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閉ざされた通路
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歩きはじめると違和感を感じた。
「ねえ、レギン。なんかおかしくない?」
「……お気づきですか」
「なんとなく、なんだけど……そこの天井の出っ張り、さっきも見た気がするんだ」
「うむ、ワシの見立てですがおそらくは……」
「空間がねじ曲がっているのよね?」
アリエルにセリフを先に言われてしまいぶぜんとするレギン。
「う、うむ、そう思われる」
「どうしたらいい?」
するとブレスレットからひらりとチコが現れる。
「なかなか厄介よ。結界自体は破壊できるけど、その威力で坑道が崩れてしまうわ」
「……なんてこった」
アルバートががっくりと膝を落とす。というか、この程度のピンチで折れるほど繊細じゃないし、おそらくボケているだけなんだろう。
「んで、チコ殿。対策を聞きましょう」
「……ええ、結界のほころびを探しましょう」
「承知」
アルバートが壁にピックを突き立てた。崩れないように叩いて固めてあるはずなんだけど、砂地に刺すようにさくっと入った。
ピックにはアルバートのエーテルがこめられ、ポッと明かりが点る。
「これを目印にしましょう」
「……脳筋のくせに頭が回るじゃない」
同じようなことをしようとしていたのか、手に持った投げナイフをいそいそとしまい込むアリエル。
エーテルの糸を伸ばしつつ歩く。そして特に何も異常を感じられないままアルバートが突き立てたピックの場所に戻ってきた。
「うーん、ほころびらしきものはなかったねえ」
「次はわたしもやるわ」
チコもエーテルを展開する。なお、彼女の身体は僕がエーテルを練り上げて作ったものなので……消費するのは僕自身のエーテルだ。
再び歩き出す。そして何も見つからないままに元の地点に戻る。
さすがに焦りが見えてきた。
「……そうだわ」
アリエルが何か思いついた顔をした。
「何か気づいたのかい?」
「発想を逆転しましょう。この領域はおそらくわたしたちの進行方向に向けて張られている。そしてこれを創り出した存在は、わたしたちに会いたくない」
「それはそうじゃろな。ここまでしておるんだから」
「だから逆方向にはすんなり行けるんじゃないかと」
「一度閉鎖された空間を抜けて回り込めばいいってことか」
「そうです」
僕たちは元来た道を引き返した。すると拍子抜けするくらい簡単に広間に戻れた。
「ここね!」
チコがエーテルの糸を伸ばす……ほどなく彼女は僕に満面の笑顔を向けてきた。
「あった!」
彼女の指さす先に目を凝らす。
「うわあ……」
それこそネズミ一匹通れるかどうかの隙間があるだけだった。
「マスター!」
チコの言いたいことはすぐ理解できた。
「クリエイト……小さき命よ、我が手のひらに在れ!」
僕の手の上にはエーテルを凝縮したネズミが一匹いる。
チュッと鳴き声を上げると、そのまま素早い足取りで結界の隙間を通り抜け、歪曲されていない通路に無事入ったのがわかった。
アルバートが突き立てた位置を把握するためにピックがなかったこともその証拠だ。
僕の焦燥が乗り移ったかのように新たに作られた使い魔は、全力で坑道を駆け抜けていくのだった。
ほどなくして冒険者たちの一行に追いついた。そして通路の先の生土仮には広い空間があって、そこに封じられた魔獣がいることまでも判明した。
「アリエル」
「はい?」
僕はアリエルの手を取った。
「目を閉じて」
「ふぇ!? あ、は、はい!」
僕の使い魔から届いた視界の情報を彼女にリンクする。
「え? なんですかこれ!?」
「うん、さっき放った使い魔の視界。ちょっと感覚をリンクさせた」
アリエルがぶるりと身を震わせた。
「え、待って。そんなこと、どうやったらできるの?」
「なんとなく?」
ネズミの視界には、巨大なクリスタルが映っていた。その中心部では、魔獣が体を丸めて眠っている。
その中は粘性の高い液体に満たさているように見えた。そして周囲から吸い上げられたエーテルが脈動し、魔獣に流れ込んでいる。
魔獣の目が開き、ネズミと目が合った。直後、冒険者たちが広間に到着する。魔獣が自らのエーテルを放射し、周囲にゴーレムを召喚する。
そして、鉱石を食らう魔物や、亜人などが湧き出るように現れている。
冒険者たちはこれまで抑圧されていたエーテルが解放されたことで、潜在能力が目覚めたようだ。
マップに示されている彼らのレベルがかなり上がっている。
そして、これまでなら4人がかりで何とか戦えていたくらいの相手をなぎ倒していく。
ただ、それは時間稼ぎで封じられていた魔獣。土の精霊が裏返ったエーテルに汚染された存在。
精霊王ベフィモスだった。
「殿、まずいです! あんなのが野放しになったら……」
「そうだね。術式展開!」
ネズミの中に仕込まれていた魔法陣が虚空に映し出される。使い魔を構成していたエーテルをトリガーとしてこの場所とあの場所をつなぐ特異点がつながった。
「転移!」
高いところから落下するような浮遊感。直後景色が塗り替わる。
僕たちの目の前では巨大なクリスタルに亀裂が入り、崩れ落ちるところだった。
目の前に巨大なゴーレムが立ちはだかる。アリエルが放った矢がゴーレムを打ち抜く。
大小のゴーレムはレギンが砕いていく。冒険者パーティのドワーフと目が合うと、そのドワーフはレギンに向けて最敬礼していた。
冒険者パーティの弓使いは雑魚にかまうことなく、ベフィモスに向けて矢をつがえる。
「フッ!」
短い呼気と共に矢が飛翔し……ベフィモスの外皮に阻まれた。
そのままベフィモスは本来の姿で僕たちの前に立ちはだかる。レギンが振り下れた前肢をはじき返す。
そして、僕は指先に集約したエーテルを矢に変えてベフィモスに向けて放った。
「ねえ、レギン。なんかおかしくない?」
「……お気づきですか」
「なんとなく、なんだけど……そこの天井の出っ張り、さっきも見た気がするんだ」
「うむ、ワシの見立てですがおそらくは……」
「空間がねじ曲がっているのよね?」
アリエルにセリフを先に言われてしまいぶぜんとするレギン。
「う、うむ、そう思われる」
「どうしたらいい?」
するとブレスレットからひらりとチコが現れる。
「なかなか厄介よ。結界自体は破壊できるけど、その威力で坑道が崩れてしまうわ」
「……なんてこった」
アルバートががっくりと膝を落とす。というか、この程度のピンチで折れるほど繊細じゃないし、おそらくボケているだけなんだろう。
「んで、チコ殿。対策を聞きましょう」
「……ええ、結界のほころびを探しましょう」
「承知」
アルバートが壁にピックを突き立てた。崩れないように叩いて固めてあるはずなんだけど、砂地に刺すようにさくっと入った。
ピックにはアルバートのエーテルがこめられ、ポッと明かりが点る。
「これを目印にしましょう」
「……脳筋のくせに頭が回るじゃない」
同じようなことをしようとしていたのか、手に持った投げナイフをいそいそとしまい込むアリエル。
エーテルの糸を伸ばしつつ歩く。そして特に何も異常を感じられないままアルバートが突き立てたピックの場所に戻ってきた。
「うーん、ほころびらしきものはなかったねえ」
「次はわたしもやるわ」
チコもエーテルを展開する。なお、彼女の身体は僕がエーテルを練り上げて作ったものなので……消費するのは僕自身のエーテルだ。
再び歩き出す。そして何も見つからないままに元の地点に戻る。
さすがに焦りが見えてきた。
「……そうだわ」
アリエルが何か思いついた顔をした。
「何か気づいたのかい?」
「発想を逆転しましょう。この領域はおそらくわたしたちの進行方向に向けて張られている。そしてこれを創り出した存在は、わたしたちに会いたくない」
「それはそうじゃろな。ここまでしておるんだから」
「だから逆方向にはすんなり行けるんじゃないかと」
「一度閉鎖された空間を抜けて回り込めばいいってことか」
「そうです」
僕たちは元来た道を引き返した。すると拍子抜けするくらい簡単に広間に戻れた。
「ここね!」
チコがエーテルの糸を伸ばす……ほどなく彼女は僕に満面の笑顔を向けてきた。
「あった!」
彼女の指さす先に目を凝らす。
「うわあ……」
それこそネズミ一匹通れるかどうかの隙間があるだけだった。
「マスター!」
チコの言いたいことはすぐ理解できた。
「クリエイト……小さき命よ、我が手のひらに在れ!」
僕の手の上にはエーテルを凝縮したネズミが一匹いる。
チュッと鳴き声を上げると、そのまま素早い足取りで結界の隙間を通り抜け、歪曲されていない通路に無事入ったのがわかった。
アルバートが突き立てた位置を把握するためにピックがなかったこともその証拠だ。
僕の焦燥が乗り移ったかのように新たに作られた使い魔は、全力で坑道を駆け抜けていくのだった。
ほどなくして冒険者たちの一行に追いついた。そして通路の先の生土仮には広い空間があって、そこに封じられた魔獣がいることまでも判明した。
「アリエル」
「はい?」
僕はアリエルの手を取った。
「目を閉じて」
「ふぇ!? あ、は、はい!」
僕の使い魔から届いた視界の情報を彼女にリンクする。
「え? なんですかこれ!?」
「うん、さっき放った使い魔の視界。ちょっと感覚をリンクさせた」
アリエルがぶるりと身を震わせた。
「え、待って。そんなこと、どうやったらできるの?」
「なんとなく?」
ネズミの視界には、巨大なクリスタルが映っていた。その中心部では、魔獣が体を丸めて眠っている。
その中は粘性の高い液体に満たさているように見えた。そして周囲から吸い上げられたエーテルが脈動し、魔獣に流れ込んでいる。
魔獣の目が開き、ネズミと目が合った。直後、冒険者たちが広間に到着する。魔獣が自らのエーテルを放射し、周囲にゴーレムを召喚する。
そして、鉱石を食らう魔物や、亜人などが湧き出るように現れている。
冒険者たちはこれまで抑圧されていたエーテルが解放されたことで、潜在能力が目覚めたようだ。
マップに示されている彼らのレベルがかなり上がっている。
そして、これまでなら4人がかりで何とか戦えていたくらいの相手をなぎ倒していく。
ただ、それは時間稼ぎで封じられていた魔獣。土の精霊が裏返ったエーテルに汚染された存在。
精霊王ベフィモスだった。
「殿、まずいです! あんなのが野放しになったら……」
「そうだね。術式展開!」
ネズミの中に仕込まれていた魔法陣が虚空に映し出される。使い魔を構成していたエーテルをトリガーとしてこの場所とあの場所をつなぐ特異点がつながった。
「転移!」
高いところから落下するような浮遊感。直後景色が塗り替わる。
僕たちの目の前では巨大なクリスタルに亀裂が入り、崩れ落ちるところだった。
目の前に巨大なゴーレムが立ちはだかる。アリエルが放った矢がゴーレムを打ち抜く。
大小のゴーレムはレギンが砕いていく。冒険者パーティのドワーフと目が合うと、そのドワーフはレギンに向けて最敬礼していた。
冒険者パーティの弓使いは雑魚にかまうことなく、ベフィモスに向けて矢をつがえる。
「フッ!」
短い呼気と共に矢が飛翔し……ベフィモスの外皮に阻まれた。
そのままベフィモスは本来の姿で僕たちの前に立ちはだかる。レギンが振り下れた前肢をはじき返す。
そして、僕は指先に集約したエーテルを矢に変えてベフィモスに向けて放った。
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