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サヨナラはいつも突然に
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フェイが目覚めてからもう1ヶ月が経とうとしていた。時間というものは経ってしまうと短く感じてしまう。
外に出ると日の光が僕たちに差し掛かる。今までずっと研究所の中で過ごしていたから日の光を直に浴びるなんて久しぶりだ。
額から汗を流しながら、フェイの身体の最終調整を終えると僕はフェイを見つめた。
「……身体の調子はどうだい?」
「全パーツ、全システム良好です。万全の状態で戦場へ向かうことができます」
「そうか、それはよかった……これなら本部も満足してくれるはずだ」
あれから優勢だった西の勢力は、日が経つにつれ、徐々に押されていた。今では敗戦濃厚とまで言われている。
そこに僕がフェイを兵器として完成させた、ということを本部にメールを送ったら、本部は明日にすぐよこしてほしいと言ってきたのだ。
もともと、兵器として戦場に送り出す。その依頼を見事こなしてみせたということで喜ぶべきことなのだろう。しかし僕は素直に喜べなかった。
「顔色が優れないようですが、どうしましたか」
「あー……いや、大丈夫。何でもないよ」
なんて見栄を張ってしまったが、正直別れるのが名残惜しい。
そう思っていると、急にフェイが肩を掴んだ。
「さよならではありません。きっとまた会えます……安心してください」
僕を真っすぐ見つめながらフェイが優しく微笑んだ。
「っ!……また『笑顔で優しい言葉を』かい?」
「はい、おかげでマスターの精神が安定に向かっています」
確かに心なしか落ち着いた気がする。心がこもっているわけではないのに、それでも僕はこのフェイの言葉と笑顔に不思議と安心してしまう。
僕も微笑みながら、フェイの頭に手を添えた。
「ありがとう、充分落ち着いたよ。やっぱり悲しいけど、また会えるなら僕は我慢できる。だから戦争が終わったら会いに来てくれると、嬉しいな」
「私に感情はありませんので、マスターの悲しいというのは理解できません。しかしマスターが再会を望むのならば、私は望み通りにまたここに戻ってきます」
言い終わると同時にフェイの足から勢いよく火を噴きだした。徐々にフェイの身体が浮きあがっていく。
僕にはもう止められない。それに止める気も、もうなかった。僕にできることといえば、彼女を見送ってやることぐらいだろう。
僕は飛んでいくフェイの姿が見えなくなるまでただ、ずっと手を振っていた。
「……行っちゃったなぁ」
消え去ってしまいそうな弱々しい声で僕は呟いた。
これで一応、僕はもうお役御免ということなのだが、どうしようか。
「あ、そういえば……フェイの設計データを残してあったっけ。姉妹機でも作ってみようかな? 戻ってきたフェイを驚かしてやろうっと」
そんなことを呟き、ウキウキしながら僕が研究所に戻ろうとしたときだった。
耳をつんざくほどの轟音と共に僕の頭上で巨大な何かが弾けた。
* * *
カロと別れてから約1時間経ったころ。
フェイはカロに搭載してもらったマップを展開しつつ、本部に向かっていた。
「マップデータを確認、本部までの到達時間およそ2時間」
確認を終えてマップを閉じようとしたが、不意にフェイのメールフォルダに緊急の連絡が入ってきた。差出名は「本部」だった。
「緊急メールの内容を確認……『敵軍の空爆により、数ヶ所が被害を受けた。2度目、3度目の空爆の可能性あり、気を付けるように』……第1空爆の被害地を確認中」
そうして確認したマップには、カロがいる研究所がマークされていた。
突然、フェイの本部へ向かう足が急停止した。そしてマップを眺め続ける。
「マスターの危機を予想。しかしメインのミッションは本部への到着。優先度計算中……」
フェイはそうつぶやき、ある方向に全速力で飛んでいった。
外に出ると日の光が僕たちに差し掛かる。今までずっと研究所の中で過ごしていたから日の光を直に浴びるなんて久しぶりだ。
額から汗を流しながら、フェイの身体の最終調整を終えると僕はフェイを見つめた。
「……身体の調子はどうだい?」
「全パーツ、全システム良好です。万全の状態で戦場へ向かうことができます」
「そうか、それはよかった……これなら本部も満足してくれるはずだ」
あれから優勢だった西の勢力は、日が経つにつれ、徐々に押されていた。今では敗戦濃厚とまで言われている。
そこに僕がフェイを兵器として完成させた、ということを本部にメールを送ったら、本部は明日にすぐよこしてほしいと言ってきたのだ。
もともと、兵器として戦場に送り出す。その依頼を見事こなしてみせたということで喜ぶべきことなのだろう。しかし僕は素直に喜べなかった。
「顔色が優れないようですが、どうしましたか」
「あー……いや、大丈夫。何でもないよ」
なんて見栄を張ってしまったが、正直別れるのが名残惜しい。
そう思っていると、急にフェイが肩を掴んだ。
「さよならではありません。きっとまた会えます……安心してください」
僕を真っすぐ見つめながらフェイが優しく微笑んだ。
「っ!……また『笑顔で優しい言葉を』かい?」
「はい、おかげでマスターの精神が安定に向かっています」
確かに心なしか落ち着いた気がする。心がこもっているわけではないのに、それでも僕はこのフェイの言葉と笑顔に不思議と安心してしまう。
僕も微笑みながら、フェイの頭に手を添えた。
「ありがとう、充分落ち着いたよ。やっぱり悲しいけど、また会えるなら僕は我慢できる。だから戦争が終わったら会いに来てくれると、嬉しいな」
「私に感情はありませんので、マスターの悲しいというのは理解できません。しかしマスターが再会を望むのならば、私は望み通りにまたここに戻ってきます」
言い終わると同時にフェイの足から勢いよく火を噴きだした。徐々にフェイの身体が浮きあがっていく。
僕にはもう止められない。それに止める気も、もうなかった。僕にできることといえば、彼女を見送ってやることぐらいだろう。
僕は飛んでいくフェイの姿が見えなくなるまでただ、ずっと手を振っていた。
「……行っちゃったなぁ」
消え去ってしまいそうな弱々しい声で僕は呟いた。
これで一応、僕はもうお役御免ということなのだが、どうしようか。
「あ、そういえば……フェイの設計データを残してあったっけ。姉妹機でも作ってみようかな? 戻ってきたフェイを驚かしてやろうっと」
そんなことを呟き、ウキウキしながら僕が研究所に戻ろうとしたときだった。
耳をつんざくほどの轟音と共に僕の頭上で巨大な何かが弾けた。
* * *
カロと別れてから約1時間経ったころ。
フェイはカロに搭載してもらったマップを展開しつつ、本部に向かっていた。
「マップデータを確認、本部までの到達時間およそ2時間」
確認を終えてマップを閉じようとしたが、不意にフェイのメールフォルダに緊急の連絡が入ってきた。差出名は「本部」だった。
「緊急メールの内容を確認……『敵軍の空爆により、数ヶ所が被害を受けた。2度目、3度目の空爆の可能性あり、気を付けるように』……第1空爆の被害地を確認中」
そうして確認したマップには、カロがいる研究所がマークされていた。
突然、フェイの本部へ向かう足が急停止した。そしてマップを眺め続ける。
「マスターの危機を予想。しかしメインのミッションは本部への到着。優先度計算中……」
フェイはそうつぶやき、ある方向に全速力で飛んでいった。
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