箱庭の英雄~滅んだ世界を立て直すために古代遺跡から始まる内政ライフ~

響 恭也

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ダンジョン決壊

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 僕は使い魔を飛ばし、空から魔物の群れを見下ろした。群れは雑多な感じで、隊列のようなものはない。中央にはひときわ大きな亜人、オーガとトロールが数体いるようだった。

 普通のオーガであれば、2000もの群れを率いることはできない。ましてトロールがついてくることはない。

 おそらくだが上位種というやつだろう。



「殿、出撃の許可を」

「……わかった。僕も後から出る。よろしく頼むよ」

「はっ!」



 アルバートが兵を率いて出撃していった。アリエルは彼の補佐について、エルフの弓兵や槍兵を率いている。



「……マスター。あんたが出ればすぐに終わると思うんだけど」

「そうだね」

「備蓄のエーテルなら気にすることはないわよ。マナはまだまだというか、無尽蔵レベルであるし」

「うん」

「まあ、いいわ。あんたの考えもあるでしょ。ただし、手遅れにならないようにね」

 そういうとチコは指輪の中に消えた。

 執務室のデスクの上には、進んでくる魔物の群れが映し出されている。彼らの向かう先は、森の方へ向かう道沿いに建てられた砦だった。

 アルバートもそこに向かっている。そこに立て籠もって時間を稼ごうとしているのだろう。

 都市の外に出ている人々を呼び戻すまでは僕はここを動けない。もちろん、単独で出撃してマナを使って一気に焼き払うこともできる。けれどそれは最後の最後までやりたくなかった。

 足元のフェンリルがぴょんと僕の膝の上に飛び乗ってきて、体を伸ばしてぺろりと僕の頬をなめた。



「わっ!?」

「アルジヨ。ムズカシクカンガエスギヌホウガヨイ」

「どういうこと?」

「アルジハ、アルジガオモウヨリモミナニアイサレテイル」

「……え?」

 よくわからないことを言ったあと、フェンリルは僕の膝の上で丸くなった。

 真っ黒でつやつやの毛並みを撫でると、なぜか妙に安心するのだった。



 一方、砦では物見台の上で見張りの兵がごくりと固唾をのんでいた。

「……なんてこった」

 街道を埋めるのは黒黒とした魔物の群れ。ゴブリンやウルフが並んで仲良く行進してくる様は悪夢のようだった。



「魔物の群れを発見! 数はわからない。街道を埋め尽くすように接近中!」

 砦を任されている戦士はすぐさま物見を出した。

「正確な数とかそんなのは良い。どうせここにいる数じゃ持ちこたえられん。援軍が来るまでの時間稼ぎだ」

 もともと砦には30人ほどしかいない。防衛するにも数が足りなかった。

「……ああ」

「少しでも敵の情報を持ち帰ってほしい。頼めるか?」

「承知」

 物見に走ったのは、砦で休息をとっていた数名の冒険者だ。彼らは4人一組で隊列を組んで街道から外れた原野を行く。

 群れから外れた少数の魔物を倒す。もともとゴブリンくらいなら苦戦することはない程度の経験は詰んでいた。

 数度にわたる遭遇戦で、群れの構成は、おおむねゴブリンであること。ウルフなども交じっているが連携は取れていないこと。

 このペースでいけば……半日後には砦を取り囲まれることが判明した。



「……ここまでか、撤退する」

 群れから自分たちを取り囲もうと大きめの集団が分離しつつあることを察したため、即撤退の判断を下したあたり、リーダーも非凡だった。

 先に距離を取った弓使いが矢継ぎ早に放ち、追っ手を足止めする。

 彼らが砦に帰還するころには、周囲に触れを出したおかげで冒険者が集まり、兵力はかなり改善していた。



「……いいか、逃げるなら今の内だ。数は2000。ほとんどゴブリンだが、群れの真ん中に大型の亜人種がいた。オーガの類だろう。半日ほどでここにたどり着く」

 その言葉にへなへなと腰を抜かす駆け出しの冒険者がいた。兵たちも逃げ出したいのはやまやまだが、ここで持ち場の放棄はあり得ないと、強く手持ちの武器を握り締める。



「ああ、一つだけいい知らせだ。鳥型の魔物はいない」

 その一言に隊長格の戦士は安どの息を漏らす。頭上から攻撃されれば迎撃の手が二分され、もっと危機に陥る可能性もあったのだ。



「……迎撃に加わってくれるものは城壁にあがってくれ。逃げても責任は問わない。だが生き残ることができたら、領主様にその手柄を必ず伝える」

 戦士はそう伝えると、城壁上で迎撃の準備を指揮するために階段を上った。すると、冒険者たちは一人も欠けることなく彼の後についてくる。

「……ありがとう」

「そんな言葉は後だ。俺たちは何をしたらいい?」

「そうだな、城壁の上に石を運んでくれ。あと、そこに積んである矢をやぐらの方に持って行ってくれないか?」

「わかった!」

 こうして、砦の守備兵と冒険者たちは、絶望的な防衛戦に身を投じるのだった。



「……やっぱり死なせたくないね」

「なにが?」

 画面に見入っていた僕が漏らした独り言に、いつの間にか姿を現していたチコが応えたようだ。

「うん、いろいろと覚悟ができたよ。僕はこの地を守りたいんだってわかったから」

「そう、じゃあ好きにするといいわ。あたしはあんたとずっと一緒だから」

「ありがとう」



 その時、執務室のドアがノックされた。

「はい」

「失礼するぞい。避難民の収容が完了しましたぞ」

「わかった。レギン、後を頼めるかい?」

「ほっほっほ。戦勝の祝い酒を楽しみにしていますぞ」

「わかった。飛び切りの奴を用意しよう」

 ひげ面をゆがめ、ニッと笑うレギンに見送られ、僕は執務室の外にあるバルコニーに立った。



 自分のエーテルを周囲に展開し、風を掌握する。そしてマントに風を受け、一気に飛び上がった。



「砦が見えたぞ。合図を!」

 アルバートの指示に、近くにいた弓兵が鏑矢を放つ。ひゅーーっと風を切って飛んだ矢はその音で砦に来援を伝える。

 砦の門が開け放たれ、アルバートが率いてきた部隊が砦の守備隊と合流を果たした。



「陣地構築を頼む!」

 アルバートの指示でドワーフの工兵が城門の前に陣地を作り始める。

 土魔法で地面を穿ち、盛り土をする。掘り下げた部分には杭を打ち込み、堕ちた敵を串刺しにするようにした。

 盛り土は土塁として防壁になる。

 工兵たちが忙しく働く間に、街道の向こうからは騒がしく亜人たちの鳴き声が聞こえてきた。
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