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台湾動乱
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天正10年6月。
朝廷は正親町天皇と平朝臣太政大臣織田信長の名のもとに惣撫事令を発令した。これにより、日ノ本は統一され、信長を頂点とした天下政権のもとに統治されることとなる。
蝦夷地の開拓は端緒についたところであるが、目付が島津から派遣されることが決まった時点で東北の諸氏は震え上がった。陸前の戦いでわずか100名でほぼ中央突破を果たしかけていた島津維新の名はもう鬼か怪物かというほどの勇名を得ていたのである。めったなことをしたら首が物理的に飛ぶことを否応なしに理解させられた。
南方は琉球を平定した島津家が台湾に間者を送り込み現地の世情を探っていた。化外の地と言われるほどで、統治は事実上されておらず、犯罪者が島流しにあっている。その中で腕っぷしの強いものが力ずくで人々を従わせている状態で、それこそ軍と呼べる者も無いありさまであった。対外的には明の領土であり、中央から官僚が派遣されているはずだが実際には赴任していないようであった。
騒動の発端はたまたま職務熱心な管理が派遣され、真面目に台湾を統治しようとしていたところから始まる。
「伯陽殿。戸籍の本日作業完了分はこちらになります」
「ああ、ありがとう。木蘭。今日はもう上がりなさい」
「上がるといっても、帰るところ一緒じゃないですか」
「ぐぬ、じゃあ、少し待ってなさい。もう少し書類を整理したら私も帰る」
「はい」
木蘭と呼ばれた少女はそれこそ花の咲いたような笑顔を浮かべた。
伯陽は中央の管理であったが不正を告発したときに上役ににらまれて台湾に、要するに左遷されたのだった。木蘭はその時雇っていた小間使いの少女であったが、読み書きができたため伯陽の秘書役をしていた。上役ににらまれた管理に未来はないと、暇を出したのだがそのままついてきてしまい、今では伯陽の官舎で寝泊まりしている。
これで弓の達人で、武術も修めている。文若の徒である伯陽よりもよほど強いのである。伯陽には広州で雇った護衛の兵がついており、ひとまずごろつきの頭目程度は簡単に制圧してくれた。なかば土着化していた台湾の役人たちを何とかまとめ上げ、ひとまず統治ができるようにまとめ上げつつあったのである。
そして島津家の間者で倭人が暗躍し始めていることを察知する。先日琉球が陥落し、島津の支配下に入った。しかし形式上は尚寧王が日ノ本に渡った後、天皇の臣下となって琉球守の官位を与えられている。そのうえで、明の冊封のもとで交易を続けていたが、事実上は島津が取り仕切っている。島津龍伯は尚寧王の配下となって宰相の位を得ていたが、外聞のみであり、事実上は上下が逆転しているという。尚寧王自身は形式上は今まで通りで、実権も臣下に半ば奪われていたため実情は変わらぬといっそ開き直っていたらしい。
さて、明の万暦9年、中央より巡察史が台湾に派遣されてきた。当然のように賄賂を要求し、伯陽はそれを拒絶した。すると台湾の代官、賀伯陽は朝廷に叛意ありと報告する。そして台湾を独立させ倭国と結び明に敵対しようとしていると報告した。
伯陽は台湾では善政を敷き、元罪人や、現地の民も彼を支持しつつあった。罪人と言っても賄賂を断ったなどの無実の罪を着せられたものも多く、台湾に骨をうずめる覚悟で働き始めた者も出ていた。そこに朝廷の送り込んだ管理が伯陽を断罪し、彼を捕らえんと捕吏をよこしたのである。
さて、島津の間諜はこの動きを利用した。住民を扇動し、伯陽を救えと焚きつけたのである。それに乗せられた住民が捕吏に詰め寄り、取り囲んだ。これにより結果として伯陽は謀反人になってしまったのだが、住民は明の役人を追い返したと勝利に沸いていた。
伯陽は蒼白になっていた。台湾の全土からかき集めても明に対抗できる兵力があるわけがないし、彼は戦の経験がない。
「こうなってはもはや私の首一つでは収まるまい。どうしたものか」
「伯陽様。戦いましょう!」
「勝てると思っているのかい?」
「ですがこのままでは!?」
「うん、まあ、この地の民を巻き込むことになってしまうね」
「彼らは伯陽様のために戦うと言ってくれています。彼らを率いてください」
「だがね、どんなにかき集めてもいいところ3000だ。明の兵力を考えたらとても太刀打ちできないよ」
「ではどうすれば…」
「一度や二度追い返したとしても、次々と開いては兵を増やす。そして犠牲なしに勝てるわけがないからこっちはじり貧だ」
「そうですわね…では援軍を呼べば?」
「琉球は倭国に降ったそうだし、もともと明の冊封国だし」
「その倭国に援軍をもとめては?」
「ふむ、やれる手はそれだけなら、やってみようか」
伯陽は倭国の言葉を話せる者を探した。そして数名の男が志願してきた。と言っても彼らは島津の間諜であるが。
倭国、九州の王に伝手があるという商人の男に手紙を託した。そしてほどなく返書がやってくる。九州の王、明智光秀は配下の島津という将をよこしてくれる。との内容だ。
台湾の兵…と言ってもごろつきに毛が生えた程度だが、そろいの軍服を着せ、鎧と槍を装備させた。そして、使者に出した商人の男とともにやってきた剽悍な兵たちと、それを率いる毛穴一つ一つから血の匂いを発していそうな将。島津家久と名乗った彼と1500の兵は直ちに明軍迎撃の準備を始めた。
船から先頭に従事する兵とは別に500ほどの兵が沿岸に防御施設を作り上げてゆく。島津の鉄砲隊がその塁に配置されていった。高台の本陣からその様子を見るが、射線で互いに援護できるように配置されており、倭国の兵は戦慣れしていることがよく分かった。
そしてついに明軍が押し寄せる。小舟に分散して上陸してくる。海岸の防御施設には島津の兵だけが入り、伯陽率いる兵は、本陣の防備と、追い打ちだけ参加するように依頼されている。
戦端は開かれた。家久が采を振るうと必ず二方向から挟み撃ちにするように鉄砲が撃ち込まれ、明軍は血煙の中に倒れ伏す。家久の長子と言われるまだ少年の将が、喊声を上げて突撃していく。あっという間に蹴散らされ、家久の合図に従い伯陽は兵に攻撃の命令を出した。
明軍は多数の戦死者を残して敗走した。もう後に引けぬと、伯陽は台湾王を自称し、明よりの独立を宣言する。そして、家久との交渉に寄り、倭国の冊封国家として従属することとした。
島津の将兵が台湾に常駐し、それに対して倭国に税を支払う。だが明に比べれば税は安く、倭国本土より流入する資本によって台湾は空前の発展を遂げるのである。
そして格下の国と思っていた倭国に属領を二つもかすめ取られ万暦帝は激怒した。李氏朝鮮に銘じて対馬経由で倭国への侵攻を命じたのである。
朝廷は正親町天皇と平朝臣太政大臣織田信長の名のもとに惣撫事令を発令した。これにより、日ノ本は統一され、信長を頂点とした天下政権のもとに統治されることとなる。
蝦夷地の開拓は端緒についたところであるが、目付が島津から派遣されることが決まった時点で東北の諸氏は震え上がった。陸前の戦いでわずか100名でほぼ中央突破を果たしかけていた島津維新の名はもう鬼か怪物かというほどの勇名を得ていたのである。めったなことをしたら首が物理的に飛ぶことを否応なしに理解させられた。
南方は琉球を平定した島津家が台湾に間者を送り込み現地の世情を探っていた。化外の地と言われるほどで、統治は事実上されておらず、犯罪者が島流しにあっている。その中で腕っぷしの強いものが力ずくで人々を従わせている状態で、それこそ軍と呼べる者も無いありさまであった。対外的には明の領土であり、中央から官僚が派遣されているはずだが実際には赴任していないようであった。
騒動の発端はたまたま職務熱心な管理が派遣され、真面目に台湾を統治しようとしていたところから始まる。
「伯陽殿。戸籍の本日作業完了分はこちらになります」
「ああ、ありがとう。木蘭。今日はもう上がりなさい」
「上がるといっても、帰るところ一緒じゃないですか」
「ぐぬ、じゃあ、少し待ってなさい。もう少し書類を整理したら私も帰る」
「はい」
木蘭と呼ばれた少女はそれこそ花の咲いたような笑顔を浮かべた。
伯陽は中央の管理であったが不正を告発したときに上役ににらまれて台湾に、要するに左遷されたのだった。木蘭はその時雇っていた小間使いの少女であったが、読み書きができたため伯陽の秘書役をしていた。上役ににらまれた管理に未来はないと、暇を出したのだがそのままついてきてしまい、今では伯陽の官舎で寝泊まりしている。
これで弓の達人で、武術も修めている。文若の徒である伯陽よりもよほど強いのである。伯陽には広州で雇った護衛の兵がついており、ひとまずごろつきの頭目程度は簡単に制圧してくれた。なかば土着化していた台湾の役人たちを何とかまとめ上げ、ひとまず統治ができるようにまとめ上げつつあったのである。
そして島津家の間者で倭人が暗躍し始めていることを察知する。先日琉球が陥落し、島津の支配下に入った。しかし形式上は尚寧王が日ノ本に渡った後、天皇の臣下となって琉球守の官位を与えられている。そのうえで、明の冊封のもとで交易を続けていたが、事実上は島津が取り仕切っている。島津龍伯は尚寧王の配下となって宰相の位を得ていたが、外聞のみであり、事実上は上下が逆転しているという。尚寧王自身は形式上は今まで通りで、実権も臣下に半ば奪われていたため実情は変わらぬといっそ開き直っていたらしい。
さて、明の万暦9年、中央より巡察史が台湾に派遣されてきた。当然のように賄賂を要求し、伯陽はそれを拒絶した。すると台湾の代官、賀伯陽は朝廷に叛意ありと報告する。そして台湾を独立させ倭国と結び明に敵対しようとしていると報告した。
伯陽は台湾では善政を敷き、元罪人や、現地の民も彼を支持しつつあった。罪人と言っても賄賂を断ったなどの無実の罪を着せられたものも多く、台湾に骨をうずめる覚悟で働き始めた者も出ていた。そこに朝廷の送り込んだ管理が伯陽を断罪し、彼を捕らえんと捕吏をよこしたのである。
さて、島津の間諜はこの動きを利用した。住民を扇動し、伯陽を救えと焚きつけたのである。それに乗せられた住民が捕吏に詰め寄り、取り囲んだ。これにより結果として伯陽は謀反人になってしまったのだが、住民は明の役人を追い返したと勝利に沸いていた。
伯陽は蒼白になっていた。台湾の全土からかき集めても明に対抗できる兵力があるわけがないし、彼は戦の経験がない。
「こうなってはもはや私の首一つでは収まるまい。どうしたものか」
「伯陽様。戦いましょう!」
「勝てると思っているのかい?」
「ですがこのままでは!?」
「うん、まあ、この地の民を巻き込むことになってしまうね」
「彼らは伯陽様のために戦うと言ってくれています。彼らを率いてください」
「だがね、どんなにかき集めてもいいところ3000だ。明の兵力を考えたらとても太刀打ちできないよ」
「ではどうすれば…」
「一度や二度追い返したとしても、次々と開いては兵を増やす。そして犠牲なしに勝てるわけがないからこっちはじり貧だ」
「そうですわね…では援軍を呼べば?」
「琉球は倭国に降ったそうだし、もともと明の冊封国だし」
「その倭国に援軍をもとめては?」
「ふむ、やれる手はそれだけなら、やってみようか」
伯陽は倭国の言葉を話せる者を探した。そして数名の男が志願してきた。と言っても彼らは島津の間諜であるが。
倭国、九州の王に伝手があるという商人の男に手紙を託した。そしてほどなく返書がやってくる。九州の王、明智光秀は配下の島津という将をよこしてくれる。との内容だ。
台湾の兵…と言ってもごろつきに毛が生えた程度だが、そろいの軍服を着せ、鎧と槍を装備させた。そして、使者に出した商人の男とともにやってきた剽悍な兵たちと、それを率いる毛穴一つ一つから血の匂いを発していそうな将。島津家久と名乗った彼と1500の兵は直ちに明軍迎撃の準備を始めた。
船から先頭に従事する兵とは別に500ほどの兵が沿岸に防御施設を作り上げてゆく。島津の鉄砲隊がその塁に配置されていった。高台の本陣からその様子を見るが、射線で互いに援護できるように配置されており、倭国の兵は戦慣れしていることがよく分かった。
そしてついに明軍が押し寄せる。小舟に分散して上陸してくる。海岸の防御施設には島津の兵だけが入り、伯陽率いる兵は、本陣の防備と、追い打ちだけ参加するように依頼されている。
戦端は開かれた。家久が采を振るうと必ず二方向から挟み撃ちにするように鉄砲が撃ち込まれ、明軍は血煙の中に倒れ伏す。家久の長子と言われるまだ少年の将が、喊声を上げて突撃していく。あっという間に蹴散らされ、家久の合図に従い伯陽は兵に攻撃の命令を出した。
明軍は多数の戦死者を残して敗走した。もう後に引けぬと、伯陽は台湾王を自称し、明よりの独立を宣言する。そして、家久との交渉に寄り、倭国の冊封国家として従属することとした。
島津の将兵が台湾に常駐し、それに対して倭国に税を支払う。だが明に比べれば税は安く、倭国本土より流入する資本によって台湾は空前の発展を遂げるのである。
そして格下の国と思っていた倭国に属領を二つもかすめ取られ万暦帝は激怒した。李氏朝鮮に銘じて対馬経由で倭国への侵攻を命じたのである。
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