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チュートリアルって何だろう
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もう無理だ、と思った。馬車の中からは、矢がもうないと悲痛な叫びが聞こえてきた。自慢の大剣ももう金属製のこん棒だ。血と脂で切れ味は党の昔に失われていた。
「あきらめたら奴らの餌だぞ! ひるむな!」
仲間たちに檄を飛ばすが答えは弱弱しい声だった。護衛対象の商人はもう悲鳴を上げる気力もなく、ただ死への恐怖から足を前に進ませている。
疲労からか呼吸はぜえぜえと荒く、走るというよりはよたよたと歩いているような状態だ。
「畜生、なんてこった!」
絶望をぼやきに換えて口から出してみたが、心は軽くなるわけもなく棒のようになった手足は普段の軽快さは望むべくもなく、振るった剣を躱され狼が突進してくる。
喉首を狙ってきた牙に左腕を割り込ませ急所を守る。ああ、いっそ死んだほうが楽なのではないかと一瞬頭をよぎったが、歴戦のこの身体はどうも持ち主よりあきらめが悪いようだった。
大剣を地面に突き立て、ダガーを抜いて狼の首に突き込む。
ビクンと狼の身体がけいれんし、力が抜けたのを確認するとそのまま左腕を振り払う。
「アルバート、どうする?」
仲間の一人が声をかけてくるが、この絶望的な状況を打破する方法があるなら俺が聞きたかった。
魔法使いが苦しげな声で呪文を唱え……火球が狼の群れの真ん中で炸裂する。それにより数頭が火に包まれてのたうち回るが、奴らはひるむことなく怒りに染まった視線をこちらに向けてきた。
群れの中にひときわ大きな個体が現れた。それは周囲の狼よりも内包されたエーテルが多い。奴が一言吠えると、隣にいた魔法使いが吹き飛ばされた。
「おい!?」
魔物も上位個体となると魔法を使う奴がいるという。そんなのが相手じゃ万全の態勢であったとしても勝てない。
今まで目を背けていた絶望が俺の中をゆっくりと満たしていった。
ボスの個体がニヤリと顔をゆがませる。いや、あれは嗤ったのか。もはや奴らの餌になるしかない、弱者たる俺たちを。
「UOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!!」
ボスの遠吠えに周囲にいた狼たちがぐっと足に力をためる。一斉にとびかかってくる気だ。
周囲を確認すると仲間たちは倒れ伏すかへたり込んでいた。死んだ奴はいないようだがもはや時間の問題か。ならば一頭でも多く道連れにしてやろう。そんな覚悟を決めた。
「俺たちが食い止める。あんたらは少しでも先に逃げろ!」
商人たちに声をかける。馬車から弓使いが降りてきた。弓は背負ってダガーを逆手に構えている。
「白兵戦は趣味じゃないんだけどねえ」
彼女のボヤキに俺は笑みを返す。
ボスが一言吠えた。ずきずきと痛む体に活を入れ、剣を握りなおす。
駆けだした狼の群れがこっちに迫り……唐突に表れた光の壁にぶつかって消滅した。
「え……?」
隣にいた弓使いが呆然と声を上げる。
助かった。そう思ってしまったらもういろいろ無理だった。一度膝をつくとそのままずるずると座り込んでしまう。
どこの誰だか知らないが、命を救ってもらった借りは返すとそう心に刻みながら俺の意識は闇に閉ざされていった。
**************************************************************************************
「知らない天井だ」
ゆっくりと開いた目に見えたのは豪華なシャンデリアだった。そうか、僕は気を失っていたのか。
周囲を見渡すとそこはさっきの執務室だった。応接用のソファの上に寝かされていたようだ。
すでに夜は明け、柔らかい日差しが窓から差し込んでいた。
『マスターの意識レベルが覚醒まで回復』
「うわっ!?」
僕の目の前には握りこぶしくらいの大きさの水晶球が浮いていた。
『初めましてマスター。私はチコ』
「……え? その声は!?」
それは忘れもしない、昨夜出会った彼女のものだった。
『チュートリアルを実施しますか?』
「どういうことだ!」
『チュートリアルを実施しますか?』
「ねえ、答えてよ。あの子はどこ?」
『チュートリアルを実施しますか?』
何を言っても水晶球は同じ答えしか返さない。ならばと思ってその言葉に従うことにした。
『チュートリアルを実施しますか?』
「わかった、はじめて」
『承知いたしました。まずはこの都市の名前を決めてください』
名前……? この土地の名前ってことか。と考えたときふと故郷の街並みが浮かんだ。何年も前に魔物に滅ぼされた場所。
今はもう僕の記憶にしかない場所。
「ガルニア」
『……命名を受諾。これより箱庭都市ガルニアの初期設定を行います』
いわれるがままにいくつかの質問に答えた。
『マテリアル、エーテル備蓄は充分です。バリアー持続時間は720時間。再展開までのクールタイムは240時間』
『食料生産設備を作成します。畑レベル1を開放、生産量は100/1h』
『住民を確認。居住施設レベル1を開放、1ブロック50人の居住が可能』
『戦闘員を確認、後程戦士長を任命してください。戦力は6人で戦闘力は合計1500』
『アラート、バリアー外縁部に上位の魔獣を確認。戦闘力18000。現在の都市の戦闘力では撃退できません。早急に戦力の拡充が必要です』
昨夜のことは夢じゃなかったようだ。
傷ついた冒険者たちを荷車に乗せて、こちらに向かっている商隊に一行が映し出されている。
よく見ると、商隊の人数は僕が記憶していた時よりも減っていた。魔物の犠牲になってしまったのははぐれたままなのか、それはわからない。
それでも救うことができた人がいたと思うことにした。
『生命力レベルの低下を確認、危険です』
「何かできることは?」
『緊急治癒魔法を発動しますか?』
「お願い」
即答以外の選択肢はなかった。彼らの前にふわりと妖精が現れると、白い光となって消えた。そのすぐ後に荷車に横たわっていた戦士が目を覚まして、商隊の人たちから喜びの声が上がった。
「あきらめたら奴らの餌だぞ! ひるむな!」
仲間たちに檄を飛ばすが答えは弱弱しい声だった。護衛対象の商人はもう悲鳴を上げる気力もなく、ただ死への恐怖から足を前に進ませている。
疲労からか呼吸はぜえぜえと荒く、走るというよりはよたよたと歩いているような状態だ。
「畜生、なんてこった!」
絶望をぼやきに換えて口から出してみたが、心は軽くなるわけもなく棒のようになった手足は普段の軽快さは望むべくもなく、振るった剣を躱され狼が突進してくる。
喉首を狙ってきた牙に左腕を割り込ませ急所を守る。ああ、いっそ死んだほうが楽なのではないかと一瞬頭をよぎったが、歴戦のこの身体はどうも持ち主よりあきらめが悪いようだった。
大剣を地面に突き立て、ダガーを抜いて狼の首に突き込む。
ビクンと狼の身体がけいれんし、力が抜けたのを確認するとそのまま左腕を振り払う。
「アルバート、どうする?」
仲間の一人が声をかけてくるが、この絶望的な状況を打破する方法があるなら俺が聞きたかった。
魔法使いが苦しげな声で呪文を唱え……火球が狼の群れの真ん中で炸裂する。それにより数頭が火に包まれてのたうち回るが、奴らはひるむことなく怒りに染まった視線をこちらに向けてきた。
群れの中にひときわ大きな個体が現れた。それは周囲の狼よりも内包されたエーテルが多い。奴が一言吠えると、隣にいた魔法使いが吹き飛ばされた。
「おい!?」
魔物も上位個体となると魔法を使う奴がいるという。そんなのが相手じゃ万全の態勢であったとしても勝てない。
今まで目を背けていた絶望が俺の中をゆっくりと満たしていった。
ボスの個体がニヤリと顔をゆがませる。いや、あれは嗤ったのか。もはや奴らの餌になるしかない、弱者たる俺たちを。
「UOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!!」
ボスの遠吠えに周囲にいた狼たちがぐっと足に力をためる。一斉にとびかかってくる気だ。
周囲を確認すると仲間たちは倒れ伏すかへたり込んでいた。死んだ奴はいないようだがもはや時間の問題か。ならば一頭でも多く道連れにしてやろう。そんな覚悟を決めた。
「俺たちが食い止める。あんたらは少しでも先に逃げろ!」
商人たちに声をかける。馬車から弓使いが降りてきた。弓は背負ってダガーを逆手に構えている。
「白兵戦は趣味じゃないんだけどねえ」
彼女のボヤキに俺は笑みを返す。
ボスが一言吠えた。ずきずきと痛む体に活を入れ、剣を握りなおす。
駆けだした狼の群れがこっちに迫り……唐突に表れた光の壁にぶつかって消滅した。
「え……?」
隣にいた弓使いが呆然と声を上げる。
助かった。そう思ってしまったらもういろいろ無理だった。一度膝をつくとそのままずるずると座り込んでしまう。
どこの誰だか知らないが、命を救ってもらった借りは返すとそう心に刻みながら俺の意識は闇に閉ざされていった。
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「知らない天井だ」
ゆっくりと開いた目に見えたのは豪華なシャンデリアだった。そうか、僕は気を失っていたのか。
周囲を見渡すとそこはさっきの執務室だった。応接用のソファの上に寝かされていたようだ。
すでに夜は明け、柔らかい日差しが窓から差し込んでいた。
『マスターの意識レベルが覚醒まで回復』
「うわっ!?」
僕の目の前には握りこぶしくらいの大きさの水晶球が浮いていた。
『初めましてマスター。私はチコ』
「……え? その声は!?」
それは忘れもしない、昨夜出会った彼女のものだった。
『チュートリアルを実施しますか?』
「どういうことだ!」
『チュートリアルを実施しますか?』
「ねえ、答えてよ。あの子はどこ?」
『チュートリアルを実施しますか?』
何を言っても水晶球は同じ答えしか返さない。ならばと思ってその言葉に従うことにした。
『チュートリアルを実施しますか?』
「わかった、はじめて」
『承知いたしました。まずはこの都市の名前を決めてください』
名前……? この土地の名前ってことか。と考えたときふと故郷の街並みが浮かんだ。何年も前に魔物に滅ぼされた場所。
今はもう僕の記憶にしかない場所。
「ガルニア」
『……命名を受諾。これより箱庭都市ガルニアの初期設定を行います』
いわれるがままにいくつかの質問に答えた。
『マテリアル、エーテル備蓄は充分です。バリアー持続時間は720時間。再展開までのクールタイムは240時間』
『食料生産設備を作成します。畑レベル1を開放、生産量は100/1h』
『住民を確認。居住施設レベル1を開放、1ブロック50人の居住が可能』
『戦闘員を確認、後程戦士長を任命してください。戦力は6人で戦闘力は合計1500』
『アラート、バリアー外縁部に上位の魔獣を確認。戦闘力18000。現在の都市の戦闘力では撃退できません。早急に戦力の拡充が必要です』
昨夜のことは夢じゃなかったようだ。
傷ついた冒険者たちを荷車に乗せて、こちらに向かっている商隊に一行が映し出されている。
よく見ると、商隊の人数は僕が記憶していた時よりも減っていた。魔物の犠牲になってしまったのははぐれたままなのか、それはわからない。
それでも救うことができた人がいたと思うことにした。
『生命力レベルの低下を確認、危険です』
「何かできることは?」
『緊急治癒魔法を発動しますか?』
「お願い」
即答以外の選択肢はなかった。彼らの前にふわりと妖精が現れると、白い光となって消えた。そのすぐ後に荷車に横たわっていた戦士が目を覚まして、商隊の人たちから喜びの声が上がった。
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