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技術開発のすすめ
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「おう、こっちじゃ!」
レギンが手招きをする部屋に入った。ここは工房と一続きになっている技術研究室だ。
「えーと、今の技術ツリーが……ふーん」
チコは目の前の画面を見ながら技術の開発状態をチェックしている。
「まんべん無く上げてきた感じだね」
「そうね。最終的にはそうなるんだけど、今は食料と資材の生産に注力すべきね」
「食料はわかるけど、資材は? あとは軍備面は後回しでいいの?」
「資材は今備蓄できてるから、さらに余剰を作って交易に使うのよ。食料はこれから人口が伸びたらいくらあっても足りなくなるし、兵力の増強は急務よね」
「ふむ。ちと相談なんだがな」
「なに? おじいちゃん」
「おじい……ワシはまだ58だ!」
人族なら高齢だがドワーフのような長命な種族なら老人ではないのか。まあ、そう言うもんだよね。
「次はこれを開発していって」
「ふむ、なるほどな。だが……ああ、そうか!」
「ふふん、酔っぱらってなかったら頭の回転は速いのね」
「ドワーフのクラン一つまとめてんだぞ? 阿呆に務まるかよ」
「うん、それにしてもあなたも初期パラメータからだいぶ伸びてるわね」
「ん? どういうこった?」
「マスターに対する忠誠心、便宜上そう呼んでるけど、が高いほどレベルアップした時の能力の伸びがよくなるのよ」
「そうか、まあ、そうだな。クロノには感謝しとるよ。ストレイドワーフなんぞ、だれも助けてくれん。どこへ行っても厄介者だ」
自分を卑下するような言いようが我慢ならなかった
「レギンはすごい鍛冶師じゃないか!」
「ですって」
その一言にひげ面をゆがめた。さらにドワーフは伝来の兜をかぶっているが、それを脱いでガシガシと頭をかいていた。
「え……?」
「そういうことじゃ。これ以上はいわせるな」
「う、うん。ありがとう」
ドワーフが他者の前で兜を脱ぐということは、その相手に自分のすべてをささげるという意味合いになる。
レギンの率いてきたクランは20名。その人数のドワーフの職人が配下になるということは計り知れない意味を持つ。
「マスター、次の商隊の買い付け品目、馬車一台増やしましょう」
「ああ、固めのお酒を用意しないと、だね」
僕のその一言に工房から歓呼の声が溢れた。
「気前のいい旦那を見つけてくれてありがとうよ、レギン!」
「あんたは最高の頭領だぜ!」
「うまい酒をくれたらもっと働くぜ、旦那!」
じゃあ、こういうのはどうかな?
蒸留酒は酒精がきついが、味はそこまで強くない。酒に果実を付け込むことを提案した。または果実の酒を混ぜてみることを勧めた。
「まあ!」
リンゴの果汁を混ぜた酒に、ドワーフの女性陣が感嘆の声を漏らす。
「んー? まあ、面白い味だが、ジュースじゃな」
レギンがつぶやいた一言にドワーフの女性陣から怒りの目線が突き刺さる。
「あんたらの酒には品がないのよ!」
「何をぬかすか! この喉を灼いていく酒精の熱さがいいんじゃろうが!」
「はん! そうやって飲み比べてげーげー吐くのはいいっていうの?」
一触即発の空気を読まずチコがこうつぶやいた。
「喧嘩する人はお酒抜き」
ガシッと手を取り合うドワーフたち。
「じゃあ、これお願いね」
チコが差し出したのは、アルバートがまとめた武具の改善依頼だった。
ドワーフたちは声にならない悲鳴を上げ、図面の見直しを始めるのだった。
「ふふふ。おもしれえなあ。ワシらは酒に何かを混ぜるって発想がなかった。ほんのちょっとの発想、だがそれが難しい」
「そういうものですかね? 旅から旅の暮らしだったんで、いろいろ聞きかじったことですよ」
「知識ってのはな、使いこなせなきゃ意味がないんだよ。知ってるってことと、それを必要な時に思い出して当てはめるのはまた別の才能だ」
「ああ、そういうものですかねえ」
僕は次の仕事を思い出したので、研究室を後にした。
「まったく、大したもんだ。わけえのになあ」
レギンはそうつぶやくと、酒杯を傾けた。
するとその後頭部にハンマーが叩きつけられる。
「ちょっと、あんた!」
「うお、ネネか!? なんだってんだ!?」
「ここの図面を早く起こしてくれなきゃ仕事が進まないでしょうが!」
「わーってるよ、ちとまっとれ!」
ドワーフたちの喧騒を背後に、僕は次の目的地に向けて歩き出した。
「次は……訓練所?」
「そうね。ああ、さっきのレギンとの相談なんだけど」
「うん、牧場の件かな?」
「え? 聞こえてた?」
「いや、なんとなく?」
「ふうん、この調子ならわたしが何かを教えるってことはすぐなくなりそうね」
「そんなことはないと思うけど……」
「まあ、いいわ。牧場を強化する意味は分かる?」
「この前から言ってる騎兵の強化だね」
「そう、騎兵の訓練にも使えるのよ」
「あとは……騎獣の餌とかを一括で用意すればコストの削減ができるくらいかなあ?」
「そうね、商隊の買い付けの結果次第なんだけど……」
大きな問題は何とか乗り越えることができた。それでもなすべきことは山のようにある。
とりあえず細々としたことをこなしつつ、大きな問題が出る前に防ぐというのが当面のできることだろうか。
ひとまず優秀な助言者の言うことに従って、部下たちに指示を出していくのだった。
レギンが手招きをする部屋に入った。ここは工房と一続きになっている技術研究室だ。
「えーと、今の技術ツリーが……ふーん」
チコは目の前の画面を見ながら技術の開発状態をチェックしている。
「まんべん無く上げてきた感じだね」
「そうね。最終的にはそうなるんだけど、今は食料と資材の生産に注力すべきね」
「食料はわかるけど、資材は? あとは軍備面は後回しでいいの?」
「資材は今備蓄できてるから、さらに余剰を作って交易に使うのよ。食料はこれから人口が伸びたらいくらあっても足りなくなるし、兵力の増強は急務よね」
「ふむ。ちと相談なんだがな」
「なに? おじいちゃん」
「おじい……ワシはまだ58だ!」
人族なら高齢だがドワーフのような長命な種族なら老人ではないのか。まあ、そう言うもんだよね。
「次はこれを開発していって」
「ふむ、なるほどな。だが……ああ、そうか!」
「ふふん、酔っぱらってなかったら頭の回転は速いのね」
「ドワーフのクラン一つまとめてんだぞ? 阿呆に務まるかよ」
「うん、それにしてもあなたも初期パラメータからだいぶ伸びてるわね」
「ん? どういうこった?」
「マスターに対する忠誠心、便宜上そう呼んでるけど、が高いほどレベルアップした時の能力の伸びがよくなるのよ」
「そうか、まあ、そうだな。クロノには感謝しとるよ。ストレイドワーフなんぞ、だれも助けてくれん。どこへ行っても厄介者だ」
自分を卑下するような言いようが我慢ならなかった
「レギンはすごい鍛冶師じゃないか!」
「ですって」
その一言にひげ面をゆがめた。さらにドワーフは伝来の兜をかぶっているが、それを脱いでガシガシと頭をかいていた。
「え……?」
「そういうことじゃ。これ以上はいわせるな」
「う、うん。ありがとう」
ドワーフが他者の前で兜を脱ぐということは、その相手に自分のすべてをささげるという意味合いになる。
レギンの率いてきたクランは20名。その人数のドワーフの職人が配下になるということは計り知れない意味を持つ。
「マスター、次の商隊の買い付け品目、馬車一台増やしましょう」
「ああ、固めのお酒を用意しないと、だね」
僕のその一言に工房から歓呼の声が溢れた。
「気前のいい旦那を見つけてくれてありがとうよ、レギン!」
「あんたは最高の頭領だぜ!」
「うまい酒をくれたらもっと働くぜ、旦那!」
じゃあ、こういうのはどうかな?
蒸留酒は酒精がきついが、味はそこまで強くない。酒に果実を付け込むことを提案した。または果実の酒を混ぜてみることを勧めた。
「まあ!」
リンゴの果汁を混ぜた酒に、ドワーフの女性陣が感嘆の声を漏らす。
「んー? まあ、面白い味だが、ジュースじゃな」
レギンがつぶやいた一言にドワーフの女性陣から怒りの目線が突き刺さる。
「あんたらの酒には品がないのよ!」
「何をぬかすか! この喉を灼いていく酒精の熱さがいいんじゃろうが!」
「はん! そうやって飲み比べてげーげー吐くのはいいっていうの?」
一触即発の空気を読まずチコがこうつぶやいた。
「喧嘩する人はお酒抜き」
ガシッと手を取り合うドワーフたち。
「じゃあ、これお願いね」
チコが差し出したのは、アルバートがまとめた武具の改善依頼だった。
ドワーフたちは声にならない悲鳴を上げ、図面の見直しを始めるのだった。
「ふふふ。おもしれえなあ。ワシらは酒に何かを混ぜるって発想がなかった。ほんのちょっとの発想、だがそれが難しい」
「そういうものですかね? 旅から旅の暮らしだったんで、いろいろ聞きかじったことですよ」
「知識ってのはな、使いこなせなきゃ意味がないんだよ。知ってるってことと、それを必要な時に思い出して当てはめるのはまた別の才能だ」
「ああ、そういうものですかねえ」
僕は次の仕事を思い出したので、研究室を後にした。
「まったく、大したもんだ。わけえのになあ」
レギンはそうつぶやくと、酒杯を傾けた。
するとその後頭部にハンマーが叩きつけられる。
「ちょっと、あんた!」
「うお、ネネか!? なんだってんだ!?」
「ここの図面を早く起こしてくれなきゃ仕事が進まないでしょうが!」
「わーってるよ、ちとまっとれ!」
ドワーフたちの喧騒を背後に、僕は次の目的地に向けて歩き出した。
「次は……訓練所?」
「そうね。ああ、さっきのレギンとの相談なんだけど」
「うん、牧場の件かな?」
「え? 聞こえてた?」
「いや、なんとなく?」
「ふうん、この調子ならわたしが何かを教えるってことはすぐなくなりそうね」
「そんなことはないと思うけど……」
「まあ、いいわ。牧場を強化する意味は分かる?」
「この前から言ってる騎兵の強化だね」
「そう、騎兵の訓練にも使えるのよ」
「あとは……騎獣の餌とかを一括で用意すればコストの削減ができるくらいかなあ?」
「そうね、商隊の買い付けの結果次第なんだけど……」
大きな問題は何とか乗り越えることができた。それでもなすべきことは山のようにある。
とりあえず細々としたことをこなしつつ、大きな問題が出る前に防ぐというのが当面のできることだろうか。
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