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学園編 § 学校生活編
第83話 生徒会室にて
しおりを挟む「あ、田口君、今日は出席?良かったよ。悪いけどお昼休み、生徒会室に来てくれないかな?」
翌日、学校へ登校した僕を待ち構えていたのは、生徒会長多々沼衣津子だった。
「昨日も会長、来てたぞ。なんか、養老のこと聞きたいってさ。」
聖也が会長の姿が消えるや否や、やってきて、そんな風に言った。
「言っても養老君って生徒会ですからね、その、謹慎?ですか?なんかその理由とか知りたいみたいですよ。」
と、ルカ。
「俺も昨日聞かれた。なんで俺だけ連れてかれなかったかってしつこかったぜ。だから、あいつら飛鳥に襲いかかったところに矢良先生が来たって言ってる。」
太朗が教えてくれる。
「それって、じゅん・・・矢良、先生は?」
「知ってる。てか、そう言うように言われた。怪我した飛鳥を先生が連れてくって。」
ったく。そういう打ち合わせは、言っておけっての。
朝礼が始まって、飄々とやってきた淳平を睨んでやったが、どこ吹く風。
太朗から聞く、ということも織り込み済みかもしれないけど、僕がどういう扱いになったか、聞いてないんだけど?
朝礼後、職員室に行く手前で捕まえて強引に聞いたら、怪我したから1日休みにしたろ?なんてけろっとしている。
昨日の1日調査しろ、っていう命令には、それもあったのか、と、僕としては大いに不満だ。まぁ、どっちにしても、気持ち的にも余裕が出来たから、休んだのは良かったのだけど・・・
昼休み。
僕は、初めて訪れる生徒会室の前でノックをしようと立ったのだけれど・・・
カチッ
音を立てて、扉が開く。
「いらっしゃい。入って。」
僕の顔を見て、ニコッと笑ったのは、生徒会書記倉間葵だった。
中には、生徒会役員が数名、おもいおもいの場所に座ったり、立ったりしていて、入ってきた僕に興味深そうな顔を向けていた。
「やぁ。良く来てくれたね。どうぞ、そこへ座って。」
会長は、自分もそちらに向かいながら、部屋の片隅に置かれたソファの長いすを指さした。
僕が、指定されたソファへ座ると、テーブルの向こうの一人掛けのソファへと、会長は腰を下ろす。なぜかその隣の、もう1つの一人掛けソファへと倉間葵も腰を下ろした。
「社会見学のときなんだけどね、養老くんたちとトラブルあったでしょ?そのことのことに聞きたいの。」
会長は、そんな風に切り出した。
「そのこと、って言っても。」
「ちなみに矢良先生からの報告は出ています。飛鳥君が悪くないのは分かってるわ。」
ニコッと笑いながら、葵は1枚のプリントを差し出してきた。
チラリと見ると、どうも淳平が学校側へと出した報告書のようだ。
淳平の報告では、順番に下の庭園見学を和菓子の作成実習中にやることになったので、僕と太朗が第一弾として行くことになったのだが、自分たちが先だと、養老チームが行ってしまった、ということになっているらしい。
それで少し開けて第2弾として僕らが行ったのだが、そのときに養老チームが待ち伏せしていて、喧嘩をふっかけたようで、物音に気付いた淳平が駆けつけたときには、僕が殴られて怪我をしていた、らしい。そこで加害者の養老チームを別室に待機させ、太朗を簡単な聴取の後、クラスに合流させた。養老チームは学校より呼び寄せた他の先生=蓮華たちにまかせ、自分は怪我人である僕を、病院に運んだ、となっている。
まぁ、ほとんどフィクションだな、けど、公式にはこういうストーリーってことだ。
軽く目を通した僕はにやにやと僕を見ている葵に気付き、眉をしかめた。
彼女はどうせ真実を知っていて、この公式報告を見せることで、僕の受け答えの助けをしたのだ、と、言いたいのだろう。
正直公式見解なんて知らなくても、僕としては適当にごまかせる。なんせ僕が殴られた上で、淳平に運ばれたってことだけで、余計な知識はいらないんだから。
「矢良先生の報告書で、なんかおかしなところはある?」
僕が報告書を読み終えたのに気付いたのか、会長が聞いてきた。
「いえ。ていうか、僕は庭に入ったら急に殴られて、よくわからないうちに先生に病院に連れてってもらっただけですから。」
「そう。その病院って?」
「さぁ。僕、まだ日本に来て間がないですし、地理とかも分からないから。」
「そう。・・・そうね。あと、一ついいかな?」
「なんですか?」
「どうして養老君たちが君を待ち伏せして殴ったの?なにか問題でもあるのかな?」
「・・・さぁ?僕に言われても。」
「・・そっかぁ。なんかね、養老君ってまじめだし、そんな誰かを殴ったりするような子に見えないんだけどな。」
「・・・だったら、会長は僕に問題がある、と?」
「ううん、そんなことない。飛鳥君は良い子だって評判だよ。」
「うそ、ですよね?」
「ハハハハ・・・まぁ、ごめん。なんていうかシャイだってのは聞いた。あと、脱いだらすごいんだって?キャハッ。私にも見せてくれたり?」
「しませんよ。」
「だよねぇ。あ、でも、シャイ、っていうか、同級生との接触って避けたりしてる?日本人、怖いかな?」
「・・・別にそんなことは・・・。」
「あのね、なかなか話しかけずらいって感じみたいよ。もしいやじゃなかったら、みんな仲良く、さぁ?」
「・・・ふぅ。近頃日本の生徒会長ってのは、1学生の交友関係まで口を出すんですか?」
「あ、そんなつもりはないんだけどね。ほら、いじめとか防止するのは役目の一つだし、ね?」
「・・・大丈夫です。親しい人間も少しはできましたし、それなりに交流は持ってます。」
「うん、そうだよね。そりゃそうだ。まぁ、急に殴られたのは災難だったよね。いじめじゃなきゃいいんだ。いじめがあるならお姉さんに相談してよね。これでも頼りになる方だから、さ。」
会長はそう言って、ウィンクした。
純粋に心配してくれているんだろう。
転校生、しかも帰国子女が殴られて病院送り、確かにそれだけ聞いたらいじめ問題か、とかなっても仕方ないか。悪いことをしたかもしれない。
クスッ。
そんな風に思っていたら、葵が唐突に笑った。
なんだ?
「飛鳥君って、思ってたよりずっとかわいいね。今、イッチーに申し訳ないとか思った?」
「・・・」
「フフ。ひょっとして私のこと気にしてる?あの放課後のこととかも、フフフ。」
「おい。」
「おや、なにかなぁ。私、仲間はずれかな?」
「フフフ、飛鳥君と私にはとある秘密があったりなかったり。」
「やめてください。倉間先輩とはたまたま同じ学校に通ってるだけの先輩と後輩なだけです。そもそも、運動会の練習で運動場にいた時、たまたま会っただけですよね。」
「あらら、そうくる?いろいろ教えて・・・」
「はい、いろいろ教えてくださいました。体育館の位置とか、更衣室の位置とか、そんなことをいろいろ教えてくれました。十分助かりました。あのときはありがとうございました。」
僕は、彼女に口を閉じろ、という意味も込めて早口に捲し立てた。
僕の顔が読みやすいなら、霊力がなさそうに見えるあんたでも、十分理解出来るだろう?
「ふうん、そんなこと言うんだ。ねぇ、私これから養老君のところに聞き込み行くんだけど、連れて行ってあげようと思ってたのに、そんなんじゃ、連れてけないかなぁ。」
はぁ?
「このあと、養老君がどういう処分になるかわかんないけどね、なんであんなことをしたのか、それを直接知るチャンスだと思うんだけどなぁ?」
・・・・
いずれ僕は養老の話を聞かなくちゃならない。
それは思っていたことだ。
そういう意味では自然に接触できるチャンスではある。
養老家の当主ともそういう意味では接触できるかも。
当主とは何度か僕は会ってるらしいけど。どうやら、AAOがらみのパーティや、また作戦行動でも同行したことがあるらしい。
らしいってのは、僕にそんな記憶はないのだけれど。
長い間いろんな人と共闘してきたし、いちいち全員を覚えていない。よっぽど何かイレギュラーがあった、とか、個人的にもめた、ということでもない限り、ほとんど個別認識はしていないんだ。そういうのはそれが得意な連中に任せておけば良い。そうやって生きてきたんだから仕方がないだろう?
結局のところ、僕は葵に屈した。
放課後、葵と会長の養老家訪問に、僕は同行することになったんだ。
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