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信頼
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P100が目覚めてからそろそろ2週間経ったころの朝。僕は小さな寝室のベッドの上で寝転がっていた。
すると、そこに1人の影。
「起きてくださいマスター。設定された時間になりました」
「ん……すまない、もう少しだけ寝させてくれ」
P100は淡々とした声音で僕を揺らしてくるが、身体はまだ休息を求めていた。
最近夜遅くまで作業をしていたせいで、寝るのが遅くなってきているのだ。
P100のモーニングコールを無視して僕は毛布にくるまった。
数秒してP100が揺さぶりをやめ、二度寝ができると思ったそのときだった。僕の顔面に大量の水が降りかかってきた。
「ぶはっ!? げほっげほっ! な、なんだ!?」
冷えた水が目や鼻に入り込んだせいで、むせながら僕は思わずベッドから飛び起きた。
慌てて顔を上げると、目の前には無表情のP100がいた。
「おはようございますマスター。眠気は覚めましたか?」
ぺこり。一礼してP100が首を傾げる。今はその慇懃な態度に少しイラっとする。
「P100! これはどういうつもりだい?」
「マスターの意識があやふやでしたので、気つけさせるには冷やした水をかけるのが最適だと判断しました」
「……ありがとう。おかげで目が覚めたよ」
僕はわざと最後の言葉を強めに言った。機械相手に伝わるとは思えないけど。
「それじゃあ、今日もやろうか」
濡れた顔を拭き、壁にかけてある白衣を着る。いつもの作業場に向かえば、作業机の上には大量のナイフと銃が無造作に置かれていた。
自律式のアンドロイドが開発できるほどの技術があるくせに、武器や兵器は百数年前からあまり発展していないというのだから残念だ。しかし、もともと戦争が起きるような国ではなく、発展させる必要がなかったのだから仕方がないのだろう。
僕はそれらからナイフを5本、銃を3丁、両手で抱えるように持つとP100に向かって放り投げる。
僕の手元から離れた武器は、P100の目の前で空中に散らばった。
「飛来する武器を確認、直ちに回収を開始します」
次の瞬間、空中に散らばったナイフ5本がすべて消え去った。いや、正確には空中に散らばっていたナイフは、P100がボクシングのジャブのようなモーションで掴み取り、回収した。
そしてすぐさま銃の回収に移行する。ちなみに銃はハンドガン、サブマシンガン、ライフルのそれぞれ大きさが違うものを投げておいた。
P100はまず地面に近いライフルを真上へ蹴り上げた。
次にハンドガン、サブマシンガンを低い姿勢で回収し、両腰のホルスターに収納する。
そして上から降ってきたライフルを両手でキャッチすれば、すぐに射撃できる構えに入った。
「落下した武器はなし、このまま戦闘も可能です」
「あぁ、よくやった! 機動力も判断力も申し分ない」
思わずガッツポーズした。
腕の改良を何度も行った結果、P100にはすぐに動ける瞬発力、機動力、そして最適かつ効率的な行動を行える判断力が備わった。
「よしっ! あとはこの成果を本部に報告して、今日はもう終わりでいいかなぁ……」
上機嫌のままパパっとメールデータを書き上げると、僕は疲れが取れていない身体を休めるために寝室へ向かおうとする。
しかし後ろから白衣の襟を掴まれて、止められた。
「まだ午前9時です。二度寝しようとしているのであれば、やめることを推奨します」
「た、頼むよ……最近まともに睡眠が取れていないのはP100も分かるだろう?」
目の下にできたくまを見せながら僕は苦笑する。
「データから、確かにマスターは寝不足状態に陥っています。ですが、8時間以上の睡眠をとれば問題ありません。それよりも現在の私では戦闘上、致命的な調整点が残っております」
そう言うとホルスターに収納していたハンドガンを取り出して構える。そして的に向かって弾を撃つが、弾は中心からは程遠い位置に当たっていた。
改良を重ねた結果、早撃ちは可能になった。しかしその一方で、照準の軌道修正には手を付けることができなかった。というより、手を付けても全く進歩という進歩を確認できなかったのだ。
しかしそんなことは言われなくても理解している。
「確かにその命中精度は度し難いね、何とかしよう」
僕は渋々、作業机に戻ろうとしたそのとき、P100が手を掴んできた。
「……南西の方角、距離は4キロほど、こちらに接近している生体反応あり。数は……9人です。足音から全員武装していると思われます」
そう言うとハンドガンをしまい、ライフルを構え始める。
この場所は本部の人間ぐらいしか知らないはずだ。だから本部には僕から連絡はメールだけにしてくれとくぎを刺しておいた。ということは……。
「味方じゃなさそうだね……」
僕も作業机に置かれた銃を持つ。うるさいくらいに動悸を打っているのを感じる。
P100はまだ完成してない。射撃能力がさっきの通り、絶望的だ。こんな状態で撃ち合いなんてしたら、負ける可能性が高い。
「どうすれば……どうすれば打開できる? こんなことなら軌道修正を優先しておくんだった!」
思わず作業机を叩いてしまった。
後悔したって遅いが、僕の口からは弱音が止まらない。弱音があふれる度に呼吸が荒くなる。
部屋の角で座り込み、僕が頭を抱えていると、肩にP100の手が乗せられた。
「……大丈夫です。マスターは私が守ります」
優しく微笑むP100の姿がそこにあった。
いつも無表情だったはずなのに、今の声音には温かさが含まれている気がした。
「P100……もしかして、感情を?」
「いえ、私にはそのような機能はありません。ただマスターの精神に異常が発生していました。その場合は『笑顔で優しい言葉をかけるとよい』という方法がありましたので、言葉をライブラリーの中から選出しました」
P100から先ほどの温かさはなくなり、いつもの淡々とした返事が返ってきた。
なんだか嬉しかったが、それと同時にがっかりという気持ちもあった。
でもP100の言った通り、先ほどまでうるさいくらいに打っていた動悸はいつの間にか安定していた。
ただ状況は変わらない。どうやって打開したものか。
ふとP100を見ると、彼女の手には普通のライフルよりもさらに遠距離を得意としたスナイパーライフルが握られていた。
「そんなもの持ち出してどうするつもりだい?」
「マスター、最高倍率のスコープはどれですか?」
「え? あぁ……これだけど」
僕は唐突な問いに一瞬戸惑ったが、すぐに作業机の上に置かれているスコープをP100に渡した。だがスコープで何か変わるのだろうか。
研究所の窓からライフルを構えてP100が口を開く。
「そろそろ敵部隊の姿が確認できます。過半数は撃破するつもりですが、4人ほど侵入を許してしまうかもしれません。その場合、入口の近くにいると狙われてしまうのでマスターは寝室のほうへ避難してください」
「ちょっと待ってくれ! 過半数は撃破するって言ったのかい? 修正ができていないのにいったいどうやって!?」
「いつも的に当てられなかったのは、視角スコープの倍率が低いからです。さらに倍率を上げれば、当たる確率が5割以上は上昇します」
P100はスコープを取り換えながら、僕に説明する。
独自に思考を張り巡らせて修正点を見出したということか。さすがAIだ、僕の予想を簡単に超えてくれる。
「……敵部隊、来ます」
僕はスコープの案が本当なのか確かめようとP100から少し離れた後ろに立ち、双眼鏡を覗く。P100の言う通り、南西から続々と銃を持った部隊が走ってきている。
部隊が見えた次の瞬間、先頭を走っていた兵士の頭が吹っ飛んだ。
「先頭の1人の撃破を確認、残り8人です」
「ほ、本当に当たった……2キロ以上も離れてるっていうのに」
僕が驚いている間にも2人、3人と、P100は1発で撃破していく。恐るべき適応力だ。
しかし敵も馬鹿ではないようで、それぞれに散らばり、P100の死角に入りながらこちらに接近してきた。
P100がなんとか隙を見せた兵士を各個撃破しているが、兵が入ってくるのも時間の問題だ。
僕は姿勢を低くしながら寝室のほうへと向かう。
微かにだが、P100とは逆の方からいくつかの足音が聞こえた。
「P100! 何人撃った?」
「5人は撃破しましたが、4人残っています」
「本当にギリギリ過半数ってことだね……」
僕は双眼鏡をしまい、手元に置いてあったハンドガンを構える。銃なんて撃ったことないけど殺されるっていうなら、やるしかない。
胸に手を添えながら僕は大きく深呼吸する。しかしそう簡単に落ち着けるわけはなく、呼吸が荒くなっていた。
「マスター、閃光弾か煙幕弾が飛んできます。念のため目を閉じていてください」
P100が言うと同時に、窓が割れ、金属が地面にぶつかる高い音が鳴った。
僕はとっさに目を閉じる。高い金切り声のような音と何かが破裂するような音が聞こえてきた。
「閃光は約5秒の放出です。5秒経ったら目を開けても問題ありません」
「分かった!」
助言の通りに5秒間、僕は目を閉じた。その間に銃声、鈍器で殴った時のような重い衝撃音、そして数人の男の悲鳴のようなものが聞こえてくる。
目を開けるともう閃光は消えていた。作業場の中には先ほどまではいなかった3人の男が気を失って倒れていた。
その中心にはP100が立っていた。近接戦で負けることはないと思っていたが、まさか数秒で3人も撃退するとは。
「……3人?」
僕は作業場に倒れている男たちを見てある違和感を覚えた。
「1人足りないっ!」
P100が感知したのは9人だ。外で撃退したのが5人なら、そしてここで倒れている人数が4人でなければ全員じゃない!
「後ろです、マスター」
P100の声と同時に振り向く。するとナイフを持った男がそこにいた。
すでにナイフを振り上げていて、今から避けることは不可能だった。
……刺されるっ!
そう思って目を閉じたとき、乾いた音と同時に男の額に穴が空いた。
無意識のうちに僕が手に持っていた銃の引き金を引いていたのだ。
男が力なく倒れ込むが、その拍子にナイフが僕の右肩に刺さってしまう。
「ぐっ……!」
「大丈夫ですか? マスター」
P100は僕が撃った男をどかして、僕の右肩を見る。
「大丈夫、軽く刺さっただけ。そんなに深くもないよ」
「そのようですね。ですが簡単な応急処置だけでもしておきましょう」
P100は慣れた手つきでナイフを取り、止血をした。そして肩に包帯を巻き、本当に簡単だが応急処置が終わった。
「一時はどうなるかと思ったけど、助かったよ。ありがとう」
「私の役割はマスターの手伝いです。マスターを保護するのも手伝いに入ります」
不愛想な返事だが、僕はつい笑みを浮かべてしまう。
僕は今まで失敗していたP100を見ていたせいで、僕が何とかしてやらなきゃと思っていた。
しかし今日の出来事でP100がとても頼れる存在になっていたことに気付いた。
だから僕はそんな彼女にこの名前を送ろうと思う。
「P100、今からシステム変更を行う。内容はコマンドネーム変更。今後は『フェイ』だ」
「……変更内容を同期中、承認。コマンドネーム『フェイ』となりました。よろしくお願いします、マスター」
「あぁ、よろしく……フェイ」
相変わらず無表情、それでもフェイがどことなく人間っぽくなってきている気がして僕は嬉しかった。
すると、そこに1人の影。
「起きてくださいマスター。設定された時間になりました」
「ん……すまない、もう少しだけ寝させてくれ」
P100は淡々とした声音で僕を揺らしてくるが、身体はまだ休息を求めていた。
最近夜遅くまで作業をしていたせいで、寝るのが遅くなってきているのだ。
P100のモーニングコールを無視して僕は毛布にくるまった。
数秒してP100が揺さぶりをやめ、二度寝ができると思ったそのときだった。僕の顔面に大量の水が降りかかってきた。
「ぶはっ!? げほっげほっ! な、なんだ!?」
冷えた水が目や鼻に入り込んだせいで、むせながら僕は思わずベッドから飛び起きた。
慌てて顔を上げると、目の前には無表情のP100がいた。
「おはようございますマスター。眠気は覚めましたか?」
ぺこり。一礼してP100が首を傾げる。今はその慇懃な態度に少しイラっとする。
「P100! これはどういうつもりだい?」
「マスターの意識があやふやでしたので、気つけさせるには冷やした水をかけるのが最適だと判断しました」
「……ありがとう。おかげで目が覚めたよ」
僕はわざと最後の言葉を強めに言った。機械相手に伝わるとは思えないけど。
「それじゃあ、今日もやろうか」
濡れた顔を拭き、壁にかけてある白衣を着る。いつもの作業場に向かえば、作業机の上には大量のナイフと銃が無造作に置かれていた。
自律式のアンドロイドが開発できるほどの技術があるくせに、武器や兵器は百数年前からあまり発展していないというのだから残念だ。しかし、もともと戦争が起きるような国ではなく、発展させる必要がなかったのだから仕方がないのだろう。
僕はそれらからナイフを5本、銃を3丁、両手で抱えるように持つとP100に向かって放り投げる。
僕の手元から離れた武器は、P100の目の前で空中に散らばった。
「飛来する武器を確認、直ちに回収を開始します」
次の瞬間、空中に散らばったナイフ5本がすべて消え去った。いや、正確には空中に散らばっていたナイフは、P100がボクシングのジャブのようなモーションで掴み取り、回収した。
そしてすぐさま銃の回収に移行する。ちなみに銃はハンドガン、サブマシンガン、ライフルのそれぞれ大きさが違うものを投げておいた。
P100はまず地面に近いライフルを真上へ蹴り上げた。
次にハンドガン、サブマシンガンを低い姿勢で回収し、両腰のホルスターに収納する。
そして上から降ってきたライフルを両手でキャッチすれば、すぐに射撃できる構えに入った。
「落下した武器はなし、このまま戦闘も可能です」
「あぁ、よくやった! 機動力も判断力も申し分ない」
思わずガッツポーズした。
腕の改良を何度も行った結果、P100にはすぐに動ける瞬発力、機動力、そして最適かつ効率的な行動を行える判断力が備わった。
「よしっ! あとはこの成果を本部に報告して、今日はもう終わりでいいかなぁ……」
上機嫌のままパパっとメールデータを書き上げると、僕は疲れが取れていない身体を休めるために寝室へ向かおうとする。
しかし後ろから白衣の襟を掴まれて、止められた。
「まだ午前9時です。二度寝しようとしているのであれば、やめることを推奨します」
「た、頼むよ……最近まともに睡眠が取れていないのはP100も分かるだろう?」
目の下にできたくまを見せながら僕は苦笑する。
「データから、確かにマスターは寝不足状態に陥っています。ですが、8時間以上の睡眠をとれば問題ありません。それよりも現在の私では戦闘上、致命的な調整点が残っております」
そう言うとホルスターに収納していたハンドガンを取り出して構える。そして的に向かって弾を撃つが、弾は中心からは程遠い位置に当たっていた。
改良を重ねた結果、早撃ちは可能になった。しかしその一方で、照準の軌道修正には手を付けることができなかった。というより、手を付けても全く進歩という進歩を確認できなかったのだ。
しかしそんなことは言われなくても理解している。
「確かにその命中精度は度し難いね、何とかしよう」
僕は渋々、作業机に戻ろうとしたそのとき、P100が手を掴んできた。
「……南西の方角、距離は4キロほど、こちらに接近している生体反応あり。数は……9人です。足音から全員武装していると思われます」
そう言うとハンドガンをしまい、ライフルを構え始める。
この場所は本部の人間ぐらいしか知らないはずだ。だから本部には僕から連絡はメールだけにしてくれとくぎを刺しておいた。ということは……。
「味方じゃなさそうだね……」
僕も作業机に置かれた銃を持つ。うるさいくらいに動悸を打っているのを感じる。
P100はまだ完成してない。射撃能力がさっきの通り、絶望的だ。こんな状態で撃ち合いなんてしたら、負ける可能性が高い。
「どうすれば……どうすれば打開できる? こんなことなら軌道修正を優先しておくんだった!」
思わず作業机を叩いてしまった。
後悔したって遅いが、僕の口からは弱音が止まらない。弱音があふれる度に呼吸が荒くなる。
部屋の角で座り込み、僕が頭を抱えていると、肩にP100の手が乗せられた。
「……大丈夫です。マスターは私が守ります」
優しく微笑むP100の姿がそこにあった。
いつも無表情だったはずなのに、今の声音には温かさが含まれている気がした。
「P100……もしかして、感情を?」
「いえ、私にはそのような機能はありません。ただマスターの精神に異常が発生していました。その場合は『笑顔で優しい言葉をかけるとよい』という方法がありましたので、言葉をライブラリーの中から選出しました」
P100から先ほどの温かさはなくなり、いつもの淡々とした返事が返ってきた。
なんだか嬉しかったが、それと同時にがっかりという気持ちもあった。
でもP100の言った通り、先ほどまでうるさいくらいに打っていた動悸はいつの間にか安定していた。
ただ状況は変わらない。どうやって打開したものか。
ふとP100を見ると、彼女の手には普通のライフルよりもさらに遠距離を得意としたスナイパーライフルが握られていた。
「そんなもの持ち出してどうするつもりだい?」
「マスター、最高倍率のスコープはどれですか?」
「え? あぁ……これだけど」
僕は唐突な問いに一瞬戸惑ったが、すぐに作業机の上に置かれているスコープをP100に渡した。だがスコープで何か変わるのだろうか。
研究所の窓からライフルを構えてP100が口を開く。
「そろそろ敵部隊の姿が確認できます。過半数は撃破するつもりですが、4人ほど侵入を許してしまうかもしれません。その場合、入口の近くにいると狙われてしまうのでマスターは寝室のほうへ避難してください」
「ちょっと待ってくれ! 過半数は撃破するって言ったのかい? 修正ができていないのにいったいどうやって!?」
「いつも的に当てられなかったのは、視角スコープの倍率が低いからです。さらに倍率を上げれば、当たる確率が5割以上は上昇します」
P100はスコープを取り換えながら、僕に説明する。
独自に思考を張り巡らせて修正点を見出したということか。さすがAIだ、僕の予想を簡単に超えてくれる。
「……敵部隊、来ます」
僕はスコープの案が本当なのか確かめようとP100から少し離れた後ろに立ち、双眼鏡を覗く。P100の言う通り、南西から続々と銃を持った部隊が走ってきている。
部隊が見えた次の瞬間、先頭を走っていた兵士の頭が吹っ飛んだ。
「先頭の1人の撃破を確認、残り8人です」
「ほ、本当に当たった……2キロ以上も離れてるっていうのに」
僕が驚いている間にも2人、3人と、P100は1発で撃破していく。恐るべき適応力だ。
しかし敵も馬鹿ではないようで、それぞれに散らばり、P100の死角に入りながらこちらに接近してきた。
P100がなんとか隙を見せた兵士を各個撃破しているが、兵が入ってくるのも時間の問題だ。
僕は姿勢を低くしながら寝室のほうへと向かう。
微かにだが、P100とは逆の方からいくつかの足音が聞こえた。
「P100! 何人撃った?」
「5人は撃破しましたが、4人残っています」
「本当にギリギリ過半数ってことだね……」
僕は双眼鏡をしまい、手元に置いてあったハンドガンを構える。銃なんて撃ったことないけど殺されるっていうなら、やるしかない。
胸に手を添えながら僕は大きく深呼吸する。しかしそう簡単に落ち着けるわけはなく、呼吸が荒くなっていた。
「マスター、閃光弾か煙幕弾が飛んできます。念のため目を閉じていてください」
P100が言うと同時に、窓が割れ、金属が地面にぶつかる高い音が鳴った。
僕はとっさに目を閉じる。高い金切り声のような音と何かが破裂するような音が聞こえてきた。
「閃光は約5秒の放出です。5秒経ったら目を開けても問題ありません」
「分かった!」
助言の通りに5秒間、僕は目を閉じた。その間に銃声、鈍器で殴った時のような重い衝撃音、そして数人の男の悲鳴のようなものが聞こえてくる。
目を開けるともう閃光は消えていた。作業場の中には先ほどまではいなかった3人の男が気を失って倒れていた。
その中心にはP100が立っていた。近接戦で負けることはないと思っていたが、まさか数秒で3人も撃退するとは。
「……3人?」
僕は作業場に倒れている男たちを見てある違和感を覚えた。
「1人足りないっ!」
P100が感知したのは9人だ。外で撃退したのが5人なら、そしてここで倒れている人数が4人でなければ全員じゃない!
「後ろです、マスター」
P100の声と同時に振り向く。するとナイフを持った男がそこにいた。
すでにナイフを振り上げていて、今から避けることは不可能だった。
……刺されるっ!
そう思って目を閉じたとき、乾いた音と同時に男の額に穴が空いた。
無意識のうちに僕が手に持っていた銃の引き金を引いていたのだ。
男が力なく倒れ込むが、その拍子にナイフが僕の右肩に刺さってしまう。
「ぐっ……!」
「大丈夫ですか? マスター」
P100は僕が撃った男をどかして、僕の右肩を見る。
「大丈夫、軽く刺さっただけ。そんなに深くもないよ」
「そのようですね。ですが簡単な応急処置だけでもしておきましょう」
P100は慣れた手つきでナイフを取り、止血をした。そして肩に包帯を巻き、本当に簡単だが応急処置が終わった。
「一時はどうなるかと思ったけど、助かったよ。ありがとう」
「私の役割はマスターの手伝いです。マスターを保護するのも手伝いに入ります」
不愛想な返事だが、僕はつい笑みを浮かべてしまう。
僕は今まで失敗していたP100を見ていたせいで、僕が何とかしてやらなきゃと思っていた。
しかし今日の出来事でP100がとても頼れる存在になっていたことに気付いた。
だから僕はそんな彼女にこの名前を送ろうと思う。
「P100、今からシステム変更を行う。内容はコマンドネーム変更。今後は『フェイ』だ」
「……変更内容を同期中、承認。コマンドネーム『フェイ』となりました。よろしくお願いします、マスター」
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