箱庭の英雄~滅んだ世界を立て直すために古代遺跡から始まる内政ライフ~

響 恭也

文字の大きさ
上 下
1 / 37

歓呼の声

しおりを挟む
「なんでこうなった?」



 僕の眼下には人々が詰めかけていた。そこには老若男女、あらゆる種族の者が歓呼の声を上げていた。

「万歳! 我らがロードよ!」

「よくやった!」

「ありがとう!」



 その言葉はすべて俺に向けられている。市民は万歳と手を振り、兵たちは武器を天に向けて突きあげる。

 人々はみな笑顔だった。



『あんたがやったのよ。誇りなさい』

「ああ、けど実感はないんだよね……」

 声は僕の肩のあたりから聞こえてくる、僕以外には見えないクリスタルの球体。

 それはこの都市のすべての管理を司るコアの分離体で、自称「万能型全方位お助け天使」のチコというそうだ。

 たまに小さな妖精の姿になって姿を現すこともある。



「がははははははっ、殿!」

 酒瓶を片手に大柄な戦士が呵々大笑しながら歩いてきた。

「ああ、アルバート。今回は君のおかげで助かったよ」

「わははははははは、殿の采配に従って戦っただけですぞ? それに臣下の武勲は主君のものにござる」

「ああ、もう、その殿呼ばわりやめてほしいんだけどなあ……」

 ぼそっとつぶやくが、戦士長アルバートは大笑いしているだけだった。実は笑い上戸だったのか。

 普段は厳めしい顔をしているだけに、ゲラゲラ笑う姿には違和感すら感じる。



「アルバート殿。そこらへんにしておきなさい。殿がお困りでしょう」

「ん? ああ。アリエル殿か。今日くらいはよかろうに。めでたき戦勝の祝いゆえ」

 アリエルはエルフの女性だ。魔術師をまとめてくれている。エルフの賢者として、助言をしてくれる。今はこうだけど、実際彼女ともいろいろあったんだ。

「なにか?」

 ゆったりとした笑みを浮かべる姿は、出会ったころの面影すらない。

 何でもないと返そうとした瞬間、背後に人の気配を感じた。



「にゅふふふー! あー、旦那!」

 背中にふにゅんと何かが押し付けられた。それはリンゴほどのボリューム感をもって自己主張している。

 その行動と口調で俺の脳裏にはネコミミの少女が思いうかぶ。

「ああ、セリア。わかった、わかったから離れて」

 ネコミミではあるが、実は虎の獣人らしい。俺の護衛を務めてくれている。

 意見の相違を見せたときにアルバートを寸勁を使って一撃で沈めたこともあった。



 とある事件で知り合った時はこんなんじゃなかったんだけどなあ。

「うにゅー、にゅふふふー。だってうれしいんですニャ。旦那がついに本気になったからニャ」

 にぱっと笑顔を浮かべるセリア。背中にへばりつくのはやめてくれたが、僕の腕に絡みついている。肘には先ほど押し付けられた感触が再び襲ってきていた。

 何とか引きはがしつつ、ここにいない人のことを思い出した。



「あれ? レギンは?」

「彼の鍛冶師殿は真っ先に飲んだくれておりましたな」

 アルバートがジョッキを傾けながら答えてくれた。

 ああ、まあいつものことか。と思っていたら、ひげ面、樽のような体系のドワーフ族のレギンがやってきた。

「おう、殿のもたらしてくれたこの蒸留酒は素晴らしいですな!」

「飲み過ぎたらだめだよ?」

「わはははははは。酒はドワーフの最も近しい友じゃ」

 レギンは忘れてしまったのだろうか。最初にウオツカをあおってぶっ倒れたときのことを。



『クリエイト』

 呪言キーワードを唱えると、手にグラスと氷水が現れる。

「とりあえずこれを飲んで」

「うぬ? 氷水ですか……ほほう!」

 レギンの持っていたジョッキから濃いアルコールの香りがしていた。それをカパッと飲み干していたから、チェイサーを渡したんだけど、どうもその飲み方が気に入ったようだ。

 いつの間にかアルバートも手を差し出している。同じく氷水を顕現させて手渡した。



「っかー! 効きますな。そのあとにキンキンに冷えた水を飲むと……ップハー!」



 ガツンとアルバートとレギンがジョッキをぶつけている。

 その二人を見てアリエルはやれやれと肩をすくめていた。



 そんな個性豊かな彼らは、この都市ガルニアの領主である俺に付き従う臣下だ。



 耳元で電子音が鳴る。チコが具現化していた。

『いろいろあったわねえ』

「そうだね、この1年、本当に大変だったよ」

『ふふ、あたしを見てピーピー言ってたのに、育ったものだわ』

「そりゃね、死にたくなかったし」



「おう、チコ殿。飲みますか?」

『アルバート、あたしに実体はないから飲めないって前にも言わなかったっけ?」

「がははははは、そうだった。うわははははははは!」

『あーも、うるさい酔っ払いね。いい筋肉してなかったら消し飛ばしてるところだわ』



 なんかいつも通りのわちゃわちゃしたやり取りだ。ここしばらく忙しくてそれどころじゃなかったからなあ。



 こうして、僕はあの時のことを思い出していた。すべてが始まった日の事を。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

神々の娯楽に巻き込まれて強制異世界転生ー1番長生きした人にご褒美有ります

ぐるぐる
ファンタジー
□お休みします□ すみません…風邪ひきました… 無理です… お休みさせてください… 異世界大好きおばあちゃん。 死んだらテンプレ神様の部屋で、神々の娯楽に付き合えと巻き込まれて、強制的に異世界転生させられちゃったお話です。 すぐに死ぬのはつまらないから、転生後の能力について希望を叶えてやろう、よく考えろ、と言われて願い事3つ考えたよ。 転生者は全部で10人。 異世界はまた作れるから好きにして良い、滅ぼしても良い、1番長生きした人にご褒美を考えてる、とにかく退屈している神々を楽しませてくれ。 神々の楽しいことってなんぞやと思いながら不本意にも異世界転生ゴー! ※採取品についての情報は好き勝手にアレンジしてます。  実在するものをちょっと変えてるだけです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

転生しても山あり谷あり!

tukisirokou
ファンタジー
「転生前も山あり谷ありの人生だったのに転生しても山あり谷ありの人生なんて!!」 兎にも角にも今世は “おばあちゃんになったら縁側で日向ぼっこしながら猫とたわむる!” を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...