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その真意は

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「は?」

「うぇ?」

 俺たちはそろって間抜けな顔を晒していたのだろう。ブラウンシュヴァイク公が顔の下半分を押さえ、プルプル震えている。



「まあ、あれだ。私も君たちと同じ境遇でね」

「はい!?」

 急展開過ぎて思考がついて行かない。ふと隣を伺うとフレデリカも同様の状態のようで、ポカーンと口を開けていた。

「まあ、やってみるがいい」

「は、はい……ステータスオープン!」



 目の前に半透明の窓が現れた。



ステータス

Name:有田義信

LV:18

STR:B+

VIT:C-

INT:A-

AGI:B+

MNG:C-



スキル:戦術眼 戦略の知識 剣術 カリスマ



 なんだこりゃ。気になって、ステータスの表記を指でつついてみた。すると、説明が現れた。



 STR:筋力 E~S 攻撃力、防御力全般に作用する。

 それぞれにプラスとマイナスがついて18段階評価だそうだ。

 INT:知識 魔法の行使、軍の指揮に効果を及ぼす。



「ちなみに、Aランクは将軍にもそうそうはいないぞ」

「……見えていらっしゃる?」

「いや、ステータスは本人にしか見えないようだ。私は看破のスキルがあるのでな。何となくだがわかる」

「そういったスキルの情報は秘匿すべきなのでは?」

「まあ、正論だ。これは私から君たちにあらわす誠意の一つと取ってくれたらいい」

 うん、言いたいことはわかるが胡散臭すぎる。しかし、彼の言っていることは事実ではあった。看破のスキルとやらが、どの程度のステータスが見えるのかはわからないけど、場合によってはこっちの情報が筒抜けになっているくらいは覚悟しておこう。

「ちょっと! まさか……その看破とやらでここら辺って見えてないわよね?」

 フレデリカが何もない虚空を指さしている。今、ステータスを確認しているのであれば確かに見えていない。

「ほうほう、どちらですかな……? ぶは!?」

「見えてるんじゃないの!」

 フレデリカはどこからともなく取り出したハリセンでブラウンシュヴァイク公をシバキ倒したのだった。

「誤解だ! ただステータス画面になんでスリーサイズがあるのかって、ぐぎゃあ!?」

 腰の入った構えから繰り出される双掌打はブラウンシュヴァイク公のボディに叩き込まれ、もんどりうって転がっていった。

 クラウスはそんな有様をうすら笑いを浮かべてみているが、いいのか? 主君が暴行を受けてるぞ?

「お気になさらず。あの程度でダメージを受けるようなやわな鍛え方はしていません……って、あれ!?」

 見事にノックアウトされている姿を見てクラウスが目を見開いた。

「ふふん、ただの掌打じゃないわ。打ち方に秘伝のコツを加えて、衝撃を内部に波で叩き込んだのよ。名付けて浸透掌波」

「ちょ、衛生兵! 衛生兵はどこだ!」

 原理はよくわからないが、掌打を当てるタイミングをわずかにずらし当てる時のひねり込み方で波を起こすとかなんとか。

 ちなみに、寸頸もいけるらしい。何この人間兵器。



「うっ、ごほ!」

 ブラウンシュヴァイク公が目覚めた。

「元の世界に戻って死んだはずの両親が手招きしてましたぞ……」

「帰って来てしまって残念かな? なんならもう一回送りますわよ?」

「いや、遠慮しておきます」



 とりあえず一度空気を換えるためにお茶が運ばれてきた。

「紅茶かと思ったけど……緑茶なのね」

「ああ、故郷の味というやつだ」

「ってことは貴方も?」

「うん、こんな形になったけどね。死ぬ直前までは老人と言ってもいい年齢だったはずだ」

「やはり生まれ変わっていた?」

「ああ、そうだね。気づいたときは5歳かそこらでね。そこに老人の人生経験が入ったもんだから……」

 当代のブラウンシュヴァイク公は神童と名高いとの話をそういえば聞いた覚えがあった。

 公爵家の跡取りではなく、兄が5人いたがすべて排除された。暗殺を仕掛けて返り討ちにしたり、長兄との戦いは軍を率いての会戦となり、自ら陣頭に立って突撃を率いた。

「そうそう、私はもともと閣下の兄上に仕えておりまして」

「寝返った?」

「いえ、処刑されそうなところを救っていただきまして」

「だから仕えている?」

「それもありますが、どうせ仕えるなら優れた主に、って誰もが思いませんかね?」

「道理だな。であればうちの兵たちを高く買っていただきたい」

 探るような目線を向けるとブラウンシュヴァイク公は、首を横に振った。

「俺の兵たちはいらないと?」

「いえいえ、そういうつもりじゃなくてね。私は皇女殿下の配下となりますから」

「ですな。で、俺がその麾下に加わる。おかしいところはないでしょう?」

「いえいえ、皇女殿下の夫君でしょう? 良くて同格、場合によっては格上ですからね?」

「いや……俺にそのつもりはないんだけど」

「なってもらわないと困ります」

「ですよね。公爵」

「ええ、そもそも、大貴族の立場ですら息苦しいのに」

「皇帝ともなれば……考えただけでぞっとしますわ」

「そもそも、公爵の地位もいらないんですよ。私は兄上を支えるって誓約しましたからね?」

「とってかわられる恐怖に負けたのね。まあ、その程度の器じゃどうしようもないか」

「難しいものです。で、そこのアル殿ならばね」

「わたくしが居ても受け入れてくれそうですし」

 根拠は何だと問い詰めたい会話は、俺が口をさしはさむ余地もなく進んでいくのだった。
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