」
「ああ、お久しぶりです。ご無沙汰してます」
「あんな小さな子だったのに大きくなって」
「あー、高校でいっきに背が伸びたんですよ」
「そうか。うんうん」
「勇司、お母さんちょっとおじさんと話があるから」
「ん、わかった。とりあえず散歩してくるよ」
「済まないね、またあとで」

何があったんだろうか?疑問に答えてくれる相手はいないし、差し支えなかったらであとで説明あるだろと頭を切り替え、近所の散策に出かけた。
大学行ってる間はほぼ帰省しなかったので、4年ぶりの街並みだ。なくなった店を惜しんだり、最近できたらしいコンビニに入ったりと時間を潰す。
小一時間ぶらついて家に戻ると懐かしい人がいた。
隣のお姉さんだった。だが何かがおかしい。いつもニコニコしていた表情は、虚ろな視線を中空に彷徨わせ、頬もげっそりとこけている。あまりに変わり果てた面ざしに戸惑っていると、その時だけは昔と同じ表情を見せ、俺に声をかけてくれた。
久しぶりと話すが、どうも噛み合わない。夏なのに長袖のシャツを着ていたのも違和感だった。そして、うちからおじさんが出てきて、一旦会話が途切れたのをきっかけに、お互いの家に入った。

俺は母に事情を聞くことしか考えられなかった。ここで幸いしたのは、さすがに本人に問いたださないだけのデリカシーが備わっていたことか。
何故かやたら意気込んで実家のドアを開けたのだ。
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