箱庭の英雄~滅んだ世界を立て直すために古代遺跡から始まる内政ライフ~

響 恭也

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流浪のドワーフ

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『マスター、資材は足りているのですが加工が追いついていません』



 都市は順調に発展を続けていた。守護獣がついたことで、魔獣の被害が激減したこともあり、定住者が増えたのだ。

 それによって施設を建て増しているのだが、作業が滞り始めた。チコからの報告はアリエルからも同様の報告が上がってきていたのだ。



「殿、若干予算をオーバーしますが、工具などを買い増す必要があります」

「なるほど、どれくらいかかりそうかな?」

「そうですね……」

 アリエルが報告してきた金額はなかなかに厳しい金額だった。

「うーん……」

「先に工房を建てましょうか?」

「だけど、職人をまとめる人がいないでしょ?」

「職人の経験がある人を配置して、あとはいざとなったらマナで力押しでしょうか」

 うーん、と二人で頭を抱える。

 マナの備蓄はまだあるけど、いざというときの切り札を減らし過ぎるのは良くない。

 しかし、現状として施設の建築に支障をきたしている。このままの状態が続けば住民に不満がたまり、治安の悪化を招く。

 治安はありていに言ってしまえば、都市発展の根底にある数値だ。すべての収入や住民の増加に対して、最後に治安の数値のパーセンテージがかかる。

 要するに食料の収入が100あったとして。治安が50%なら、収入は50になってしまうのだ。

 住民満足度や安全度が高ければ徐々に上昇し、逆に満足度や安全が基準値を下回ると徐々に下がる。

 そして下がっている時間が長ければ一気に低下するわけだ。

 ただし、このパラメータを見て、管理できるのは僕とチコだけなので、アルバートやアリエルは本当の意味で僕の懸念を理解しているわけではない。たぶん。



 問題は一度棚上げして僕は領内の様子を確認することにした。

 放ってある使い魔の視界に同調することで、現場にいるような視点で見ることができる。

 いろんな場所にいる使い魔から、状況を確認するが基本的には問題ない。ただ、現状としては住居の不足、および食料の不足が起きそうになっている。

 今現在は不足していないが、このペースで住民が増えると、遠からず不足する可能性がある、というわけだ。



「ん……?」

 領内に入ってきた集団を発見した。彼らは一様に背が低く、ずんぐりとした体形をしている。

『ああ、ドワーフですね……彼らを迎え入れることができたら、工具の問題とか職人の問題が解決しますね』

「それは助かるけど、ドワーフって基本的に決まった穴倉で生活しているんじゃ?」

『何か問題があって新たな住居を探しているのかもしれません』

「じゃあ、アリエルに接触してもらう?」

『そうですね。ただ、エルフとドワーフは生活環境や契約している精霊との関係上、そりが合わないことが多いです』

「んー、じゃあ、アルバートかな」

『それがよいかと』



 ドワーフの集団は30人ほどだった。アルバートには10人くらいの兵を率いて彼らのもとに向かってもらう。

 すると、飢えた魔物の一団がドワーフを取り囲みつつあることが分かった。



「フェンリル!」

「ヨンダカ、アルジヨ」

 僕の影から飛び出してきたフェンリルにアルバートの影に潜むことを命じた。

 アルバートの実力ならあの程度の魔物は敵じゃない。ただ、不測の事態が生じてドワーフや、アルバートの部下に被害を出さないためだ。



「急げ! ドワーフたちを助けろと殿の命令だ。者ども続け!」

 ドワーフは円陣を組んでハンマーや斧を構えている。そんな彼らを包囲するように魔物の群れが展開していた。

 群れの主力はゴブリンやコボルトだが、彼らに命令を下しているのは亜種のゴブリン。おそらくゴブリンジェネラルか。

 ジェネラルに率いられたゴブリンは1ランク上の能力を発揮する。また、陣形を組んでさらに戦力を増大させる。

 その状況を確認した時点で、アリエル率いるエルフたちにも出撃してもらった……のだが。



 ドワーフたちは強かった。息を合わせてハンマーを振り回して攻撃を仕掛けてくるゴブリンたちを撃退する。

 機敏さには程遠いドワーフだが、足を止めての殴り合いであれば無類の強さを発揮する。見事にゴブリンたちの波状攻撃を跳ね返し続けていた。

 しかし、上位種に太刀打ちできるわけではない。

 ドワーフたちは息を合わせて斧を投げつけたが、それはゴブリンジェネラルの表皮を穿つことはできなかった。

「畜生! なんということじゃ!」

 ひときわ大きな体躯のドワーフが吠えた。ハンマーを振りかざし、ゴブリンジェネラルと渡り合う。

 その巨体から繰り出される膂力は、上位種のゴブリンと何とか渡り合っていた。それでも本来は戦闘職ではないため徐々に押し込まれる。

 そこで僕の差し向けた援軍が間に合った。

 アリエルの放った矢がジェネラルの眼球を打ち抜き、アルバートの大剣がジェネラルの首を斬り飛ばす。



 こうして、ドワーフの一行は保護され、都市の方で一度迎え入れることに成功した。



「あなたが我らを救ってくださった御仁か。わが名は根無し草のレギン。安住の地を探して居る」

 ひげもじゃの顔をゆがめ、必死に笑顔を作ろうとしている。

「初めまして、レギン殿。僕はガルニアの主のクロノと言います……よかったらここに住まないかい?」

 その一言で話がうますぎると、ドワーフたちが会議を始めてしまった。

「……命を救ってもらったことは感謝しておる。しかし、我らは、住むに十分な穴倉と、有望な鉱山を探しているのじゃ。心当たりがあるとでも?」

「んー、鉱山はある。採掘の手は入れているけども、正直そこまでの収益は上がってない。皆さんが入ることで生産量が上がるなら言うことはない」

「ふふふ、そういうことならこのレギンに任せまくるがよい!」

 どうも愛想笑いというのができない人種のようだ。ただ、鉱山の話を聞いてからの彼らは笑顔を浮かべていた。

「あとね、今新しいお酒を造っているんだよ」

「「のった!」」

 レギンと名乗ったドワーフのほかにもほぼすべてのドワーフが手を上げていた。

 なので、僕は銅を成型して作る蒸留器を提案すると、翌日には試作品が出来上がっていた。

 彼らは半交代で酒の用意と、工具の作成を始めた。

 こうして、ある意味最も深刻な危機は去ったのだった。
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