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第3話 初めての決戦
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俺は少数の騎兵を率いて敵の前に出た。逃げる前提なので軽装である。槍も持っていない。
「反乱軍の犬っころどもに告げる! 今すぐ武器を捨て皇帝陛下に降伏せよ!
今なら貴様ら無能どもでも命だけは助けて下さるとのありがたい仰せだ。這いつくばって感謝するがいい!」
俺が声を張り上げて主張するが、さすがにこの程度の挑発では出てこない。最前列にいる立派な甲冑姿のオッサンが顔を真っ赤にしているのを見つけた。最初の的はこいつだ。
「ふん、無能であるだけではなく臆病なのか。ならば貴様らは陛下の手によって皆殺しにされるがいいだろう。まずは手土産にこれでもくらえ!」
弓を引いて適当に放つ。うまい具合に顔を真っ赤にしている騎士の兜に当たって矢が跳ね返った。
すらりと剣を抜き、制止を振り払ってこっちに向けて走ってくる。そして敵の出方をうかがう。冷静な指揮官ならば、馬鹿一人は見殺しにするだろう。
そして……俺は賭けに勝った。
「エーガー卿を討たすな!」
介添えとしてこっちの倍ほどの歩兵が繰り出される。そこにメイスを片手にケネスが突っ込んで蹴散らした。エーガー卿とか言うオッサンはケネスに胸甲を砕かれ悶絶している。
ひとあてしようとした部隊が蹴散らされ、敵の指揮官はまずいと感じたのだろう。このままでは味方がひるむと。
そして彼の思考は単純だった。十人でダメなら百人出せばいいじゃない。
ただ少しは学習していたようで、槍を構えた兵はわらわらと隊列を組んで向かってくる。
「よし、全員……逃げろ!」
俺のすっとぼけた指示に苦笑いしながら騎兵たちは馬首を返す。
「逃がすな! 我がピート・ヘインの名に懸けて、あの不届きものどもを皆殺しにせよ!」
背後からなんか怒声が聞こえてくるが、馬の速さに歩兵がついてこれるわけもなく、敵兵は置き去りになっている……はずだった。
「アル! 左後方、騎兵だ!」
並走していたケネスが声を上げる。
振り向くと十ほどの騎兵がこちらに迫ってくる。
「手はず通りに」
ドドドドドと馬が駆ける音にかき消されまいと俺は声を張り上げた。
味方の陣の方向に進む。敵兵もある程度はこちらの布陣位置を確認しているのだろう、少し足が鈍った。
それはそうだ。二千が待ち構えている陣に十ほどで突っかかっても皆殺しになるだけだ。
というか、さらに背後を見れば何やら土煙が上がっている。
「アル、ありゃあ全軍が動いているっぽいぞ?」
「えーっと、アホですか? あの指揮官」
オラニエ公の本隊がいなければ兵力はほぼ拮抗している。というか、兵力の優位という点なら、皇帝軍の本隊がやってくるこちらに利がある。つまるところお互い兵力は分散しているのだ。
兵力は集中して初めて意味がある。だからこそ、総大将たるオラニエ公は諸侯軍に合流が成るまでは動くなと命じていたはずだ。しかしこっちとしてみれば好都合だ。小規模な戦いを繰り返す手間が省けた。
俺たちは敵をおびき寄せるために兵を伏せている地点に逃げ込んだ。そうこうしているうちに敵の先遣隊がやってくる。
騎兵を先発させるなど目端の利く指揮官のはずである。数は三百ほどか。ただこちらを少数とみて油断があったのか、何の備えもなしに陣列も乱れたまま駆けてくる。
「放て!」
あらかじめ潜んでいた伏兵が矢を雨あられと降らせる。甲冑を着こんでいる騎士クラスの者でも隙間に当たれば傷を負う。ましてや簡易な武装しかしていない駆り出された兵ならばなおさらだった。
一撃で急所を射抜かれて絶命すればまだいい方で、負傷して倒れ、後続の兵に踏みつぶされるなど、修羅場が発生していた。
そして手はず通りに、敵兵が矢で攻撃を受け、足が止まったところに反対側から軽歩兵による強襲が始まった。俺は計画通りに進む戦況に胸をなでおろしていた……その先頭にありえない顔を見るまでは。
っておい、ガイウスのオッサン!? 二千を率いる総大将がなんで真っ先に突撃してやがりますか!?
雄たけびを上げ大剣を縦横無尽に振り回す姿に味方の兵は鼓舞されて、敵兵は怯んでいる。一応無意味ではない。
「うおおおおおおおおおい!?」
思わずあげたツッコミの叫びは鬨と勘違いされ、俺の周囲の兵が喚声を上げる。そのまま俺の騎兵小隊は突撃に移行した……なんかよくわからん流れで。
とりあえず、ケネスを先頭に三角形の陣形を組む。俺はその中央にいる。混乱して右往左往する兵を蹴散らし、文字通り馬蹄にかける。
先遣隊は文字通り崩壊して逃げていった。弓兵の奇襲からここまでわずか数分の出来事である。
「野郎ども! 陣に向けて引き揚げろ!」
返り血で真っ赤に染まったガイウスはまさに鬼神のようだった。
先遣隊の有様を見て敵兵は少し士気を下げたようだが、味方の敗戦にさらに頭に血が上ったようだ。
こちらの備えは、岩山を背に陣を張ることだ。そしてただ陣を張るのではなく、魔法を使って工事を行ったことだ。
斜面を水平に削り、段差を作る。削った土は盛り上げ土塁にする。土塁にはいくつか兵を出撃させるための隙間を作るが、そこには虎口を仕込んだ。通路をコの字型にして、歩く距離を伸ばしてある。
そして遮蔽物はない。ここを通るまでにどれだけの矢が降り注ぐのか。考えたくないね。
土塁を登ろうにも魔法で加工してツルツルにしてある。登ろうとした端から滑り落ち、そこに矢が降り注ぐ。
攻撃は当然虎口に集中するが、それこそが罠だ。死者や負傷者で通路が埋まり、身動きが取れなくなる。そして、負傷者を救助しようとしてさらに損害が増えると言った様相だ。
そうこうしているうちに敵は業を煮やしたのか、切り札を投入してきた。
ブワッと熱風が吹き付ける。上空には巨大な火球が現れていた。
「全軍、退避せよおおおおおおおお!!!」
ガイウスの絶叫に、俺は初めて見る光景から目を離し、後方の陣に向かって全力で逃走した。
腹に響く重低音。虎口付近は爆風で吹き飛ばされ、陣に大きな穴が開いていた。砲撃とか爆撃ってほどの被害の大きさである。そして味方を巻き添えにしやがった。
その事実に俺は歯噛みする。
「戦場だ。切り替えろ」
ガイウスのオッサンにスパーンと後ろ頭を叩かれた。
「わかってる。合理的な判断だ。救助できない状況だった」
「ふん、しかし末端の兵はそんなことは理解できねえ。見ろ、完全に足が止まってやがる」
「効果はあったか……」
「時間稼ぎするならな。ただ、睨み合ってりゃよかったはずの状況であんだけ被害出しちまったらもう後には引けねえだろ」
「ああ、最終段階に移る!」
「反乱軍の犬っころどもに告げる! 今すぐ武器を捨て皇帝陛下に降伏せよ!
今なら貴様ら無能どもでも命だけは助けて下さるとのありがたい仰せだ。這いつくばって感謝するがいい!」
俺が声を張り上げて主張するが、さすがにこの程度の挑発では出てこない。最前列にいる立派な甲冑姿のオッサンが顔を真っ赤にしているのを見つけた。最初の的はこいつだ。
「ふん、無能であるだけではなく臆病なのか。ならば貴様らは陛下の手によって皆殺しにされるがいいだろう。まずは手土産にこれでもくらえ!」
弓を引いて適当に放つ。うまい具合に顔を真っ赤にしている騎士の兜に当たって矢が跳ね返った。
すらりと剣を抜き、制止を振り払ってこっちに向けて走ってくる。そして敵の出方をうかがう。冷静な指揮官ならば、馬鹿一人は見殺しにするだろう。
そして……俺は賭けに勝った。
「エーガー卿を討たすな!」
介添えとしてこっちの倍ほどの歩兵が繰り出される。そこにメイスを片手にケネスが突っ込んで蹴散らした。エーガー卿とか言うオッサンはケネスに胸甲を砕かれ悶絶している。
ひとあてしようとした部隊が蹴散らされ、敵の指揮官はまずいと感じたのだろう。このままでは味方がひるむと。
そして彼の思考は単純だった。十人でダメなら百人出せばいいじゃない。
ただ少しは学習していたようで、槍を構えた兵はわらわらと隊列を組んで向かってくる。
「よし、全員……逃げろ!」
俺のすっとぼけた指示に苦笑いしながら騎兵たちは馬首を返す。
「逃がすな! 我がピート・ヘインの名に懸けて、あの不届きものどもを皆殺しにせよ!」
背後からなんか怒声が聞こえてくるが、馬の速さに歩兵がついてこれるわけもなく、敵兵は置き去りになっている……はずだった。
「アル! 左後方、騎兵だ!」
並走していたケネスが声を上げる。
振り向くと十ほどの騎兵がこちらに迫ってくる。
「手はず通りに」
ドドドドドと馬が駆ける音にかき消されまいと俺は声を張り上げた。
味方の陣の方向に進む。敵兵もある程度はこちらの布陣位置を確認しているのだろう、少し足が鈍った。
それはそうだ。二千が待ち構えている陣に十ほどで突っかかっても皆殺しになるだけだ。
というか、さらに背後を見れば何やら土煙が上がっている。
「アル、ありゃあ全軍が動いているっぽいぞ?」
「えーっと、アホですか? あの指揮官」
オラニエ公の本隊がいなければ兵力はほぼ拮抗している。というか、兵力の優位という点なら、皇帝軍の本隊がやってくるこちらに利がある。つまるところお互い兵力は分散しているのだ。
兵力は集中して初めて意味がある。だからこそ、総大将たるオラニエ公は諸侯軍に合流が成るまでは動くなと命じていたはずだ。しかしこっちとしてみれば好都合だ。小規模な戦いを繰り返す手間が省けた。
俺たちは敵をおびき寄せるために兵を伏せている地点に逃げ込んだ。そうこうしているうちに敵の先遣隊がやってくる。
騎兵を先発させるなど目端の利く指揮官のはずである。数は三百ほどか。ただこちらを少数とみて油断があったのか、何の備えもなしに陣列も乱れたまま駆けてくる。
「放て!」
あらかじめ潜んでいた伏兵が矢を雨あられと降らせる。甲冑を着こんでいる騎士クラスの者でも隙間に当たれば傷を負う。ましてや簡易な武装しかしていない駆り出された兵ならばなおさらだった。
一撃で急所を射抜かれて絶命すればまだいい方で、負傷して倒れ、後続の兵に踏みつぶされるなど、修羅場が発生していた。
そして手はず通りに、敵兵が矢で攻撃を受け、足が止まったところに反対側から軽歩兵による強襲が始まった。俺は計画通りに進む戦況に胸をなでおろしていた……その先頭にありえない顔を見るまでは。
っておい、ガイウスのオッサン!? 二千を率いる総大将がなんで真っ先に突撃してやがりますか!?
雄たけびを上げ大剣を縦横無尽に振り回す姿に味方の兵は鼓舞されて、敵兵は怯んでいる。一応無意味ではない。
「うおおおおおおおおおい!?」
思わずあげたツッコミの叫びは鬨と勘違いされ、俺の周囲の兵が喚声を上げる。そのまま俺の騎兵小隊は突撃に移行した……なんかよくわからん流れで。
とりあえず、ケネスを先頭に三角形の陣形を組む。俺はその中央にいる。混乱して右往左往する兵を蹴散らし、文字通り馬蹄にかける。
先遣隊は文字通り崩壊して逃げていった。弓兵の奇襲からここまでわずか数分の出来事である。
「野郎ども! 陣に向けて引き揚げろ!」
返り血で真っ赤に染まったガイウスはまさに鬼神のようだった。
先遣隊の有様を見て敵兵は少し士気を下げたようだが、味方の敗戦にさらに頭に血が上ったようだ。
こちらの備えは、岩山を背に陣を張ることだ。そしてただ陣を張るのではなく、魔法を使って工事を行ったことだ。
斜面を水平に削り、段差を作る。削った土は盛り上げ土塁にする。土塁にはいくつか兵を出撃させるための隙間を作るが、そこには虎口を仕込んだ。通路をコの字型にして、歩く距離を伸ばしてある。
そして遮蔽物はない。ここを通るまでにどれだけの矢が降り注ぐのか。考えたくないね。
土塁を登ろうにも魔法で加工してツルツルにしてある。登ろうとした端から滑り落ち、そこに矢が降り注ぐ。
攻撃は当然虎口に集中するが、それこそが罠だ。死者や負傷者で通路が埋まり、身動きが取れなくなる。そして、負傷者を救助しようとしてさらに損害が増えると言った様相だ。
そうこうしているうちに敵は業を煮やしたのか、切り札を投入してきた。
ブワッと熱風が吹き付ける。上空には巨大な火球が現れていた。
「全軍、退避せよおおおおおおおお!!!」
ガイウスの絶叫に、俺は初めて見る光景から目を離し、後方の陣に向かって全力で逃走した。
腹に響く重低音。虎口付近は爆風で吹き飛ばされ、陣に大きな穴が開いていた。砲撃とか爆撃ってほどの被害の大きさである。そして味方を巻き添えにしやがった。
その事実に俺は歯噛みする。
「戦場だ。切り替えろ」
ガイウスのオッサンにスパーンと後ろ頭を叩かれた。
「わかってる。合理的な判断だ。救助できない状況だった」
「ふん、しかし末端の兵はそんなことは理解できねえ。見ろ、完全に足が止まってやがる」
「効果はあったか……」
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