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光の刃

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「この勢いのまま突き抜けろ! 突撃!」

「「応!!」」



「ケンタウロス隊! 続け!」

 もはや敵味方入り乱れているが、その中で矢を放つ。

 その狙いは正確無比で、切り結ぶ前に敵兵を射落として行く。

 切り結ぶときも、文字通り人馬一体のため、まともに押し合えば敵兵が吹っ飛ぶ。

 周囲はもはや陣列などあってないような状態の乱戦だった。



「はーーっはっはっはっはっは!」

 そんな中、哄笑しながら槍を振るうヴァレンシュタイン伯は鬼神のごとき強さを見せる。

 彼の周囲にはすでに何人ものケンタウロス騎兵が倒れている。

 中には真っ向から胸板を貫かれ、こと切れている者もいた。



「ちっ、化け物め。遠巻きにして一人で当たるな! 討ち取るのではなく動きを封じるんだ!」

「「応!!」」



 潰走した第一陣の兵が陣の中で態勢を整えられてはどんどんじり貧になる。

 時間との戦いだ。



「わーーははははははははは! 見ろ、周り獣敵だらけだ! 草原の勇者たちよ! 最強の戦士たちよ! 俺様に続け!」

 大剣を振るいながらヴォルフガングが周辺の兵に檄を飛ばす。

 そんな彼の背後から近寄ろうとした敵兵が射抜かれる。

「周りを見ろニャ!」

「おう、すまねえ」

「みんな! 敵の後方を狙って足止めするニャ!」



 重装歩兵が槍を連ね、陣形を組んで敵騎兵を槍玉にあげていく。どっちが優位か全くわからない、ひたすら目の前の敵を倒す。そんな時間が無限のように過ぎていく。



「アル殿。らちが開かぬ。我があ奴を抑える故、何とかしてくだされ!」

「っておい、テムジン!」

「ぬおおおおおおおおおおおおお!」

 すさまじい雄たけびと共にテムジンがヴァレンシュタイン伯に突きかかる。



「おう、良き敵を得たぞ。名を聞こう」

「うらうらうらうらああああああああああああああ!」

「ふふ、その槍こそがお主の名か。よろしい。ヴァレンシュタイン伯アルブレヒト、参る!」

「我は一介の草原の戦士よ。討ち果たして見せよ!」



 あまりに激しい一騎打ちに周囲の兵が遠巻きにしてぽっかりと穴が開いた。



「テムジンが時間を稼いでくれている。今のうちに陣を突破する!」

「ああ、アル殿。部隊の運用は私に任せてくれないかい?」

 こんな修羅場でも穏やかな笑みを崩さないブラウンシュヴァイク公がいっそ不気味だ。

「わかった、お任せする。俺は前線に出ます」

「まあ、ここがすでに前線だけどねえ。じゃあ、やりますか、と」

 ブラウンシュヴァイク公は自分の直轄部隊を100ほどの少数に編成しなおした。そして、番号を振ってその舞台を出し入れする。



「3番隊、前進。4番隊と交戦中の敵集団の側面をつけ!」

「7番隊後退。8,9番隊は後退を援護するんだ!」

「2番隊突撃、あの一点を突破しろ!」



 堅牢極まりなく見えていた敵陣が徐々にほころびを見せている。



「アル殿!」

 ブラウンシュヴァイク公からの伝令が来た。

「おう、ご苦労。令を聞こう」

「はっ、間もなく攻勢をかけるので、敵陣があのあたりに隙ができるとのこと。そこを衝けとのお言葉です」

「承知した」

 ブラウンシュヴァイク公の指揮に従って、兵たちが複雑な機動を見せる。敵兵は押し込まれ、釣りだされ、そして包囲され突き破られた。

「そこだ、中央突破を仕掛ける!」

「よし、続け!」

 俺がカタナで指し示した一点はちょうど兵が前列の交代をしている一点だった。要するに一時的に最前線の兵がいない部分になっている。

 命令を下そうとした瞬間ほぼ反射的にヴォルフガングが突っ込んで行った。



 ふと気になって視線を巡らせる。いまだ激しさが衰えない一騎打ちは勝敗の天秤をどちらに傾けるか、いまだ決していないようだった。



「かかれ!」

 交代して、戦列が入り混じっている一点。疾駆していく兵たちを見送りながら俺は弓を弾き絞る。

「はあ!」

 ガンと叩きつけるような音とともに弦が解き放たれ、矢が一文字に疾る。

 混乱を収めようとしていた指揮官が射抜かれ、吹っ飛ぶように後方へはじけ飛んだ。

 同じように3人の指揮官を射落とし、そのままカタナを抜いて今まさに斬りあいを始めている地点へと趣き、数名の敵兵を斬り倒す。

 ひるんだ敵兵を見て勢い付いたヴォルフガングが、狼の本性そのままに獰猛に敵陣を荒らしまわる。



「主殿、門が閉まる」

 神鳴の言葉に前方を見やると旗色悪しと見た陣から退却の合図と思われる太鼓やラッパの音が聞こえてきた。

「陣を攻めるとなると、いったんこっちも立て直さんと……」

 いや、無理だ。連戦で兵は疲労し始めている。ここで一息入れてしまえば立ち上がれない兵も出てくるはずだ。

 一気呵成に陣を抜かなければ継戦は不可能だ。というところまで考えて俺は切り札を一つ切ることにした。



「全軍待機、突撃体制を維持したまま待て!」

「「応!!」」

 ふと傍らを見ると、上半身を朱に染めたテムジンがぜえぜえと息を乱しつつも目をらんらんと輝かせている。

「……大丈夫か? と聞くのは野暮なんだろうな」

「然り。彼の勇士と刺し違えることができれば我は本望だ」

「……子が生まれたと聞いている。後のことは任せてくれ。あんたに負けない勇者に育てると誓う」

「ふ、心配ご無用、我が血を引くならば如何なる環境に置かれようと我を超えていくに決まっておる」

 そう言ってがははと大笑する姿は、これから死地に赴く悲壮感はかけらも見えず、ただ雄敵と渡り合う喜びだけが見て取れた。



「では、行く」



 俺はカタナを抜き放つと、そこに魔力を巡らせる。

「雷切よ、雷獣ヌエよ。閃光の刃を今ここに顕現されたし……」

 頭上がにわかに掻き曇り、ごろごろと雷の音が鳴る。

 抜き放ったカタナを頭上に掲げると、カッと一条の雷がカタナに落ちる。



「ぬああああああああああああああああああああああああ!!」

 荒れ狂う雷鳴を気合で抑え、束ねる。

「ハアッ!」

 拍車をかけ陣に向け駆けだす。俺の周囲は雷をまとい、敵から降り注ぐ矢は近寄るだけで焼き払われ俺の身に届くことはない。

「おおおおおおおおああああああああああああああああああああ!!」

 雄たけびを上げ、唐竹割にカタナを振り下ろす。

 閃光が真一文字に疾り、偃月の刃が飛翔して……門扉を斬り裂いた。

 命中した瞬間、四方に落雷したかのような轟音が鳴り響く。



 敵陣の混乱を見て取ったヴォルフガングとテムジンが配下の兵を率いて突撃を開始した。
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