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現状を把握した

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 映像では治癒の光を放った妖精がくるくると彼らの周りを飛んだあと、都市に向かう方向へ飛んでいった。僕のいる居館方面への誘導だ。
 商隊の面々は顔を見合わせた後、アルバートが首肯して妖精の後を追いかけると決めたようだった。

『彼らがこちらに着くまでには数時間かかるでしょう。その間に説明を受けていただきます』
「了解。よろしく頼むよ」
『かしこまりました。まず、現在の都市レベル1です。城レベルがイコール都市レベルとなります。マナ備蓄量180000000。マテリアル備蓄量3000。城レベルアップにはマテリアル50が必要です」
「え、ちょっと待って。マナとマテリアルっていったい何?」
『マナは城に蓄えられている魔力です。マナは地脈から補充しており、任意で増やすことはできません。マテリアルは物質変換された魔力です。マナからマテリアルに変換することはできますが、逆は不可能です』
 なるほど。マナは万能でなんにでも使えるけど、戻すことはできないってことか。
「建物とかを作るのに使うってこと?」
『そうです。マテリアルを物質にするには時間がかかります。マナを使えばすぐに完成しますが、マテリアルよりも大量に消費されます』
「さっき城レベルアップにマテリアルなら50って言ったけど、マナだったら?」
『500になります。比率は使用する施設に応じて変動します。また、レベルが上がるごとに変換効率は低下します』
「わかった」
『ほかにも人が生活するにあたって物資が必要となります。食料、木材、石材、鉄、貨幣です。これらもマナで賄うことができますが、施設を建設してそこに住民を配置すると生産が始まります。貨幣は都市レベルが上がれば価値があがります』
「ちょっと待って、一度整理する!」
 
 都市の発展に必要なものはマテリアル。人が暮らすのに必要な資材。マナは万能の材料ですべての要素で代用可能。
「逆に材料があればマテリアルは節約できる?」
『可能です』
 なるほど。なら代わりが効かないものから使えばいいんだな。
 まずは住居。それと食料を確保。後は各種物資を作る施設と。
「ん? 仮に彼らが定住してくれたとして、一つの施設を稼働させるには何人くらいいるの?」
『施設とそのレベルによりますが、10人から、ですね』
「待って、商隊の人数は?」
『冒険者を含めて23人です』

 動かせる施設は二つ。食料と……住居用の木材か。
『畑は先ほど完成させました。食料は収穫まで30日です』
「へえ、30日で食料が……ってちょっと待って、その間はどうしたら?」
『あ……』
 おい、何も考えてなかったってことか!?
『周辺の森には野生動物がいます。また、魔物を狩って魔石を持ち込んでいただければマテリアルに変換できます』
「マテリアルから食料を出せる?」
『マナからであれば』
「仕方ないか。そもそも僕のご飯もいるしね」
『では、今日の朝食をご用意いたします』
 チコがそう言うと、ブンという音の後、執務机の上に食事が現れた。
 焼き立てのパンにハムと野菜、スープは湯気を立てている。そういえば夕べの野営の食事前に魔物に襲われたことを思い出し、僕のお腹は空腹をアピールする。
「……おいしい」
 旅暮らしをしていると、保存食を食べることが多い。まして宿に泊まれるほどのお金もそう持ち合わせていない。
 だから出来立ての温かい食事というのはお腹だけでなく、心まで満たしてくれる気がした。

『食後のお茶です』
 湯気を立てるカップからはふわりと良い香りが立ち上る。ルビーを溶かし込んだような色は初めて見るもので、恐る恐る口にするとほのかな苦みと渋み、かすかな甘みが口に広がった。
 添えられていた果物は真っ赤な果皮で甘い香りが漂う。そのままかぶりつくとじゅわっと果汁が溢れる。
 お茶の味と相まってとてもおいしかった。

「これでマナをどれだけ使ったの?」
 これだけ贅沢な食事だ。相当使ったに違いない。
『マスターの1年分の食事をマテリアルとして変換しました。マナは1消費です』
「はい!?」
 マナの残量は……なんかよくわからない単位だった。というか、これ、僕だけなら死ぬまで食べるに困らないってことじゃ……?

『マスター、そろそろ来客の時間です』
 ふと窓を見ると、商隊の一行が門に近づいていた。
「ああ、じゃあ出迎えないとね」
『マスター、こちらを身に着けてください』
 執務机の上に指輪が現れた。
「これは?」
『管理キーです。これで私がいなくとも都市の命令を出せますし、マスターの御身を守る盾となります』
「ははは、いやだなあ。彼らは良い人だよ?」
『そうですね。しかし人は欲で目がくらみます。マスターにも心当たりがあるのではありませんか?』
「そう、だね。念のため着けておくよ。ありがとう」
『私はマスターの身の安全を最優先にしています。礼には及びません』
「それでもだよ。君がいなかったら今頃僕は魔物の餌だったと思うし」
『それは間違いありませんね』
 その時僕は、感情がないチコが冗談を言ったように思えて、思わず吹き出してしまった。


「頼もう!」
 城門の前に商隊の一行がたどり着いた。
 代表して大剣を背負った戦士が門をたたき声を張り上げる。

『マスター、開門の指示を』
「あ、ああ。開門」
 執務机の上にガラスの板が置いてあり、そこに指を滑らせたり、指先で叩くといちいち口に出さなくても指示を実行できる。
 屋敷の地図、門のところをポンと指先でつついた。
 映像の中で、ごごごと門が開いていく。

「じゃあ、ちょっと行ってくるよ」
『承知しました、お気をつけてください。マスター』

 僕は彼らを迎えるため、執務室を後にした。
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