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学園編 § 学校生活編

第61話 太朗、そして・・・

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 「ほら良かっただろ。」
 太朗がニヤニヤしながら僕に、そう言った。

 霊力移転先の魔法陣を回収した翌朝。
 寮の食堂で朝食を食べにきた僕らに、どうやら待ちぶせていたらしい太朗が合流し、そのまま、くっついてきた。
 一人で登校する、という僕に半ば強引に同行した太朗だったが、下足室で養老千暮とその取り巻きらしき少年たちが、僕の靴箱の前で陣取っていた。それを見ての、太朗のセリフだ。
 養老は僕を認めると、近づいてきたが、背後にいた太朗に気付き、一瞬躊躇する。
 奴らがこちらに詰め寄ってきたお陰で、靴箱前自体には人払いが出来た。僕は彼らの横を無視して通り過ぎ、靴を履き替える。

 「おい!」
 背後から養老が声をかける。
 が、僕の背後にピタッと張り付いていた太朗が、振り返って「何か?」と、返事をした。
 「お前じゃない。引っ込んでろ。」
 強気に言う養老に、取り巻きもそうだそうだ!と息巻く。が・・・

 下足室、ということは登校する生徒が必ず通る場所。
 少し早めではあるが、それなりの時間、ということもあり、人目も多い。
 声をあらげる養老に、いぶかしげな視線が降り注いでいた。
 太朗の存在に幾分当惑もあったのだろう、すぐにそれらの視線に気付いた養老は、チッと舌打ちをして踵を返した。

 「俺、結構役立ちそうだなぁ。」
 自画自賛する太朗。
 「そうだな。」
 応える僕に、ニヤニヤとした笑みを向ける。
 「ところでさぁ、気にならない?」
 「何が?」
 「そりゃ、飛鳥の絵本だろ?」
 気にならないかと言ったら嘘になる。
 AAOで禁書扱いしたものが一般人の、しかも子供が目に触れる状態になっている、というのだ。気にならないわけない。昔の知り合いが執筆したもの、というなら、なおさら。
 彼の両親が在学中にもあった、ということは30年か40年以上もその状態を続けている、ということか。
 AAOに気付かれずに?
 不自然だ、と、思う。

 「ありゃ?なんか想像と違う。」
 考え込んだ僕を見て、太朗が言った。
 「何が?」
 「いや、てっきり、絵本なんて恥ずかしい、とかいう反応かと思ったけど、違うっぽいよな?」
 「あぁ。恥ずかしい、というより、面倒、が先に立つかもな。散々今まで色々あることないこと言われてきたしな。人にどう思われてもどうでもいいよ。」
 「あらま、達観。その割には俺や先輩らの視線、恥ずかしがってたよな?」
 「・・・別に。」
 「いや、昨夜は明らかに照れてた。」
 「そんなんじゃねぇ。」
 「じゃあ、どんなんよ?」
 「・・・知るか!」
 僕は、しつこい太朗を置き去りにして、教室へ向かう。
 相変わらずニヤニヤとして、後ろをついてくる太朗に、ちょっとむかつきつつ、不思議な感覚を味わっていることに気付く。

 なんというか、普通に友達と連んでいるような・・・
 ハハ、そんなわけないな。
 なんか調子が狂う。

 やっぱり、1年・・・半ぐらいか?人とまったく接することがなかったから、距離感が分からなくなってるのかもしれない。
 去年は1年まるまる任務がなかったから、月1ペースで訪れてくる蓮華や遙ぐらいとしか会わなかった。7月の総会には出たが、その前に任務で外に出たのは、・・・そうだ、クリスマスのドイツ、だったな。そうやって考えると、やっぱり1年半も任務から外れてたってことか。そりゃ、あちこちから働け、と、言われるわけだ。
 それにしても、今回のはディープ過ぎるよな。
 終始、素人の大人数の目を気にしなくちゃいけない。
 すでに集団としてのアイデンティティが固まっているようなところに、僕みたいな異物が混入すれば、当然、視線が集まるのは仕方がないだろうけど・・・


 「飛鳥って、すぐに自分の世界に入るよな。」
 太朗が、僕の思考をぶった切って、そんな風に言ってきた。
 「あんまさぁ、考えすぎんなよ。はげるぞ。」
 ・・・
 それは太朗なりのギャグ、なのか?
 もしはげたとしたら。
 僕は、相当嬉しいかもしれない。
 坊主にしても、一晩寝れば元通りの忌々しいこの髪とおさらばできる、てことだろ?それって、僕は死ねる、ということ、なのかな?
 ハハハ・・・、考え込むぐらいで死ねるってんなら・・・僕はとっくにくたばってるか・・・はぁ・・・

 「あ、悪い。なんか、その、髪のこと・・・すまん。」
 なぜか太朗が慌てて言う。
 「いや、別に・・・」
 「いや、俺が悪かった。別に、その・・・飛鳥の体質っつうの?それのこと、皮肉るつもりはなかったんだ。あの・・・・その長髪は、そのなんだ、飛鳥の体質の象徴っつうか、それ、だったんだよな。マジ、ごめん。」
 慌てる太朗が、なんだか可愛く見えた。
 そりゃそうだ。本当なら孫かひ孫か。そんなもんだからな。

 
「あー、なんかズルっぽい?いつの間にか太朗ちゃんと飛鳥ちゃんの距離、近くなってない?」
 ぷくっと、頬を本当に膨らませたルカが、そんな僕らの間に入ってきて、交互に顔を見ながら、言った。
 どうやら今やってきたらしい。
 「昨日、二人で先に帰ったでしょ?なんかあったの?」
 そういえば、ルカも、ついでに聖也も、太朗と同じ野球班だったな。
 野球部で実質的に野球班を仕切っていた太朗と、一応の監督役である僕が、二人して早退、は、確かにまずかった。

 「まぁまぁ。飛鳥がちょっとでもクラスになじんだなら、それでいいじゃない?それが、一番に飛鳥を招き入れた自称クラス一飛鳥と親しい男、この田嶋聖也じゃなかったとしても、オロオロオロ・・・」
 その後ろから、聖也も泣き真似をしながら、言う。
 なんか、賑やかなヤツらだ。
 彼らに太朗が「まぁいろいろあったからな。」などと煽り、それに乗る二人、という、意味のない漫才を見つつ、なんかこういうのもいいな、と思う自分に驚いた。



 放課後。


 太朗がしつこく絵本の話を一日中してきた、ということもあり、聖也とルカもなぜか加わって、初等部に来ていた。
 二人とも、初等部出身。
 絵本については知っているようだった。

 「あれってそういえばアスカって名前だったよな。」
 「なんか、怖い終わりかただったような・・・。」
 二人の感想はそんな感じだ。

 どうやら何故か低学年のどこかでは流行、一部にものすごいファンができるものの、内容の特殊性から苦手意識を持つ子も多い、とのこと。太朗が言ってたほど、僕と結びつける感じではなさそうで、正直ホッとしていた。

 3人のやりとりを聞いた感じでは、最初は魔物を倒すヒーローだったけど、なぜか途中で敵が神様になり混乱する子が一定数いる、とのことだ。だけど、そういうところが他の勧善懲悪のヒーローものと違い、ある種の子供たちにカリスマ的な人気を博しているのだという。さらになんとか全世界からの応援を受け神を倒すところは、相手が神ということも忘れて、ほとんどの子が熱狂。しかし、そうしたヒーローが呪われて苦しむという結論。子供にはその救われなさがトラウマもので、ダメな子は絶対ムリ、なんだそう。
 絵本、というジャンルにもかかわらず、二転三転する雰囲気と、ダークな結論が、他の絵本とは、一線を画していた、というのが、大人になった(本人たち談)自分たちの感想、らしい。

 まぁ、淳平から聞いたところでは、デフォルメはあるものの、ほぼほぼ実話そのままらしいし、純粋に物語りと違って、起承転結なんてないからな。異質なのは仕方ないんだろう。

 特に、この絵本をこんなところに配置した犯人を捜す、なんてのは、僕の仕事に入ってはいない。が、彼らに誘われていた僕らの背後から淳平が現れて、表面上は頼まれる形で、初等部の図書館使用の許可を担任として出してくれ、こっそり念話で、『ちょうど良いから初等部の調査を。』と、命令されたんだ。

 僕らは、そうして、初等部の図書館(という名の図書室)に、元出身者たる3人の先導の元、足を踏み入れたんだ。
 
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