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越前平定と水軍増強
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天正3年夏、浅井長政を先陣として、羽柴、丹羽、明智を率いて信長は越前へ乱入した。越前は旧朝倉家臣に分割されていたが、内部分裂に付け込まれ一向宗の侵攻を招いた。彼らは一向宗に討ち取られその報いを受けたが、呼び込んだ土豪たちも一向宗の坊主の過酷な支配を受け、さらには秀隆の策謀に寄り一向宗は民衆にそっぽを向かれ、その力を大きく落としている。侵攻した織田勢は木の芽峠で膠着していると見せかけ、丹羽、明智、羽柴の手勢が海路で上陸し、敵の後方を脅かした。挟み撃ちを恐れた木の芽峠の軍は撤退中に猛烈な追撃を受け多大な損害を出したのである。この戦いで一向宗北陸軍の指揮官であった杉浦玄任が討たれた。討ち取ったのは浅井軍先鋒を率いていた磯野丹波であった。
七里頼周と下間頼総は加賀の軍を率いて南下したが、さらに侵攻してきた丹羽、明智軍と加賀の国境付近で激突した。大きく数に優る一揆勢が攻めかけたが明智の鉄砲隊にさんざんに撃ちかけられ、法衣を着ている者から狙撃されるに至り軍の統制はあっさりと崩壊した。両軍は大聖寺まで進軍し、城を占領してここでいったん軍をとどめ、後方の平定と補給線の確保を行っていた。また近隣の寺も門徒に背かれ勢力を維持できないとなって織田の保護下に入ることを申し出、一部の悪質な寺は寺領没収の憂き目を見たが、多くは降伏を認められた。
羽柴秀吉の軍は白山連峰のふもとまで軍を進め、大野郡を平定した。もはや思想的に後戻りできないものも多数いたが、彼らは解き放たれ加賀の尾山御坊まで移送される。無傷で帰って来た彼らを下間頼総は疑い、最前線で使いつぶすがごとき扱いをした。これにより門徒衆の中でも内部分裂が始まり、河原者から始まった流言が徐々に尾山御坊内部に浸透してゆく。尾山御坊にはまだ万を数える番衆が在陣したがすでにその勢力は衰亡の一途をたどるのである。
加賀には戸次右近が在番することとなった。元の名を梁田政綱という。大聖寺の城を固め、一揆勢の崩壊を待つ簡単なお仕事であったが…下間の逆襲を受け城を包囲され身動きが取れなくなった。のちに浅井長政の援軍を受け解放されるが大聖寺の城は磯野丹波が城代となり、最前線の防衛を固めることとなるのである。
「おう義弟殿、此度の戦勝をお祝い申し上げる」
「秀隆殿、ありがとうございます」
「して、越前だが戦災で大きく荒れておる。復興を急がねばまた政情不安のもとになりかねぬ」
「おっしゃる通りです。ですが、元手がなくどこから手を付けてよいかと頭を痛めており申す」
「では、正之殿も同席願おうか。兄上から指示を預かってきておる」
「はっ、すぐに呼びにやらせます」
しばらくして長政の弟の正之がやってきた。
「正之殿、お久しぶりにござる」
「秀隆様にはご機嫌麗しゅう」
「うん、あいさつはこれくらいにしておこう。まずはこの資料を見てほしい。尾張において実施しておる政策だが…」
「これは…!」
「元手は織田宗家で見る。税は今年は免除としよう。そのうえで工事を行い民に金を回す。そのうえで取る」
「そこまでしていただくわけには…」
「貸を作るのが怖いか? だが越前に又反乱が起きればそれ以上の費用と人命を浪費する。それを防ぐための投資だ。あと、勘違いしてもらっては困るがこれは借銭だ。税が取れるようになったら徐々に返済してもらおう」
「はっ、承知いたしました」
「では、実際の段取りを話し合おうか…」
平定された越前は浅井正之の指揮のもと九頭竜川沿いの干拓と築堤作業が行われ始めた。これは10年の後に完成するが、織田の財力を惜しみなくつぎ込み、また戦で不具になった者や、戦災孤児、未亡人などを優先して雇い入れたため、越前の国情は急速に安定していった。秀隆の考えだした孤児院や寺子屋などの政策も適用され、また敦賀へ抜ける街道の整備も行われた。加賀との国境には野戦陣と砦が築かれる。これらの大規模な工事による資本投下で越前は急速な発展を遂げるのであった。
秀隆は尾張の港で九鬼衆と相談をしていた。琵琶湖に浮かべた鉄張り軍船と同じものを海で運用できないかと持ち掛けたのである。熱田湊と別れた分家と合わせて九鬼衆が総力を挙げ軍船の開発にかかった。熊野灘はほぼ制圧しつつある。紀伊の海賊衆は堺経由で支配下に置いた。また軍船の数も織田の後ろ盾があるため次々と増産される。九鬼水軍の制海権は伊勢湾から熊野灘、遠江沖までに至った。
ここで大阪湾の制海権を握れば、石山本願寺を締め上げることができる。だが淡路水軍は三好の一門安宅信康が支配し、背後には毛利の支援を得た瀬戸内海の海賊衆がいる。能島、来島、因島を根城とする三島水軍がその主力であり、織田水軍は苦杯をなめさせられていた。海路からの補給と水路から夜陰に紛れての補給が3万の番衆の補給を支えており、これの遮断が石山陥落の端緒となることはお互いに明らかであった。
顕如の要請と足利義昭の命により、毛利水軍が大船団を仕立てて石山へ向かう。兵員と物資の補給のためである。阻止しようと攻撃を仕掛ける上申が上がったが、秀隆の進言で却下されることとなった。現状では毛利水軍の規模と練度にかなわず、打ち破れるだけの手を打ってから決戦をかけるというのがその言い分である。九鬼水軍と大型船の建造についての相談をしていたのがその内容であるのだが、これは秀隆の未来知識で、木津川沖海戦の結果を知っていたためであり、鉄張り大安宅の案も同様である。
さて、熊野灘から紀伊沖にかけては織田水軍が制圧しており、紀伊の勢力を二分する根来寺が徐々に織田に接近しているとの風評が流れ出した。ちょび髭の芸人が出没し門徒がごっそりと離反するきっかけを作ったといわれるが噂の範囲を出ないものである。
紀伊本国がごたついていることもあり、雑賀、根來の傭兵も士気が振るわない。攻めかけても佐久間信盛の重厚な防衛線に跳ね返され包囲を抜くことができない。鉄環を締め上げるがごとき包囲網に石山本山の疲弊は徐々に蓄積されてゆくのである。
「大殿が参られました」
「おう、ではお迎えせねばな」
「信盛、見事に本願寺を押さえておるな。役目大義!」
「ははっ、ありがとうございます」
「岸和田に入れた蜂谷の様子はどうじゃ?」
「紀伊からの補給線の遮断をしていただいており、非常に助かっております」
「うむ、海路の遮断は今秀隆と九鬼が手を打っておる、もうしばらくこらえてくれ」
「はっ、粉骨の覚悟で当たります!」
「うむ、励め!」
信長が去った後信盛はふと寂寥感にかられた。あれ? 落ちは?
すっかりと芸人体質にならされていることに気づき、愕然とする信盛であった。
七里頼周と下間頼総は加賀の軍を率いて南下したが、さらに侵攻してきた丹羽、明智軍と加賀の国境付近で激突した。大きく数に優る一揆勢が攻めかけたが明智の鉄砲隊にさんざんに撃ちかけられ、法衣を着ている者から狙撃されるに至り軍の統制はあっさりと崩壊した。両軍は大聖寺まで進軍し、城を占領してここでいったん軍をとどめ、後方の平定と補給線の確保を行っていた。また近隣の寺も門徒に背かれ勢力を維持できないとなって織田の保護下に入ることを申し出、一部の悪質な寺は寺領没収の憂き目を見たが、多くは降伏を認められた。
羽柴秀吉の軍は白山連峰のふもとまで軍を進め、大野郡を平定した。もはや思想的に後戻りできないものも多数いたが、彼らは解き放たれ加賀の尾山御坊まで移送される。無傷で帰って来た彼らを下間頼総は疑い、最前線で使いつぶすがごとき扱いをした。これにより門徒衆の中でも内部分裂が始まり、河原者から始まった流言が徐々に尾山御坊内部に浸透してゆく。尾山御坊にはまだ万を数える番衆が在陣したがすでにその勢力は衰亡の一途をたどるのである。
加賀には戸次右近が在番することとなった。元の名を梁田政綱という。大聖寺の城を固め、一揆勢の崩壊を待つ簡単なお仕事であったが…下間の逆襲を受け城を包囲され身動きが取れなくなった。のちに浅井長政の援軍を受け解放されるが大聖寺の城は磯野丹波が城代となり、最前線の防衛を固めることとなるのである。
「おう義弟殿、此度の戦勝をお祝い申し上げる」
「秀隆殿、ありがとうございます」
「して、越前だが戦災で大きく荒れておる。復興を急がねばまた政情不安のもとになりかねぬ」
「おっしゃる通りです。ですが、元手がなくどこから手を付けてよいかと頭を痛めており申す」
「では、正之殿も同席願おうか。兄上から指示を預かってきておる」
「はっ、すぐに呼びにやらせます」
しばらくして長政の弟の正之がやってきた。
「正之殿、お久しぶりにござる」
「秀隆様にはご機嫌麗しゅう」
「うん、あいさつはこれくらいにしておこう。まずはこの資料を見てほしい。尾張において実施しておる政策だが…」
「これは…!」
「元手は織田宗家で見る。税は今年は免除としよう。そのうえで工事を行い民に金を回す。そのうえで取る」
「そこまでしていただくわけには…」
「貸を作るのが怖いか? だが越前に又反乱が起きればそれ以上の費用と人命を浪費する。それを防ぐための投資だ。あと、勘違いしてもらっては困るがこれは借銭だ。税が取れるようになったら徐々に返済してもらおう」
「はっ、承知いたしました」
「では、実際の段取りを話し合おうか…」
平定された越前は浅井正之の指揮のもと九頭竜川沿いの干拓と築堤作業が行われ始めた。これは10年の後に完成するが、織田の財力を惜しみなくつぎ込み、また戦で不具になった者や、戦災孤児、未亡人などを優先して雇い入れたため、越前の国情は急速に安定していった。秀隆の考えだした孤児院や寺子屋などの政策も適用され、また敦賀へ抜ける街道の整備も行われた。加賀との国境には野戦陣と砦が築かれる。これらの大規模な工事による資本投下で越前は急速な発展を遂げるのであった。
秀隆は尾張の港で九鬼衆と相談をしていた。琵琶湖に浮かべた鉄張り軍船と同じものを海で運用できないかと持ち掛けたのである。熱田湊と別れた分家と合わせて九鬼衆が総力を挙げ軍船の開発にかかった。熊野灘はほぼ制圧しつつある。紀伊の海賊衆は堺経由で支配下に置いた。また軍船の数も織田の後ろ盾があるため次々と増産される。九鬼水軍の制海権は伊勢湾から熊野灘、遠江沖までに至った。
ここで大阪湾の制海権を握れば、石山本願寺を締め上げることができる。だが淡路水軍は三好の一門安宅信康が支配し、背後には毛利の支援を得た瀬戸内海の海賊衆がいる。能島、来島、因島を根城とする三島水軍がその主力であり、織田水軍は苦杯をなめさせられていた。海路からの補給と水路から夜陰に紛れての補給が3万の番衆の補給を支えており、これの遮断が石山陥落の端緒となることはお互いに明らかであった。
顕如の要請と足利義昭の命により、毛利水軍が大船団を仕立てて石山へ向かう。兵員と物資の補給のためである。阻止しようと攻撃を仕掛ける上申が上がったが、秀隆の進言で却下されることとなった。現状では毛利水軍の規模と練度にかなわず、打ち破れるだけの手を打ってから決戦をかけるというのがその言い分である。九鬼水軍と大型船の建造についての相談をしていたのがその内容であるのだが、これは秀隆の未来知識で、木津川沖海戦の結果を知っていたためであり、鉄張り大安宅の案も同様である。
さて、熊野灘から紀伊沖にかけては織田水軍が制圧しており、紀伊の勢力を二分する根来寺が徐々に織田に接近しているとの風評が流れ出した。ちょび髭の芸人が出没し門徒がごっそりと離反するきっかけを作ったといわれるが噂の範囲を出ないものである。
紀伊本国がごたついていることもあり、雑賀、根來の傭兵も士気が振るわない。攻めかけても佐久間信盛の重厚な防衛線に跳ね返され包囲を抜くことができない。鉄環を締め上げるがごとき包囲網に石山本山の疲弊は徐々に蓄積されてゆくのである。
「大殿が参られました」
「おう、ではお迎えせねばな」
「信盛、見事に本願寺を押さえておるな。役目大義!」
「ははっ、ありがとうございます」
「岸和田に入れた蜂谷の様子はどうじゃ?」
「紀伊からの補給線の遮断をしていただいており、非常に助かっております」
「うむ、海路の遮断は今秀隆と九鬼が手を打っておる、もうしばらくこらえてくれ」
「はっ、粉骨の覚悟で当たります!」
「うむ、励め!」
信長が去った後信盛はふと寂寥感にかられた。あれ? 落ちは?
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