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第一部【まっかなみどり】

序章 《迷宮捜査》

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 氏名、美浦みどり。年齢、十七歳三ヵ月、高校生。死亡推定時刻、午前四時三十分頃。遺体発見現場、私立霧華学園中庭。死の間際、花壇の花を掴もうとしていたのであろうか、花に向かって手を伸ばしたまま、俯せの状態で倒れている姿を用務員に発見され、通報を受けた。
 全身に裂創、擦過傷、胸部と腹部に銃創有り。死因は出血多量によるショック死と推定される。遺体は全身血塗れになっており、その周辺には、被害者の血液が大量に飛散していた。
 胸部と腹部に銃創があるものの、弾丸は貫通しており、体内には残っていなかった。遺体発見現場では弾丸を発見する事が出来なかったので、別の場所で銃撃を受けた後、この場所に自ら移動、または何者かの手によって移送されて来たものと推定される。
 だが、不可解な事に、これだけの傷を負って移動して来たのなら、移動経路に血痕が残っているはずなのだが、遺体周辺以外に血痕は見当たらなかった。やはり犯人が、殺害現場から移送してきたと見るのが正しいのだろうか。
 不可解な点は他にもある。遺体として発見された美浦みどりの着衣はスーツであったのだが、上着の下にはナイフ用シースを装備しており、ナイフ自体は発見出来なかったが、彼女自身、武装していた形跡が見られたのだ。
 また、全身に多数刻み込まれた傷痕は、既に血液が乾固した、かさぶた状になっており、死亡推定時刻より前に乾いていたものと見られるが、それに矛盾するかのように、遺体周辺には被害者のモノと思われる血痕が多数飛散していた。
 検死結果と現場の状況を見て、不可解な殺人事件である事は素人にも分かる事だが、捜査に当たって、何より先ず、私が腑に落ちない事があった。被害者、美浦みどりの負傷具合から、死の間際、かなりの苦痛を受けていたものと思われるのだが、彼女の死に顔は、苦痛など微塵も感じさせない、安らかな笑顔だったのだ・・・。

 聞き込み調査によると、美浦みどりは、ごく普通の女子高校生であったらしい。クラスメイトと普通に交流し、勉強に取り組み、何ら特異な事の無い、普通の生徒であったというのが、複数の生徒、教諭からの証言である。
 少しクセのある、セミロングのヘアースタイル、顔立ちは人懐こさを感じさせる、誰からも好かれるタイプの容貌で、複数の男子生徒から交際を求められる程、人気があったらしい。
 だが彼女は、特定の男子生徒と親密になる事も無く、主に女生徒同士の交流のみであったようだ。
 交際を断られた男子生徒が逆上して・・・という推論は成り立たない。美浦みどりは銃撃されていた上、彼女自身も武器を所持していたと推定されるからだ。何者かと争った末の死亡と見るのが妥当だろうが、その『相手』が何者なのか、皆目、見当もつかない。
 彼女は学校の部活動には参加しておらず、下校時間には大抵、学校には残らずに、そのまま帰宅するのが常であったらしい。
 比較的成績も良く、人間関係も良好。交流のあった人物からの証言では、何故このような事になったのか、全く分からないというのが大方であり、人間関係のトラブルは考えられないとの証言を得ている。
 何故、このような事件が起こったのか?何故、ごく普通の私立高校の敷地内で、殺人事件が起こったのか?遺体の状態から、犯人は銃器と刃物を用いた事も分かる。一体、犯人はどのような人物で、彼女とどんな関係だったのか?如何なる理由で殺害に及んだのか?そして、発見された遺体の状態、一体どのような過程を経て、このような死に方へと至ったのか?全く訳が分からない・・・。疑問ばかりが溢れかえり、答えが見付からない・・・。
 また、遺体発見現場、及び、その周辺では、彼女が所持していたであろうナイフも含めて、凶器の類が何一つ発見されていない。
 そして彼女の所持していた携帯電話すらも発見されなかった。通信記録から何か掴める可能性もあったのだが、犯人が持ち去ってしまったのだろうか?
 このままでは、事件は迷宮入り確実だ・・・。事件の真相へのアプローチが、全く見付からない。他の捜査員同様、私は焦りを感じていた・・・。
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