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未熟

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 ここまで徒歩で移動してきたことを後悔した。それでも脚力を魔力で強化し、風を操って速度を上げる。
 普段なら魔力効率が悪いからこんなことはしない。けど非常事態なら仕方ない。
 倦怠感を感じると、腰のポーチからマナポーションの丸薬を口に放り込む。

「うえええええええええ……」
 マズい。まずすぎる。思わずあふれる涙をぬぐって、前だけを見据えて走る。

 道をふさぐ岩の大きさはわからない。ただ、大きな岩というだけならわたしのオリジナル魔法で何とかできるかもしれない。
 たまに鉱物を含む岩とかの場合、魔力の伝導率が変わってしまうために威力が軽減されてしまう。

 いろいろごちゃごちゃ考えながらも魔法の制御が途切れなかったのはまさに日ごろの鍛錬のおかげなんだろう。
 街道のわきに馬車が並び、復旧のめどがつくかを見極めている商人たちの姿があった。
 ここから見える先には大きな岩がいくつか落下していて、さらに先日からの大雨の影響か、斜面のところどころから水が噴き出していた。岩なんかフッ飛ばしてやろうと先に進もうとしたところ、止められた。

「この先は危険です。今通行は許可できません」
 なんとか隙間を抜けようとした冒険者が再度崩れた土砂に生き埋めになりかけたらしい。
「いいから通しなさい! わたしの魔法で吹き飛ばしてあげるわ!」
「危険です!」
「わたしはこの先のダンジョンに行かないといけないのよ!」
 押し問答をしていると、後ろから魔法使いと思しき気配が近づいてくる。
 ギルド職員? まさか? わたしでも全力で加速してきたのに……?

「あー、すんません。取り込み中失礼します」
 なんかさえない男がやってきた。
「はっ!」
 兵士がこっちを振り向く。あからさまにほっとした顔をしているのはわからくもないけどちょっと失礼じゃない?
「なによ! いまわたしが話してるんだから邪魔しないで!」
「ああ、お待ちかねのギルド職員だ。第三部所属魔導士のギルバートだ」
 兵士の表情がパッと明るくなる。
「お待ちしていました!」
「やっと来たの? 早くあの岩を何とかして頂戴」
 普段ならこういう言い方はしない。それに、がけ崩れが起きてすぐ帝都を発ったなら、すごい速度できたことは間違いない。
 何をどうやったかはわからないけど、凄腕ではあるんだろう。

「まずは調査が必要です。無論お急ぎの事情は分かりますが、まずは安全を確保しないといけない。ご理解いただけますか、お嬢様」
「……どれくらいかかるの?」
「そうですね……1~2日は」
 その間に彼のお母さまに何かあったらどうするんだ。思わず口をついて出かけた言葉を飲み込む。ただ、頭に上った血は降りてくれない。
「そんなに待てないって言ってるでしょう!」
 また口をついていやな言葉が出てくる。
「……事情をお聞きしても?」
「うるさいわね! あんたにそんなこと関係ないでしょう!」
 肩をすくめる男は何かあるんだろうと察してくれたようだ。
「安全を確保が最優先です。そこは譲れません」
 仏頂面でそう告げる男にまず魔法を打ち込みたくなった。
「ああもう、御託は良いから早くしなさい!」
 違う、彼を引き留めていたのはわたしだ。いらだちをぶつけてしまって時間を浪費させてしまった。
 先生の教えはこういうことか、とストンと腑に落ちる。

 少し冷静になれたが、一刻を争う。だから彼についていくことにした。
「……なんでついてくるんですかね?」
 ジトッとこっちを見る目つきはやはり好きになれそうもなかった。

 会話を交わしつつ、現場へと向かう。そして彼が口にした見積もりはひと月以上。とても待てたもんじゃない。

 全身の魔力を全力で励起させる。ティルフィングを抜き放ち逆手に構えた。
「馬鹿、待て!」
 静止の声が聞こえたが待っていられない。
「凍てつきし吐息よ、白銀に輝く流れよ、我が指先の指し示す方に流れよ。フリージング・ブレス!」
 凍らせて固めればすぐには崩れない。
 そこ考えがすごく浅はかだったことを知るのは直後だったけど、その時は早くしなきゃということしか見えてなかった。

「わが呼び声に応えよ風の精 我かざすは無影の刃 打ち振るいしは風の聖剣 エクスカリバー!」
 半分の魔力を刃に変換し、一気に放つ。放たれた刃は狙い通りに道をふさぐ岩を両断する。
 そして残りの魔力を暴風として放った。
 もともとそれほど強度の高くなかった岩は砕けて、大き目の石が残っているので馬車などは厳しいだろうけど、歩きなら何とか向こうにいけそうな感じだった。
 視野狭窄。まさにその状態でわたしは走り出した。ギルド職員の再度の制止を振り切って駆け出し……再度の崩落に巻き込まれた。

「きゃああああああああああああああああ!!」
「森羅万象の息吹よ、集いて堅牢なる城壁となれ フォートレス!」
 瞬時に距離を詰め、二節の短縮詠唱で人間二人分を覆う結界を展開した。
 その堅牢さは、普通これほどの重量がかかれば即崩壊してもおかしくない。それでも追加の魔力を注ぎ込むことなく維持されている。
 叫びは途中から恐怖ではなく、驚きの方が大きくなっていたくらいだ。

 唐突に口をふさがれた。静かにするよう言われたので頷く。
 光源の魔法を使うが、なぜか指先を光らせていた。普通ならば魔力の球を浮かべるものなんだけど……けどこれほどの結界を瞬時に編み上げる力量からするとやたらアンバランスだ。

 魔導士としての力量は、たぶんわたしの上を行く。 
 第二階梯を授与されたと言ってもわたしはまだまだ駆け出しだ。だからこそ、先輩の力量を見極めようと思ったのだ。
 
 それは自らの未熟さを痛感し、さらに上を目指そうという決意でもあった。
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