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チコさんの3分間魔法講座
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「我はミラリムのイズレンディア。遺跡都市の主にお会いしたい!」
身なりのよいエルフの男性が門の前で声を張り上げた。
もともとエルフは閉鎖的な性格で、齢を経た者ほどその傾向が強くなる。
そして、その齢に比例して魔法の技術は向上し、場合によっては単騎で軍勢を退けることもあるという。
『なかなかですね。400歳というところでしょうか?』
「それってハイエルフじゃないか!?」
『ですねえ。戦闘力評価は2500です』
「んー……焼け石に水じゃないか」
『それでも彼を取り込めばエルフの魔法使いや弓兵を味方に付けられるかもしれません。話をしてみましょうよ』
「そうだね。対話の機会があるなら逃したくない」
僕は門を開くと、彼らの領域を偵察させたリスの姿の使い魔を案内に出した。
『使い魔を見れば創造者の力量がある程度わかるって言われますからね。マスターの使い魔は……あ、そろそろ着きますよ』
チコが何を言いたいのか? 僕の使い魔の作成の腕はそれなりだと思うのだが……、まだ何か甘いんだろうか?
執務室の扉が音もなく開く。そこには門の前にいたエルフの男性が立っていた。僕を見て彼の表情が驚愕に染まる……え? 僕なんかやらかした?
「お初にお目にかかる、ご領主殿」
唐突に膝をついた。最敬礼されているのはわかるが、僕の方にそこまでの礼節を払われる覚えがない。
「あ、ああ。イズレンディアさん。僕はクロノと言います」
「御身の名を伺うことができ、望外の光栄にございます。早速ですが要件を申し上げてよろしいでしょうか?」
イズレンディア氏は膝をついたまま見上げるようにこちらを見ている。一瞬彼の瞳が光ったような気がしたが、気のせいだったのだろうか?
「どうぞ。そのあとで僕の方からもエルフの皆さんに相談したいことがあるのです」
「それは……よもや……」
「うん、たぶん同じことについて話すことになると思う」
相談の内容はやはりエルフの森に封じられた魔獣のことだった。彼らから見れば計り知れないほどの強さで、そもそも力を数値化するということを彼らはできていないようだ。
『そもそも、それはわたしのスキルですから』
なんとなく口調がドヤ顔のチコだった。
「恐れながら、クロノ殿のお力もすでに我の及ぶところではない。族長と諮ってからになるであろうが、我らエルフも御身の保護下に容れていただければと」
「いいでしょう。というか、族長は貴方よりも強いのですか?」
「族長のアリエルは、森のすべてのエルフを合わせたよりも強大な力を持ちます」
「へえ、それは素晴らしい。税日お会いしたいとお伝えしてもらっても?」
「はっ。では我はすぐに森に戻って族長を伴ってまいります」
『たぶんエルフでも上位の人ですねー。すんごい偉そうでした』
「さっきなんかされたっぽいんだけど、わかる?」
『ああ、魅了の魔術ですね。リングの結界に弾かれましたが。あと、本名をみだりに名乗らないでくださいね。相手が高位の魔法使いだと名前を使って呪いとかかけられちゃうんで』
「うえっ!?」
『だからマスターが名乗ったとき、すごい笑顔を浮かべたでしょう? まあ、あの程度の魔術はリングの結界の前じゃ全く無力ですけど』
「念のため聞いといていいかな? リングの結界の強度ってどれくらいなの?」
『そうですね。評価値はマスターのエーテル強度に比例します。具体的には……』
「具体的には?」
『400万です』
「はい?」
『耳が遠くなるにはまだ50年くらいかかるんじゃないですか?』
「いまなんて?」
『400万と申し上げました』
「どういうことでございますか!?」
『口調がおかしいですよ? マスターの魔力強度は人外です。ただ、それを扱う技術が追いついていない状態ですね』
「おい……じゃあ53万の魔獣が出てきても……?」
『鎧袖一触ってやつです』
「問題が問題じゃなかったああああああああああああああああ!?」
問題は解決したようでしていなかった。
『問題は、マスターのエーテル強度は良いとして、それを扱うだけの技術を身に着けていただかないと、真っ向から撃ち合ったらさっきのおじいちゃんにも勝てないってことなんです』
「え? じゃあどうしたらいいの?」
バリンと音がすると、周囲の様子が一変した。なんだか息苦しくて体が重い。
周囲はどこまでも広がっているようで果てが見えない。
『うふふふふー。ここはわたしが構築した異世界です。これからマスターは自力でここから脱出してもらいます』
「は!? え!? ちょ!???」
『まずは、魔力を打ち出してみましょう。あの的を打ち抜いてくださいねー』
虚空にポンっと軽い音を立てて丸い板に同心円状に円が描かれた、よくあるタイプの的だ。
酒場なんかでダーツなんかの的になっているあれを思い浮かべてもらったらいいだろう。
『ちなみに中心部以外はほぼ不可侵です。針のように集約した魔力で打ち抜いてくださいね』
具体的なやり方は教えてもらえなかった。とりあえず、使い魔を構築するイメージで、魔力を針のように絞り込む。
「えいっ!」
気合を入れてその針を打ち出すと、的には当たったが中心部からはそれた。
『的がそのまま止まってるわけがないでしょ? 実戦ではね』
「ひどい!」
『うふふふー、ちなみにこの空間。早く抜け出さないとどんどん空気が薄くなりますからね?』
そう言われて気が付いた。入ったときから妙に息がしにくかったことを。
「うわああああああああああああ!!」
少しパニックになったんだろう。手当たり次第に針を創り出し、やたらめったらに放った。
どれだけに数を放ったのかはわからないけど、そのうちの一本が的を射抜いたんだろうか。的はぼろぼろと崩れていった。
『よくできました! って言いたいところですが、無駄打ちしすぎです! もっと効率よく!』
叱責の声のあと出てきたのは、10の的だった。
『うふふふふー、1個でも外したら外した数だけ的が増えますからねー』
一瞬で頭が真っ白になった。……同時に頭の芯の部分が冷えていく感覚。
「レイディアント・アロー。フラクタル・ドライブ」
指先から集約したエーテルが球状になって放たれる。的が浮かんでいる空間の中央で、同時にそれを射抜くイメージを具現化させた。
『……お見事です。っていうか、一つの魔法を多重起動させてそれを同時に制御するとか、人外の技術ですよ?』
今までやったことのない魔力のコントロールに、頭の中がバチバチと火花が散っているようだった。
疲労感に襲われ、スッと意識が落ちていく。
僕はそのまま目を閉じて眠りに落ちた。
『デタラメですね。たった3分でエルフの賢者レベルの魔力制御を身に着けるとか』
チコのつぶやきは僕の耳にはかすかに届くだけだった。
身なりのよいエルフの男性が門の前で声を張り上げた。
もともとエルフは閉鎖的な性格で、齢を経た者ほどその傾向が強くなる。
そして、その齢に比例して魔法の技術は向上し、場合によっては単騎で軍勢を退けることもあるという。
『なかなかですね。400歳というところでしょうか?』
「それってハイエルフじゃないか!?」
『ですねえ。戦闘力評価は2500です』
「んー……焼け石に水じゃないか」
『それでも彼を取り込めばエルフの魔法使いや弓兵を味方に付けられるかもしれません。話をしてみましょうよ』
「そうだね。対話の機会があるなら逃したくない」
僕は門を開くと、彼らの領域を偵察させたリスの姿の使い魔を案内に出した。
『使い魔を見れば創造者の力量がある程度わかるって言われますからね。マスターの使い魔は……あ、そろそろ着きますよ』
チコが何を言いたいのか? 僕の使い魔の作成の腕はそれなりだと思うのだが……、まだ何か甘いんだろうか?
執務室の扉が音もなく開く。そこには門の前にいたエルフの男性が立っていた。僕を見て彼の表情が驚愕に染まる……え? 僕なんかやらかした?
「お初にお目にかかる、ご領主殿」
唐突に膝をついた。最敬礼されているのはわかるが、僕の方にそこまでの礼節を払われる覚えがない。
「あ、ああ。イズレンディアさん。僕はクロノと言います」
「御身の名を伺うことができ、望外の光栄にございます。早速ですが要件を申し上げてよろしいでしょうか?」
イズレンディア氏は膝をついたまま見上げるようにこちらを見ている。一瞬彼の瞳が光ったような気がしたが、気のせいだったのだろうか?
「どうぞ。そのあとで僕の方からもエルフの皆さんに相談したいことがあるのです」
「それは……よもや……」
「うん、たぶん同じことについて話すことになると思う」
相談の内容はやはりエルフの森に封じられた魔獣のことだった。彼らから見れば計り知れないほどの強さで、そもそも力を数値化するということを彼らはできていないようだ。
『そもそも、それはわたしのスキルですから』
なんとなく口調がドヤ顔のチコだった。
「恐れながら、クロノ殿のお力もすでに我の及ぶところではない。族長と諮ってからになるであろうが、我らエルフも御身の保護下に容れていただければと」
「いいでしょう。というか、族長は貴方よりも強いのですか?」
「族長のアリエルは、森のすべてのエルフを合わせたよりも強大な力を持ちます」
「へえ、それは素晴らしい。税日お会いしたいとお伝えしてもらっても?」
「はっ。では我はすぐに森に戻って族長を伴ってまいります」
『たぶんエルフでも上位の人ですねー。すんごい偉そうでした』
「さっきなんかされたっぽいんだけど、わかる?」
『ああ、魅了の魔術ですね。リングの結界に弾かれましたが。あと、本名をみだりに名乗らないでくださいね。相手が高位の魔法使いだと名前を使って呪いとかかけられちゃうんで』
「うえっ!?」
『だからマスターが名乗ったとき、すごい笑顔を浮かべたでしょう? まあ、あの程度の魔術はリングの結界の前じゃ全く無力ですけど』
「念のため聞いといていいかな? リングの結界の強度ってどれくらいなの?」
『そうですね。評価値はマスターのエーテル強度に比例します。具体的には……』
「具体的には?」
『400万です』
「はい?」
『耳が遠くなるにはまだ50年くらいかかるんじゃないですか?』
「いまなんて?」
『400万と申し上げました』
「どういうことでございますか!?」
『口調がおかしいですよ? マスターの魔力強度は人外です。ただ、それを扱う技術が追いついていない状態ですね』
「おい……じゃあ53万の魔獣が出てきても……?」
『鎧袖一触ってやつです』
「問題が問題じゃなかったああああああああああああああああ!?」
問題は解決したようでしていなかった。
『問題は、マスターのエーテル強度は良いとして、それを扱うだけの技術を身に着けていただかないと、真っ向から撃ち合ったらさっきのおじいちゃんにも勝てないってことなんです』
「え? じゃあどうしたらいいの?」
バリンと音がすると、周囲の様子が一変した。なんだか息苦しくて体が重い。
周囲はどこまでも広がっているようで果てが見えない。
『うふふふふー。ここはわたしが構築した異世界です。これからマスターは自力でここから脱出してもらいます』
「は!? え!? ちょ!???」
『まずは、魔力を打ち出してみましょう。あの的を打ち抜いてくださいねー』
虚空にポンっと軽い音を立てて丸い板に同心円状に円が描かれた、よくあるタイプの的だ。
酒場なんかでダーツなんかの的になっているあれを思い浮かべてもらったらいいだろう。
『ちなみに中心部以外はほぼ不可侵です。針のように集約した魔力で打ち抜いてくださいね』
具体的なやり方は教えてもらえなかった。とりあえず、使い魔を構築するイメージで、魔力を針のように絞り込む。
「えいっ!」
気合を入れてその針を打ち出すと、的には当たったが中心部からはそれた。
『的がそのまま止まってるわけがないでしょ? 実戦ではね』
「ひどい!」
『うふふふー、ちなみにこの空間。早く抜け出さないとどんどん空気が薄くなりますからね?』
そう言われて気が付いた。入ったときから妙に息がしにくかったことを。
「うわああああああああああああ!!」
少しパニックになったんだろう。手当たり次第に針を創り出し、やたらめったらに放った。
どれだけに数を放ったのかはわからないけど、そのうちの一本が的を射抜いたんだろうか。的はぼろぼろと崩れていった。
『よくできました! って言いたいところですが、無駄打ちしすぎです! もっと効率よく!』
叱責の声のあと出てきたのは、10の的だった。
『うふふふふー、1個でも外したら外した数だけ的が増えますからねー』
一瞬で頭が真っ白になった。……同時に頭の芯の部分が冷えていく感覚。
「レイディアント・アロー。フラクタル・ドライブ」
指先から集約したエーテルが球状になって放たれる。的が浮かんでいる空間の中央で、同時にそれを射抜くイメージを具現化させた。
『……お見事です。っていうか、一つの魔法を多重起動させてそれを同時に制御するとか、人外の技術ですよ?』
今までやったことのない魔力のコントロールに、頭の中がバチバチと火花が散っているようだった。
疲労感に襲われ、スッと意識が落ちていく。
僕はそのまま目を閉じて眠りに落ちた。
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