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学園編 § 学校生活編
第79話 巫女様・姉様
しおりを挟む「うわぁ、本物の飛鳥様なんですね。光栄です。」
巫女装束の少女が、キラキラした目で言うから、居心地が悪いったらない。当代の巫女様は、どうやら、物怖じしない、というか、あまりおしとやかなタイプじゃないらしい。
「本物は、なんていうか、かわいらしい方なんですね。」
小学生だか中学生だか、そんな年齢の子に可愛いと言われても、複雑だ。
「もっと無骨な方だと思ってました。」
ニコニコと、そんな風に言う。
この子も絵本を見た口か。
ニコニコしていたんだけど、急に座布団をどけて、直に畳に座ったから驚いた。さらに驚いたことに、深々とお辞儀=土下座ともいう、を、行うもんだから、思わずお茶をこぼしてしまった。
なんだ、一体?
「飛鳥様は、人の世を救ってくださったと聞きました。だのに迫害されて、その、何度もお隠れになろうとした、とか。私ごとき、お詫びなどとおこがましいかも知れませんが、それでも、謝られてくださいませ。」
え?なんでこんな子供にそんなこと・・・そう思って慌てるけど、姉様も同じように頭を下げている。
「ちょっと、やめて、ください・・・」
「どうか、人を、見捨てないでください。」
頭を上げず、さらに言いつのる。
なんだよ、まったく。
「巫女様、ほんと、やめてください。僕が、その、見捨てるとか、そんなこと・・・」
「そんなこと、ないですか!」
「いや、そんなことも何も、僕なんかが・・・」
パチン!
へ?
今まで土下座してたよな。その巫女様が両手で蚊でも叩くみたいに、僕の頬を挟むみたく、叩いてるんですけど。
いや、別に痛くはないけど、上目遣いで涙を目にためて、いったいなんなの。
「飛鳥様、メッですよ。」
いや、なにが・・・?
「僕なんか、なんて言っちゃダメです。たっくさん、飛鳥様には救われているんですよ。私も姉様も、みんな飛鳥様のお陰で笑ってられるんです。たくさんの人間だけじゃありません。ここに奉られている神々。みんな飛鳥様が生かしてくれたって、たくさんのお話し聞いてます。みんな飛鳥様のこと大好きなんです。いいですか、飛鳥様、私は飛鳥様のことを悪く言う人は絶対許しません。たとえ飛鳥様でも、です。」
・・・
ったく、なんなんだよ。
僕が途方に暮れていると、クックッと姉様は、口を隠しながら笑っている。
僕と目が合うと、コホン、と咳払いした。
「巫女様のいないところで、私も同じようなお説教をしようかと思ったんですけど、先に巫女様にやられちゃいましたね。飛鳥様、私も同じ気持ちです。飛鳥様を大事にしないような人は、私も折檻しちゃいますよ。」
女性は子供でも、すぐ手が出る、覚えておいた方が良いのかもしれない・・・
そんなどうでもいいことを考えていたら、やっぱりバレるのか、はぁ、っと二人の少女に呆れたようなため息をつかれた。
「まぁ、今はいいです。飛鳥様、でもこれだけは覚えておいてください。あなたがどんな道を選択しても、私は、あなた様の味方をいたします。」
「もちろん、私も巫女様と同様に。仮に家とは反目しても、あなた様のお味方をさせてもらうつもりです。」
「どういう?」
「時が来れば分かります。」
「お告げ、とでも思っていただければいいですよ。」
・・・・・
穏やかな笑みを浮かべる当代巫女様と先代巫女様。
このお告げ、とは、何を意味するんだろう。
いや、それだけじゃないかも。
彼女たちだけじゃなくて伏見の神職、彼もなんだか、似たようなことを言っていた。いや次長一家も・・・?
僕の知らないところで、何かが起こっている?
一抹の不安を抱きつつそんなことを考えていたんだけど・・・
「まぁ、そんな話はやめましょうか。本当は飛鳥様のお話を直接お聞きしたかったんですけど、お仕事でいらしたんですもんね。」
まったく、コロコロと雰囲気の変わる子だ。
しかし、まぁ、そっちに話が移行してくれるとありがたいけど。
「うん。結界柱の確認。さすがに問題はなさそうなんだけど・・・」
「何か、感じましたか?」
「そうだね。違和感、が。気のせいかもしれないけど。」
「なんか違う。気持ち悪い感じ?」
「そう、そうなんだ。」
「分かります。」
「え?」
「わたしも、なんです。ここ1年ぐらい、じわじわと何か気持ち悪いというか・・・神様にお尋ねはしたんですけどね。」
「何か言われた?」
「人の、淀みではないか、と。」
「あぁ・・・」
「何か、ご存じで?」
「さっき、龍脈を潜ったんだけどね、妙な異物が結構な量あって、どうやら術の残滓のようだって。」
「えっと。龍脈を潜る、ですか?」
「あ、気にしないで。自分で出来るわけじゃないんだ。連れてかれただけ。」
「どなたか、聞いても。」
「うーん、まぁ、そこは保留で。」
「・・・・分かりました。せんないことを・・・」
「いや、こっちこそ。それで、なんだけど・・・」
「もし、結界柱の異変がございましたら、すぐに連絡を差し上げます。」
「あ、ああ。お願い。連絡の方法は、・・・どうしようか。」
「それなら私が。」
僕らの会話を黙って聞いていた姉様が、言った。
巫女のお世話係である姉様は、必要であれば、外に出ることが許されている。
でも、世俗と連絡、というのも、実は簡単じゃないはずなんだけど。
ん?世俗じゃなけりゃいいのかな?
「姉様って、稲荷の狐は見えるんだっけ?」
「お稲荷の眷属狐、ですか?もちろん見えますが。」
「だったら話が早いかな。誰でも良いから狐を捕まえて、元地主の巫女様が飛鳥を呼んでる、って伝えてくれれば通じるようにしておくから、お願いできる?」
「・・・狐を式神にでもしたんですか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどね。なんていうか、伏見のお姫様が、僕に加護を付けて狐の協力を得るようにしたんだよね。」
「・・・伏見が・・・」
「あ、やっぱりこんなお願い、神様の眷属的にまずかった?」
「そう、ですね・・・」
「いえ、大丈夫です。」
今度は巫女様が口を出して来た。
「水の眷属として、ここの神々も飛鳥様に協力するよう申し受けました。ほとんどの神が同意しているようですね。一体何があったんですか?」
「水、てことは貴船か。高龗神の協力かも。どっちにしても、神々だけじゃなくていろんなレベルでのあやかしが、京の異変に困ってるみたいで、なんとかするようにせっついてるし、協力も申し出てくれてるんだけど・・・」
でも、みんな人間に原因があるからって、僕のところに言ってくるんだな。
僕じゃ何もできないのに。
「そうですか。私に協力できることは何でも言ってくださいね。私、飛鳥様のお役に立ちたいですから。」
「ハハハ、ありがたい申し出で・・・ただ、まぁ、僕が勝手に動くと嫌がる人もいるんで、あまり先走らないでもらえると助かります。」
僕はそんな感じで、ここの結界柱のみをお願いし、帰宅することにした。
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