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学園編 § 学校生活編
第69話 稲荷の狐2
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僕はため息を一つつき、相当弱っているように見える、この庭の狐に向かって歩み寄った。
そうだ。
ここの稲荷はちゃんと稲荷の眷属を宿している。
しかも、顕現できるような眷属だ。それなりに力を持つあやかしといえる。
あやかし、と言ってるけど、単に人外をそう呼んでるだけで、場合により、神の眷属だったり、神そのものだったりと、信仰対象になるものも多い。そう。この稲荷やあまた八百万の神々もそうだ。
日本には太古より、この狐型のあやかしは多かった。善に転べば稲荷のお狐様と信仰され、悪に転べば狐憑きだのと祓いの対象となる。要は人間との付き合い方の問題で、勝手に人間からして善だ悪だと論じているに過ぎないんだろう。
ただ、僕がこの世界で生きてきて思うのは、人間の信仰というものは、人が考えるよりも多大な影響を人外に及ぼす、ということ。実際これだけ稲荷が点在するのは。人にとっての利益を実際もたらすからだ。人に利益を何故もたらすかと言えば、彼らは信仰という名の自己肯定を望んでいるから、ひとえにこのことが大きい。彼らは元来肉体というものを持たないことから、輪郭が乏しい存在。自分が自分であるためには、誰かからの存在の肯定が必要。信仰が自己の存在を確定する。
まぁ、偉そうに言っても、これは受け売りだ。
僕だってちゃんと把握してるわけじゃない。
なんだかんだと、こういう世界で生きていると、人外との接触も多くなる。そして僕の個性、と彼らは言うけど、僕のことを大いに気に入るか大いに嫌うか、両極端にあしらわれることが多い。おかげで、人外の知り合いが増え、人とは違う思考故のわがままに翻弄されることも多い。貴船の水神しかり、伏見のお狐しかり、ということだ。
で、そんな人外と多く接触してきた僕にとって、この庭に住む狐の様子、というのは、かなりいびつに思えたんだ。
しっかりとした顕現、にもかかわらず消え入りそうな霊力。
考えられるのは、霊力を使いすぎて、存在の維持が辛くなっている、というあたりか?
僕は、そんな風に思って、弱っているらしいその狐へと近づいていった。
「飛鳥。その前にやること!」
と、歩み寄っていると、工場の方角から声がかかった。
静かだけど通る声。
淳平の声だ。
僕は、歩みを止めて、そちらを振り返った。
僕らがさっき歩いてきた方から淳平と当主の生島、そして2人、おそらくは能力者の付き人か?
僕は、淳平以外の3名に頭を下げられて、軽く会釈を返した。
「その子たち、先に始末だ。」
淳平の言葉に、養老他地面に転がっている子供たちがすくみ上がる。
その様子を見て、すっかりこいつらのこと、忘れてたな、と、冷や汗をかいた。
「なんというか、飛鳥って、ある意味すごいですね。」
僕の気持ちを知ってか、ノリが肩をすくめながら言った。
「そういうフォローもお前たちの仕事のはずだが?」
淳平はそんなノリに、言う。
ノリは「すみません。」と素直に頭を下げ、ゼンも養老を押さえたまま、同様に頭を下げた。
なんていうか、ここに来た頃とはえらい違いだな、と、ひとりごちる。
「子供たちはこちらの家でいったん預かって貰う。今、支部長に連絡したからそのうち確保しに来るだろう。それまで、お前らで面倒見てな。」
「ちょっと待ってください。その、できれば、飛鳥と・・・」
「?飛鳥に別の仕事を持ってきたのはそっちだと思うが?」
「そうなんですけど。その、こういう対処を学びたい、というか。」
ノリがこんな風に遠慮がちに言うのも珍しい。
しかし、本当に、えらく変わったもんだなぁ。前ならそうしたかったら、逆に淳平に命令していただろうに。
「お前らが飛鳥に別の仕事を持ってきた以上、飛鳥の仕事をお前らがやるのは当然だろ?ていうか、ようく考えてみ。むしろお前さん達の方がこっちは適任だろうに。」
淳平の視線が養老に向く。
「・・・家格、ですか。・・・分かりました。すみません。淳さんのいうとおりです。彼らの移送任務に回ります。」
ノリとゼンは顔を見合わせて頷いた。
ゼンが養老を立たせ、また、生島さんが連れてきた男たちが残りの3人も立たせた。男たちは、ゼンから養老も受け取り、二人ずつ引きずるように、どこかへ連れて行く。
「飛鳥、これ。」
ノリとゼンがそのとき持っていた管狐の管を僕に渡し、僕の頭をくしゃっと撫でると、男たちの後を追っていった。
「鈴木、すまんが、同級生のフォロー頼むわ。知らん顔ばかりじゃ、あいつら持たないからな。」
「えっと・・・はい。飛鳥をよろしくっす。」
太朗は、淳平の言葉に一瞬逡巡したが、なぜか淳平に僕を託して頭を下げる。
「おう。」と軽く手を上げた淳平を見ると、僕を見てニッと笑い、背中を思いっきりどやしてから、彼らの後を追っていった。
残されたのは、僕、淳平、生島さん、そして狐。
僕は生島さんを見て逡巡する。
そりゃこの人も、それなりの霊能者だろうけど。
「すみませんね、飛鳥君。私も同席させてください。いやね、あちらに行ってもいいんですが、先ほど幸楽の末が言ってらしたように、養老家と我が生島家では、家格が問題になりそうでね。ごねられると面倒ですから、当主なんて姿がない方が良いんですよ。」
養老家は、確か、もともと宮家降家ゆかりで、一応主家でもある。生島家はその大元に幸楽があり、いわば分家筋。家格という意味では、養老が上、だそうだ。僕にはそういう政治だかなんだかのことはよく分からない。そもそも流派が違うのにどうやって上だ下だというのか、さっぱりだ。だが、彼らがそう言うのならそうなんだろう。勝手にやってくれ、って話だけど。
「それにね、キュウタは、私の子供の時からの友人でね。」
照れたようにいう生島さん。
でも、ああそういうことか、と思う。
キュウタ、というのはどうやらこの狐の名なんだろう。
が、顕現している、とはいえ、普通の人に見えるわけじゃない。はて、さっきの中学生たち、見えていたのかな?僕の首にマフラーみたいに巻き付いているこの管狐だって、考えてみれば見えていたか怪しいもんだ。そうやって考えたら、僕らの言動、かなり怪しかっただろうな。このお陰で、僕はお役御免、は、ないだろうか?それなら嬉しいけど、下手したらあの子たちが退学もんだな。まぁ、あの札もどきに手を出した以上、まったくのおとがめなしってわけにはいかないか。
どっちにしても、僕がどうこう言う問題じゃないけど。
生島さんは、恥ずかしそうに言うと、キュウタに目を向け、心配そうに眉をしかめた。
「キュウタ、ですか。こいつは問題なさそうですよ。多分霊力を使いすぎて弱っているだけでしょう。飛鳥、やれるな?」
淳平は生島さんにそう言うと、僕に顔を向けた。
僕は、頷く。
霊力の授受、というのは、僕の得意分野だ。といっても、能動的にするのはそんなに得意じゃないんだけど。
でも、これだけの神性を宿した霊狐なら、僕が渡せば勝手に受け取ってくれるだろう。
僕はキュウタに近づき、手を差し出した。
『かぷっとやっちゃえ!』
『かぶっと、かぶっと。』
『飛鳥なら大丈夫。』
『飛鳥、おいしいよ。』
『いっぱい食べても大丈夫。』
『飛鳥は死なないよ。』
『さあさあ、いっぱい食べちゃえ。』
『私も食べていい?』
『私も食べていい?』
おそるおそる、僕の手を前足で抱えるようにしたキュウタ。
ゆっくりとためらいがちに僕の霊力を持っていく。
その様子を見て、騒ぐ管狐たち。
なんだよかぷって?
僕の肩や首にかぶりつく真似をしながらかぷっとか言ってるし。
しまいには、僕から離れキュウタの周りではやし立てている2匹。
ためらいがちに上目遣いに僕を見る狐。
「いいよ、かぶりついても。管狐、お前たちはダメだからな。」
僕がそう言うと、霊孤は嬉しそうに僕の手を抱えて、かぶりついた。
さっきとは全然違う勢いで霊力を吸っているのが分かる。
どういう仕組みか、口でかぶりつくと霊力がとりやすいのは、他の神々でも経験済みだ。管狐たちの『飛鳥のけち』という合唱を無視しつつ、徐々に輪郭を濃くしていくキュウタを眺める。
「ほい。もういいだろ。」
しばらくして、そんなキュウタの頭に優しく手を置いて淳平が言った。
「それ以上酔っ払ったら、話が出来ないぞ。」
冗談めかして言う淳平を、ぼうっと眺めると、ハッとしたようにキュウタは口を開けた。
「あわわわ・・・あの、ありが、ありがとう、ござましゅたっ・・・・あっ・・・」
あらら、真っ赤っかで、噛んでるし。
僕は思わずクスッと笑う。
ゴツン。
そんな僕の頭を、淳平がグーで殴った。
「痛っ。」
思わず頭を抱えて、涙目で睨む。
「おまえもやりすぎ。途中で止めなきゃ、この子死んでたぞ。」
「あ、・・・あぁ・・・」
僕は、チラッとキュウタを見ると、真っ赤な顔で、目がとろんとしている。確かにやばかったのかも。
僕の霊力は、あやかしにとって相当おいしいらしい。そして人間が酒に酔うみたいに酔うようで、酒好きの神々からうれしくない引っ張りだこだ。ただ相当濃いということで、霊的キャパが超えると、はじけて消えてしまう危険がある。人間は腹一杯食べて、腹がはじけそう!と言うが、実際にはじけることはない。少なくとも自力で食べる場合には、という注釈付だが。
しかし、あやかしはそうはいかない。キャパオーバーで本当に風船のようにはじけ飛んでしまう。実際それを使って、霊力を注ぎ込んで倒す、なんてこともやったことがあるぐらい、当然の知識だ。淳平が怒ってるのは、まぁ、そういうことだろう。助けようと思ってたのにはじき飛ばしてちゃ、意味がない。
ったく、と、僕の様子に舌を打ちつつ、淳平がキュウタを抱き上げる。
キュウタの霊力の流れを調節しているようで、たちまちトロンとした目は力を帯びていき、はじけそうになった腹も、霊力を霧散させることで、正常値に戻したようだ。
「あ、ありがとうございます!」
「ありがとうございます。」
慌てて淳平の手から飛び降りたキュウタは、深々と頭を下げた。
その横に回った生島さんも、一緒に僕らに頭を下げたのだった。
そうだ。
ここの稲荷はちゃんと稲荷の眷属を宿している。
しかも、顕現できるような眷属だ。それなりに力を持つあやかしといえる。
あやかし、と言ってるけど、単に人外をそう呼んでるだけで、場合により、神の眷属だったり、神そのものだったりと、信仰対象になるものも多い。そう。この稲荷やあまた八百万の神々もそうだ。
日本には太古より、この狐型のあやかしは多かった。善に転べば稲荷のお狐様と信仰され、悪に転べば狐憑きだのと祓いの対象となる。要は人間との付き合い方の問題で、勝手に人間からして善だ悪だと論じているに過ぎないんだろう。
ただ、僕がこの世界で生きてきて思うのは、人間の信仰というものは、人が考えるよりも多大な影響を人外に及ぼす、ということ。実際これだけ稲荷が点在するのは。人にとっての利益を実際もたらすからだ。人に利益を何故もたらすかと言えば、彼らは信仰という名の自己肯定を望んでいるから、ひとえにこのことが大きい。彼らは元来肉体というものを持たないことから、輪郭が乏しい存在。自分が自分であるためには、誰かからの存在の肯定が必要。信仰が自己の存在を確定する。
まぁ、偉そうに言っても、これは受け売りだ。
僕だってちゃんと把握してるわけじゃない。
なんだかんだと、こういう世界で生きていると、人外との接触も多くなる。そして僕の個性、と彼らは言うけど、僕のことを大いに気に入るか大いに嫌うか、両極端にあしらわれることが多い。おかげで、人外の知り合いが増え、人とは違う思考故のわがままに翻弄されることも多い。貴船の水神しかり、伏見のお狐しかり、ということだ。
で、そんな人外と多く接触してきた僕にとって、この庭に住む狐の様子、というのは、かなりいびつに思えたんだ。
しっかりとした顕現、にもかかわらず消え入りそうな霊力。
考えられるのは、霊力を使いすぎて、存在の維持が辛くなっている、というあたりか?
僕は、そんな風に思って、弱っているらしいその狐へと近づいていった。
「飛鳥。その前にやること!」
と、歩み寄っていると、工場の方角から声がかかった。
静かだけど通る声。
淳平の声だ。
僕は、歩みを止めて、そちらを振り返った。
僕らがさっき歩いてきた方から淳平と当主の生島、そして2人、おそらくは能力者の付き人か?
僕は、淳平以外の3名に頭を下げられて、軽く会釈を返した。
「その子たち、先に始末だ。」
淳平の言葉に、養老他地面に転がっている子供たちがすくみ上がる。
その様子を見て、すっかりこいつらのこと、忘れてたな、と、冷や汗をかいた。
「なんというか、飛鳥って、ある意味すごいですね。」
僕の気持ちを知ってか、ノリが肩をすくめながら言った。
「そういうフォローもお前たちの仕事のはずだが?」
淳平はそんなノリに、言う。
ノリは「すみません。」と素直に頭を下げ、ゼンも養老を押さえたまま、同様に頭を下げた。
なんていうか、ここに来た頃とはえらい違いだな、と、ひとりごちる。
「子供たちはこちらの家でいったん預かって貰う。今、支部長に連絡したからそのうち確保しに来るだろう。それまで、お前らで面倒見てな。」
「ちょっと待ってください。その、できれば、飛鳥と・・・」
「?飛鳥に別の仕事を持ってきたのはそっちだと思うが?」
「そうなんですけど。その、こういう対処を学びたい、というか。」
ノリがこんな風に遠慮がちに言うのも珍しい。
しかし、本当に、えらく変わったもんだなぁ。前ならそうしたかったら、逆に淳平に命令していただろうに。
「お前らが飛鳥に別の仕事を持ってきた以上、飛鳥の仕事をお前らがやるのは当然だろ?ていうか、ようく考えてみ。むしろお前さん達の方がこっちは適任だろうに。」
淳平の視線が養老に向く。
「・・・家格、ですか。・・・分かりました。すみません。淳さんのいうとおりです。彼らの移送任務に回ります。」
ノリとゼンは顔を見合わせて頷いた。
ゼンが養老を立たせ、また、生島さんが連れてきた男たちが残りの3人も立たせた。男たちは、ゼンから養老も受け取り、二人ずつ引きずるように、どこかへ連れて行く。
「飛鳥、これ。」
ノリとゼンがそのとき持っていた管狐の管を僕に渡し、僕の頭をくしゃっと撫でると、男たちの後を追っていった。
「鈴木、すまんが、同級生のフォロー頼むわ。知らん顔ばかりじゃ、あいつら持たないからな。」
「えっと・・・はい。飛鳥をよろしくっす。」
太朗は、淳平の言葉に一瞬逡巡したが、なぜか淳平に僕を託して頭を下げる。
「おう。」と軽く手を上げた淳平を見ると、僕を見てニッと笑い、背中を思いっきりどやしてから、彼らの後を追っていった。
残されたのは、僕、淳平、生島さん、そして狐。
僕は生島さんを見て逡巡する。
そりゃこの人も、それなりの霊能者だろうけど。
「すみませんね、飛鳥君。私も同席させてください。いやね、あちらに行ってもいいんですが、先ほど幸楽の末が言ってらしたように、養老家と我が生島家では、家格が問題になりそうでね。ごねられると面倒ですから、当主なんて姿がない方が良いんですよ。」
養老家は、確か、もともと宮家降家ゆかりで、一応主家でもある。生島家はその大元に幸楽があり、いわば分家筋。家格という意味では、養老が上、だそうだ。僕にはそういう政治だかなんだかのことはよく分からない。そもそも流派が違うのにどうやって上だ下だというのか、さっぱりだ。だが、彼らがそう言うのならそうなんだろう。勝手にやってくれ、って話だけど。
「それにね、キュウタは、私の子供の時からの友人でね。」
照れたようにいう生島さん。
でも、ああそういうことか、と思う。
キュウタ、というのはどうやらこの狐の名なんだろう。
が、顕現している、とはいえ、普通の人に見えるわけじゃない。はて、さっきの中学生たち、見えていたのかな?僕の首にマフラーみたいに巻き付いているこの管狐だって、考えてみれば見えていたか怪しいもんだ。そうやって考えたら、僕らの言動、かなり怪しかっただろうな。このお陰で、僕はお役御免、は、ないだろうか?それなら嬉しいけど、下手したらあの子たちが退学もんだな。まぁ、あの札もどきに手を出した以上、まったくのおとがめなしってわけにはいかないか。
どっちにしても、僕がどうこう言う問題じゃないけど。
生島さんは、恥ずかしそうに言うと、キュウタに目を向け、心配そうに眉をしかめた。
「キュウタ、ですか。こいつは問題なさそうですよ。多分霊力を使いすぎて弱っているだけでしょう。飛鳥、やれるな?」
淳平は生島さんにそう言うと、僕に顔を向けた。
僕は、頷く。
霊力の授受、というのは、僕の得意分野だ。といっても、能動的にするのはそんなに得意じゃないんだけど。
でも、これだけの神性を宿した霊狐なら、僕が渡せば勝手に受け取ってくれるだろう。
僕はキュウタに近づき、手を差し出した。
『かぷっとやっちゃえ!』
『かぶっと、かぶっと。』
『飛鳥なら大丈夫。』
『飛鳥、おいしいよ。』
『いっぱい食べても大丈夫。』
『飛鳥は死なないよ。』
『さあさあ、いっぱい食べちゃえ。』
『私も食べていい?』
『私も食べていい?』
おそるおそる、僕の手を前足で抱えるようにしたキュウタ。
ゆっくりとためらいがちに僕の霊力を持っていく。
その様子を見て、騒ぐ管狐たち。
なんだよかぷって?
僕の肩や首にかぶりつく真似をしながらかぷっとか言ってるし。
しまいには、僕から離れキュウタの周りではやし立てている2匹。
ためらいがちに上目遣いに僕を見る狐。
「いいよ、かぶりついても。管狐、お前たちはダメだからな。」
僕がそう言うと、霊孤は嬉しそうに僕の手を抱えて、かぶりついた。
さっきとは全然違う勢いで霊力を吸っているのが分かる。
どういう仕組みか、口でかぶりつくと霊力がとりやすいのは、他の神々でも経験済みだ。管狐たちの『飛鳥のけち』という合唱を無視しつつ、徐々に輪郭を濃くしていくキュウタを眺める。
「ほい。もういいだろ。」
しばらくして、そんなキュウタの頭に優しく手を置いて淳平が言った。
「それ以上酔っ払ったら、話が出来ないぞ。」
冗談めかして言う淳平を、ぼうっと眺めると、ハッとしたようにキュウタは口を開けた。
「あわわわ・・・あの、ありが、ありがとう、ござましゅたっ・・・・あっ・・・」
あらら、真っ赤っかで、噛んでるし。
僕は思わずクスッと笑う。
ゴツン。
そんな僕の頭を、淳平がグーで殴った。
「痛っ。」
思わず頭を抱えて、涙目で睨む。
「おまえもやりすぎ。途中で止めなきゃ、この子死んでたぞ。」
「あ、・・・あぁ・・・」
僕は、チラッとキュウタを見ると、真っ赤な顔で、目がとろんとしている。確かにやばかったのかも。
僕の霊力は、あやかしにとって相当おいしいらしい。そして人間が酒に酔うみたいに酔うようで、酒好きの神々からうれしくない引っ張りだこだ。ただ相当濃いということで、霊的キャパが超えると、はじけて消えてしまう危険がある。人間は腹一杯食べて、腹がはじけそう!と言うが、実際にはじけることはない。少なくとも自力で食べる場合には、という注釈付だが。
しかし、あやかしはそうはいかない。キャパオーバーで本当に風船のようにはじけ飛んでしまう。実際それを使って、霊力を注ぎ込んで倒す、なんてこともやったことがあるぐらい、当然の知識だ。淳平が怒ってるのは、まぁ、そういうことだろう。助けようと思ってたのにはじき飛ばしてちゃ、意味がない。
ったく、と、僕の様子に舌を打ちつつ、淳平がキュウタを抱き上げる。
キュウタの霊力の流れを調節しているようで、たちまちトロンとした目は力を帯びていき、はじけそうになった腹も、霊力を霧散させることで、正常値に戻したようだ。
「あ、ありがとうございます!」
「ありがとうございます。」
慌てて淳平の手から飛び降りたキュウタは、深々と頭を下げた。
その横に回った生島さんも、一緒に僕らに頭を下げたのだった。
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