箱庭の英雄~滅んだ世界を立て直すために古代遺跡から始まる内政ライフ~

響 恭也

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大地の恵み

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 僕の放ったエーテルの矢はベフィモスを貫いた。

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAN!」

 僕の放ったエーテルが魔獣の体内にしみこみ侵食して行く。



 僕の影からフェンリルが現れた。

「ベフィモスヨ。キサマモワガアルジニツカエルガヨイ」

「GU、GURURU?」

「ウム、ワルイヨウニハセン」

 すると、ベフィモスの身体がエーテルに還元されていった。



「殿。鉱山を中心に捻じ曲げられていたエーテルが元に戻っていきますぞ」

「ああ、これがダンジョンの開放、ってこと?」

「い、いや、そもそもダンジョンの最深部にこれほどまでの存在がいること自体まれなのですじゃ」

「そうなんだ。要するにえらいこっちゃってことだね」

「ま、まあそうですな」

 大地から吸い上げたエーテルが地脈に戻り還元されていく。

 そして、僕の目の前にはちょこんと座る小動物がいた。頭と尻尾にはもこもこの毛並み。四肢にはガッツリと鋭い爪。額には一本のツノ。

 そして目はつぶらで愛嬌を振りまいている。



「ふおおおおおおおおおおお!」

 アリエルが目にも止まらない速さでその生き物を抱き上げた。



「アルジヨ。ワガトモ、ベフィモスヲヨロシクタノム」

 とりあえずアリエルにもみくちゃにされているのをひょいッと持ち上げた。

 きゅるんとした目で僕を見つめ、クイッと首をかしげる。

「はっ!」

 気づいたときにはむぎゅッと抱きしめていた。

「殿……」

 アリエルがジト目で僕を見ている。



 とりあえず、フェンリルと同じようにベフィモスとも契約を結んだ。都市のエーテル効率で、土属性が大幅に上がった。

 城壁の強度が大幅に上がり、また土木工事の効率が上がり、施設の強度も上がった。

「おお、すごいな」

 チコの解説に僕は頷く。いろいろと停滞気味だった都市の開発に当たらな活力をもたらしてくれるだろう。



 鉱山開放と、冒険者の救助に成功したという知らせで、ガルニアは歓呼にわいた。特にドワーフたちは鉱山から来る素材が増えることで大喜びしている。

 土のエーテルが豊富になったことで、食料生産が向上した。また作物の種類が増え食事の質も向上した。

 おかげで商人たちは大喜びだ。商売が活性化したことで出回る商品が増える。

 鉱山への立ち入り許可や商売の許可で書類仕事に忙殺される。

 冒険者から、ガルニアの兵への応募も増えた。冒険者でもこれほどの待遇ならば、都市に仕える立場になれば……というわけだそうで。



 そんなある日のこと、アルバートから連絡があった。

「おお、殿。ご足労感謝いたしますぞ」

 練兵場も最近増築された。鉱山から良質の石材が採れるようになったことが大きい。

 そこには新たに兵になった元冒険者たちが、教官役の戦士に尻をけ飛ばされながら息も絶え絶えに走っている。

「そんなことでガルニアを守れるか! 走れ走れ走れ!」

「「サー! イエッサー!」」



「えーっと、あれは?」

「はい、軍人上がりの冒険者がいたので」

「うん、やり方を変えたってこと?」

「何やらブートキャンプというやり方らしく」

 それは基礎訓練という意味で、まずは徹底的に心身に負荷をかけて追い詰めると。のちに真っ白になった精神に軍の精神を叩き込む。

 そして、集団行動を教えていく。もともと冒険者は食い詰めてなったものも多い。規律とかモラルは期待できない。

 そして腕っぷしですべてを解決しようとする。それ自体はまあどこにでもある話だ。

 ただ、軍として兵となる以上は樹率は守ってもらわないと下手すれば味方を危険にさらす。だからこそ、ここでしっかりと規律を叩き込むのだそうだ。



「兵の数も増えて、俺だけではなかなか目が届かなくなってきまして」

「ああ、それは以前から聞いていたよね。いい人材が見つかった?」

 と、突然アルバートの背後から人影が飛びついてきた。



「ニャは――――!」

「おい、こら! セリア!」

 僕の顔に何かムニムニと柔らかいものが押し付けられる。その正体に気づいた瞬間、僕の顔がものすごく熱くなった気がした。

 ヒュッと風切り音がして、僕の顔のそばを何かが通り抜けていく。

 ガスッと地面に矢羽近くまでめり込んだ矢。そしてこちらを般若の形相で見ているアリエルだった。

「アルバート。殿に胡乱な女を近づけないで!」

「胡乱とは何事ニャ! ニャーはセリア! 獣人族の長の一族ニャ!」

「ふん、わたしはミラリムの族長よ!」

「そんなド田舎の森のことなんか知らないニャ!」

「「ああん!?」」

 なんか鼻先が触れ合いそうな至近距離でにらみ合う二人。



「アルバート…?」

「えーっと、あの、もうしわけありません」

 まさかの事態にアルバートの謝罪も棒読み気味だ。困惑するアルバートというのはなかなかに珍しいので、少し笑いが込み上げてきた。

 普段は果断なところを見せることが多いだけに、あっけにとられている姿にこちらが笑えて来た。

 そういえばアリエルはどこから来たんだろう? 今の時間は領内の巡察に出ているはずだが……?



「あー、アリエル?」

「はい!」

「仕事は?」

「殿の身命以上に大事なことはありません!」

「いや、僕別に危険な目に遭ってるわけじゃないんだけど?」

「そこにいるじゃありませんか!」

 アリエルは僕とセリアと名乗った少女の間に体を割り込ませ、ズビシッと指を突き付けた。

「ニャーは胡乱でもなんでもないニャ!」

「というか、何のつもりで殿に近づいたの?」

「そんなの決まってるニャ。ニャーたちは強い男を探してるのニャ。だからトノ様にニャーの番になってほしいのニャ!」

「はあ!?」

「伝説の魔獣を調伏するとかとんでもないニャ。ニャーの旦那にふさわしいニャ!」

「そんなのわたしが許しません!」

「エルフのオバさんに指図されるいわれはないニャ!」

 練兵場のど真ん中で二人は怒鳴りあい、ついには取っ組み合いを始めた。

 レベル70以上の二人が取っ組み合いとなると、非常に高度なフェイントやスキルを使った戦いになる。

 しまいには人垣ができて、掛札の販売が始まった。



 やれやれと肩をすくめるアルバート。

「うむう、困ったもんですな」

 まるで他人事のようにぼやく。

「「誰のせいですか(ニャ)」」

 この時ばかりは二人で息の合った攻撃で飛び蹴りが炸裂し、アルバートは沈んだ。



 ちなみに二人の取っ組み合いは引き分けに終わったそうだ。



 そうそう、鉱山からミスリルとクリスタルの鉱脈が見つかり、採掘がはじまったと報告を受けた。

 それにより、アリエルは仕事だと引っ張って行かれる。

「仕事を放りだす人は好きじゃない」

 僕のその一言にくるっと手の平を返す速さは見事というほかなかった。



「獣人族の小隊作って旦那の護衛を担うニャ。ニャーがいる限り不届き者には指一本触れさせないニャ!」



 ドヤ顔で宣言するセリア。彼女の隣には困り顔でこめかみを押さえる槍使いの青年がいた。
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