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マスターでは不快ですか?
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P100が起動してから3日ぐらい。僕はP100の右腕を改造していた。
今のままでも動きがスムーズなのは、起動してから確認済みだ。ただの自律式アンドロイドであれば、もうこれまでにないほどの完成度だ。
しかし僕が作っているのはただの自律式アンドロイドじゃない。
「P100、戦争の現状はどのくらい把握できる?」
「現在、こちらの軍のほうが優勢なようです。味方軍の勢力が約40万、敵軍の勢力が約30万です」
僕はそうか、と一言だけ呟く。
数か月前から、僕の住む国は東西に分かれて戦争が起こっていた。僕は西の地域に住んでいたからという理由で西側の勢力に加担させられている。
「それと、本部から進捗の報告をしてほしいとメールを預かっております」
「あー……まぁまぁだとでも送っておくかな」
本部宛てのメールデータをP100に渡した。あとはP100がメールを本部へ送ってくれる。便利なものだ。
「このまま戦争が終わってくれればP100を兵器化せずに済むのになぁ」
僕が作っているのは戦争兵器だ。
100年前に起こった戦争にはAI兵器なんてものは存在しなかった。しかし100年以上もの間に培った技術を組み合わせることで戦闘用のAI兵器を作り出すことが可能かもしれないという考えに至ったのだった。
本部は急に量産するのはリスクが大きすぎるということで、常日頃から機械研究を行っていた僕に兵器の基となるプロトタイプを作る依頼を持ち込んできたわけだ。
そこで僕も依頼を受ける代わりとして、誰からも干渉されない安全な場所を設けてもらった。それがこの山奥の研究所である。
「さて、一応完成したな。装着して確認してほしい」
改造を終えた右腕をP100に差し出す。P100は右腕を装着し、動作確認を始める……どうやら動作確認は順調のようだ。
それじゃあ、と僕はデスクの上にある無数の銃から1丁の拳銃を取り出し、P100に渡した。
銃を受け取ったP100はまずプログラムされた動作で構え、的に照準を合わせる。
しかし人差し指が引き金に掛かったままで、引き抜かれることはなかった。
「マスター、指先でエラーが発生しています。このまま発射しても的に当たる確率は3割以下です。引き金を引く動作と照準の軌道修正を推奨します」
そう提案すると、自分から右腕を外して僕に返してきた。受け取った僕はさっそく人差し指の調整を始める。
調整をしている最中、僕はふと背後に立っているP100を見る。
僕とP100は人間と機械だ。さらに言ってしまえばP100は戦場に向かう兵器だ。兵器である以上、戦闘に必須ではないものを搭載させる必要がないことは分かっている。
しかし僕はP100に愛着が湧いているのだろう。
だから感情を持ってほしいとまでは望まない。せめて人間らしいコミュニケーションがとれるぐらいの仲にはなれないだろうか。
僕は一縷の希望を乗せて、口を開く。
「マスターじゃなくて、カロって呼ぶことはできないかな……?」
「……マスターという呼び方では不快ですか?」
「不快ではないけれど、なんというか距離を感じてね……」
「マスターの言葉の意味が理解できません。距離を感じるとはどういうことでしょうか? もう少し近くによればいいのでしょうか?」
無表情のまま、P100がぽきんっと首を傾げる。
「いや、別にそういうことじゃないよ……呼び方のことは忘れてくれ。それよりも、近づきすぎ」
顔がくっつきそうなほど近いP100を抑えながら、僕は呆れたようにため息を吐いた。
腕1本だけでもそれなりの量の課題なのに、距離を縮めようとしても空回り。これは戦場に出るのも、コミュニケーションがとれるようになるのも、ずいぶん先になりそうだ。
今のままでも動きがスムーズなのは、起動してから確認済みだ。ただの自律式アンドロイドであれば、もうこれまでにないほどの完成度だ。
しかし僕が作っているのはただの自律式アンドロイドじゃない。
「P100、戦争の現状はどのくらい把握できる?」
「現在、こちらの軍のほうが優勢なようです。味方軍の勢力が約40万、敵軍の勢力が約30万です」
僕はそうか、と一言だけ呟く。
数か月前から、僕の住む国は東西に分かれて戦争が起こっていた。僕は西の地域に住んでいたからという理由で西側の勢力に加担させられている。
「それと、本部から進捗の報告をしてほしいとメールを預かっております」
「あー……まぁまぁだとでも送っておくかな」
本部宛てのメールデータをP100に渡した。あとはP100がメールを本部へ送ってくれる。便利なものだ。
「このまま戦争が終わってくれればP100を兵器化せずに済むのになぁ」
僕が作っているのは戦争兵器だ。
100年前に起こった戦争にはAI兵器なんてものは存在しなかった。しかし100年以上もの間に培った技術を組み合わせることで戦闘用のAI兵器を作り出すことが可能かもしれないという考えに至ったのだった。
本部は急に量産するのはリスクが大きすぎるということで、常日頃から機械研究を行っていた僕に兵器の基となるプロトタイプを作る依頼を持ち込んできたわけだ。
そこで僕も依頼を受ける代わりとして、誰からも干渉されない安全な場所を設けてもらった。それがこの山奥の研究所である。
「さて、一応完成したな。装着して確認してほしい」
改造を終えた右腕をP100に差し出す。P100は右腕を装着し、動作確認を始める……どうやら動作確認は順調のようだ。
それじゃあ、と僕はデスクの上にある無数の銃から1丁の拳銃を取り出し、P100に渡した。
銃を受け取ったP100はまずプログラムされた動作で構え、的に照準を合わせる。
しかし人差し指が引き金に掛かったままで、引き抜かれることはなかった。
「マスター、指先でエラーが発生しています。このまま発射しても的に当たる確率は3割以下です。引き金を引く動作と照準の軌道修正を推奨します」
そう提案すると、自分から右腕を外して僕に返してきた。受け取った僕はさっそく人差し指の調整を始める。
調整をしている最中、僕はふと背後に立っているP100を見る。
僕とP100は人間と機械だ。さらに言ってしまえばP100は戦場に向かう兵器だ。兵器である以上、戦闘に必須ではないものを搭載させる必要がないことは分かっている。
しかし僕はP100に愛着が湧いているのだろう。
だから感情を持ってほしいとまでは望まない。せめて人間らしいコミュニケーションがとれるぐらいの仲にはなれないだろうか。
僕は一縷の希望を乗せて、口を開く。
「マスターじゃなくて、カロって呼ぶことはできないかな……?」
「……マスターという呼び方では不快ですか?」
「不快ではないけれど、なんというか距離を感じてね……」
「マスターの言葉の意味が理解できません。距離を感じるとはどういうことでしょうか? もう少し近くによればいいのでしょうか?」
無表情のまま、P100がぽきんっと首を傾げる。
「いや、別にそういうことじゃないよ……呼び方のことは忘れてくれ。それよりも、近づきすぎ」
顔がくっつきそうなほど近いP100を抑えながら、僕は呆れたようにため息を吐いた。
腕1本だけでもそれなりの量の課題なのに、距離を縮めようとしても空回り。これは戦場に出るのも、コミュニケーションがとれるようになるのも、ずいぶん先になりそうだ。
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