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学園編 § 学校生活編
第60話 深夜の体育館裏にて
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深夜。
初めは蓮華と僕とで行く予定だった体育館裏。
気がつくと、5人体制だ。
今回潜入中の僕を含めて5人全員が、真っ暗な木立の中、小さな建物を凝視していた。
到着すると、僕以外の4人が、僕の霊力を微かに感じる、という。
「間違いないわね。」
蓮華の合図で、どこからか調達してきた鍵で、淳平がその百葉箱サイズの箱の鍵を開けた。
中は、想像通りの配電盤だ。やはり、壁と、裏口のセキュリティの電源、といったところか。ただし、普通の配電盤に比べて奥行きが深そうだ。淳平は慎重に配電盤の蓋を外した。
案の定、配電盤としての機能は、前の三分の一程度。
後ろの三分の二は空洞というか・・・
「すごいな。」
思わず、淳平が唸る。
「触っちゃダメよ。」
後ろからのぞき込んだ蓮華が注意を促した。
「分かってるよ。飛鳥!」
淳平に呼ばれて前に出た。
後ろの方は10センチ程度、床が上がっていた。
その上に丁寧に配置された3センチから5センチ大の霊石。
それらは、符と呼ばれる一種の魔法陣を刻まれた石の上に並べられていて、立体的な術の発現装置となっている。
「陰陽の符だよね。ここの結界の元?」
「でしょうね。あんたたちも見る?」
リアル高校生のノリとゼンに声をかける蓮華は、本当の先生みたいだ。口も悪いしすぐ手が出るけど、よそ行きの顔はかなり才女風。一応名家のお嬢様として育っているし、社交もそつなくこなす。が、本当は学校の先生とか憧れていたんだろう、と思う。本当は女の子が憧れてくれるような格好良い先生になりたかったんだ、と、何かの折、言ってた気がするんだ。
僕が横にどいて、そこに二人が顔を覗かせる。
彼らは、自分の宗派の英才教育を受けているけど、他の宗派まで賄っていないのは分かっている。ひょっとしたら、一般教養としてメジャーどころの触りは勉強しているかもしれないが、ある程度、術が体だけじゃなく精神というか霊体にまで染み込まなければ、他の術式に触れるのはまずいんだそう。特化すればするほど術は完成し、僕に言わせれば色が定着し、強い術者となることができる。
そういうこともあって、特に才能がありそうな子は、他家の術式に触れないように育てられる。本家と分家でさえ、触れさせない、なんて家もあるぐらいだ。
彼らの年齢だと、まだ他家の術をマジマジと見る機会なんて、そうそう与えられていないだろう。何度か、実戦を経験したと言っていたから、近い流派の術をやっと見始めた、と言うレベル。
だから、どちらともまったく違う宗派である陰陽の術、なんてのは、少なくともホンモノを見るのは初めての経験なんだと思う。
彼らは、おっかなびっくり、符をのぞき込み、それに蓮華がちょっとした解説をしていた。
どうやら、先日の術式反発がかなりのトラウマ化しているようで、自分の霊力を極限に抑えた上で首だけを伸ばしているのは、ちょっと面白い。
「飛鳥、笑ってる場合じゃないぞ。まさかの陰陽式とはな。」
「頂法寺関係が結界張ってるかと思ってたんだけどね。」
「ああ。まぁ、なんだかんだ言っても、京は陰陽が幅をきかせてるから、そう不思議ではない。とはいえ、違和感だなぁ。」
「この術は、でも、放置、なんだよね?」
「まぁ、これいじったら、やぶ蛇もいいとこっしょ。だけど、気付いてるか?」
「ん。まぁ・・・」
淳平が言っているのは、もう一つ、の方だろう。
「下、だよな。」
「たぶん・・・」
辻のものと同じだ。
二重になってる。
今度は、あの上げ底になっている下、だろうな。
「飛鳥!」
僕と淳平が少し下がって、そんなやりとりをしていたら、二人への授業が終わったのか、蓮華が僕を手招きした。
「これを動かさないようにして、下をとりなさい。」
いや、とりなさい、って言われても・・・
上げ底部分がどういう仕組みになっているか分からない。
だからといって符を動かせば、霊石が動いて、術を消しかねない。
この符に力を注ぐくらいにならできても、こんな複雑なの、再構築なんて、僕には無理だ。
「符そのものが石なんだから、そおっと持ち上げて台をチェックするとかできるでしょう?」
「無茶言うなよ。僕が持って僕が調べるのか?そんな器用なこと出来るわけないだろ。」
「出来ないって言う前に、や・る・の!」
「まあまあ蓮華、さすがにそれは無茶ぶりだわ。」
淳平が蓮華をいなす。
「それより、ちょっと飛鳥、離れて。」
淳平が、シッシと言いながら僕を離れさせた。
「やっぱり。みんな、ここを見て。」
僕が離れると、淳平の指示の下、4人で箱の下を覗き始めた。
なんか説明されると、ゼンが下に潜り込んで、箱の底部分をライトで照らす。
漏れ聞こえる話からすると、僕が近くにいると、残り香みたいな僕の霊力を詳細に感じられなかったようだ。
が、どうやらそれは箱の底の方から漂っているらしく、その最も濃いところをゼンがライトで照らしたというところか。
「行けます!」
そう言って、なにやら底を触ろうとして、ゼンは蓮華にひっぱたかれる。
すみません、とか言いながら出てきて、彼は僕を呼んだ。
「飛鳥、ここを見て。」
言われて、ゼンが照らしている底を見た。
どうやらドライバーで開閉できるようで、しかも、何度も開け閉めしたような跡が見て取れる。
「開けてみて。」
僕が確認したのを見た蓮華は、そう言った。
僕?
「ここからあんたの霊力の跡が漏れてるの。他の人がやったら、何が反応するかわからないでしょ。」
確かにその通りなんだけど・・・
微妙に納得いきかねる、と思いつつ、箱の下に潜り込んでドライバーで底を開けた。
底は、ねじを外し、少し上に浮かせて小さくスライドさせるとがっつりと外れる簡単な物だった。
なんか重いな、と思って慎重に取り出すと、底の上に丸い箱、少し高さのあるシャーレみたいなの、がくっつけられていて、その中にジャラジャラと小粒の水晶、俗に浄化石なんて言われているタイプの石が入っている。
そして、その底の部分だが、同じだ。
底にこのシャーレを中心とした魔法陣が描かれていて、あきらかに辻で発見された4枚と対をなしている。
「集積用の魔法陣か。」
「水晶にチャージしてた、ってこと?」
遠巻きにしている淳平と蓮華がそんな風に言った。
「これどうする?一体化してるけど。」
「放置するのもなぁ・・・」
「回収してくるところを、って方法もあるけど?」
「誰が張るんだよ。」
蓮華が、少し離れているゼンたちを見る。
「いや無理だろ。経験不足だ。」
淳平が即決する。
「僕が・・・」
正直、学校へ行って大勢の目にさらされるより、こっちの方が幾分楽だ。
「却下。あんたはやることあるでしょ。」
学内の魔法陣の排除と犯人捜し、だろ?分かってるよ。
「もういいわ、飛鳥、底ごとコレに入れて。」
封印用の袋を投げて寄こす。
コレに入れると、呪術干渉はない。
ていうか、これ底がないまま放置?
「だな。結界にそいつはむしろ邪魔だし、なくなって焦ってくれれば万々歳ってか?」
淳平も蓮華に賛成らしい。
仕方がない。リーダーは二人の方だ。現場の指揮は、ザー・チャイルド優先。そもそもゼンやノリに決定権はない。
ザ・チャイルド内では一応平等ということだけど、そもそもこの二人と平等なわけはなく・・・仮に平等だとしても、2人が賛成の段階で多数決で決定みたいなもんだ。
僕は、黙って渡された袋に魔法陣の描かれた底を水晶ともども丁寧に入れて、封印処理を施した。
僕から、底を受け取った蓮華。これから都の事務局へ向かうという。真夜中にご苦労なことだ。なんだかんだで、仕事を持ち越さない。彼女の利点であり、付き合わされる身としては、面倒なところ。
蓮華は、解散、を言い渡し姿を消した。
そうして、僕や他の面々は、寮へと帰ることにした。
初めは蓮華と僕とで行く予定だった体育館裏。
気がつくと、5人体制だ。
今回潜入中の僕を含めて5人全員が、真っ暗な木立の中、小さな建物を凝視していた。
到着すると、僕以外の4人が、僕の霊力を微かに感じる、という。
「間違いないわね。」
蓮華の合図で、どこからか調達してきた鍵で、淳平がその百葉箱サイズの箱の鍵を開けた。
中は、想像通りの配電盤だ。やはり、壁と、裏口のセキュリティの電源、といったところか。ただし、普通の配電盤に比べて奥行きが深そうだ。淳平は慎重に配電盤の蓋を外した。
案の定、配電盤としての機能は、前の三分の一程度。
後ろの三分の二は空洞というか・・・
「すごいな。」
思わず、淳平が唸る。
「触っちゃダメよ。」
後ろからのぞき込んだ蓮華が注意を促した。
「分かってるよ。飛鳥!」
淳平に呼ばれて前に出た。
後ろの方は10センチ程度、床が上がっていた。
その上に丁寧に配置された3センチから5センチ大の霊石。
それらは、符と呼ばれる一種の魔法陣を刻まれた石の上に並べられていて、立体的な術の発現装置となっている。
「陰陽の符だよね。ここの結界の元?」
「でしょうね。あんたたちも見る?」
リアル高校生のノリとゼンに声をかける蓮華は、本当の先生みたいだ。口も悪いしすぐ手が出るけど、よそ行きの顔はかなり才女風。一応名家のお嬢様として育っているし、社交もそつなくこなす。が、本当は学校の先生とか憧れていたんだろう、と思う。本当は女の子が憧れてくれるような格好良い先生になりたかったんだ、と、何かの折、言ってた気がするんだ。
僕が横にどいて、そこに二人が顔を覗かせる。
彼らは、自分の宗派の英才教育を受けているけど、他の宗派まで賄っていないのは分かっている。ひょっとしたら、一般教養としてメジャーどころの触りは勉強しているかもしれないが、ある程度、術が体だけじゃなく精神というか霊体にまで染み込まなければ、他の術式に触れるのはまずいんだそう。特化すればするほど術は完成し、僕に言わせれば色が定着し、強い術者となることができる。
そういうこともあって、特に才能がありそうな子は、他家の術式に触れないように育てられる。本家と分家でさえ、触れさせない、なんて家もあるぐらいだ。
彼らの年齢だと、まだ他家の術をマジマジと見る機会なんて、そうそう与えられていないだろう。何度か、実戦を経験したと言っていたから、近い流派の術をやっと見始めた、と言うレベル。
だから、どちらともまったく違う宗派である陰陽の術、なんてのは、少なくともホンモノを見るのは初めての経験なんだと思う。
彼らは、おっかなびっくり、符をのぞき込み、それに蓮華がちょっとした解説をしていた。
どうやら、先日の術式反発がかなりのトラウマ化しているようで、自分の霊力を極限に抑えた上で首だけを伸ばしているのは、ちょっと面白い。
「飛鳥、笑ってる場合じゃないぞ。まさかの陰陽式とはな。」
「頂法寺関係が結界張ってるかと思ってたんだけどね。」
「ああ。まぁ、なんだかんだ言っても、京は陰陽が幅をきかせてるから、そう不思議ではない。とはいえ、違和感だなぁ。」
「この術は、でも、放置、なんだよね?」
「まぁ、これいじったら、やぶ蛇もいいとこっしょ。だけど、気付いてるか?」
「ん。まぁ・・・」
淳平が言っているのは、もう一つ、の方だろう。
「下、だよな。」
「たぶん・・・」
辻のものと同じだ。
二重になってる。
今度は、あの上げ底になっている下、だろうな。
「飛鳥!」
僕と淳平が少し下がって、そんなやりとりをしていたら、二人への授業が終わったのか、蓮華が僕を手招きした。
「これを動かさないようにして、下をとりなさい。」
いや、とりなさい、って言われても・・・
上げ底部分がどういう仕組みになっているか分からない。
だからといって符を動かせば、霊石が動いて、術を消しかねない。
この符に力を注ぐくらいにならできても、こんな複雑なの、再構築なんて、僕には無理だ。
「符そのものが石なんだから、そおっと持ち上げて台をチェックするとかできるでしょう?」
「無茶言うなよ。僕が持って僕が調べるのか?そんな器用なこと出来るわけないだろ。」
「出来ないって言う前に、や・る・の!」
「まあまあ蓮華、さすがにそれは無茶ぶりだわ。」
淳平が蓮華をいなす。
「それより、ちょっと飛鳥、離れて。」
淳平が、シッシと言いながら僕を離れさせた。
「やっぱり。みんな、ここを見て。」
僕が離れると、淳平の指示の下、4人で箱の下を覗き始めた。
なんか説明されると、ゼンが下に潜り込んで、箱の底部分をライトで照らす。
漏れ聞こえる話からすると、僕が近くにいると、残り香みたいな僕の霊力を詳細に感じられなかったようだ。
が、どうやらそれは箱の底の方から漂っているらしく、その最も濃いところをゼンがライトで照らしたというところか。
「行けます!」
そう言って、なにやら底を触ろうとして、ゼンは蓮華にひっぱたかれる。
すみません、とか言いながら出てきて、彼は僕を呼んだ。
「飛鳥、ここを見て。」
言われて、ゼンが照らしている底を見た。
どうやらドライバーで開閉できるようで、しかも、何度も開け閉めしたような跡が見て取れる。
「開けてみて。」
僕が確認したのを見た蓮華は、そう言った。
僕?
「ここからあんたの霊力の跡が漏れてるの。他の人がやったら、何が反応するかわからないでしょ。」
確かにその通りなんだけど・・・
微妙に納得いきかねる、と思いつつ、箱の下に潜り込んでドライバーで底を開けた。
底は、ねじを外し、少し上に浮かせて小さくスライドさせるとがっつりと外れる簡単な物だった。
なんか重いな、と思って慎重に取り出すと、底の上に丸い箱、少し高さのあるシャーレみたいなの、がくっつけられていて、その中にジャラジャラと小粒の水晶、俗に浄化石なんて言われているタイプの石が入っている。
そして、その底の部分だが、同じだ。
底にこのシャーレを中心とした魔法陣が描かれていて、あきらかに辻で発見された4枚と対をなしている。
「集積用の魔法陣か。」
「水晶にチャージしてた、ってこと?」
遠巻きにしている淳平と蓮華がそんな風に言った。
「これどうする?一体化してるけど。」
「放置するのもなぁ・・・」
「回収してくるところを、って方法もあるけど?」
「誰が張るんだよ。」
蓮華が、少し離れているゼンたちを見る。
「いや無理だろ。経験不足だ。」
淳平が即決する。
「僕が・・・」
正直、学校へ行って大勢の目にさらされるより、こっちの方が幾分楽だ。
「却下。あんたはやることあるでしょ。」
学内の魔法陣の排除と犯人捜し、だろ?分かってるよ。
「もういいわ、飛鳥、底ごとコレに入れて。」
封印用の袋を投げて寄こす。
コレに入れると、呪術干渉はない。
ていうか、これ底がないまま放置?
「だな。結界にそいつはむしろ邪魔だし、なくなって焦ってくれれば万々歳ってか?」
淳平も蓮華に賛成らしい。
仕方がない。リーダーは二人の方だ。現場の指揮は、ザー・チャイルド優先。そもそもゼンやノリに決定権はない。
ザ・チャイルド内では一応平等ということだけど、そもそもこの二人と平等なわけはなく・・・仮に平等だとしても、2人が賛成の段階で多数決で決定みたいなもんだ。
僕は、黙って渡された袋に魔法陣の描かれた底を水晶ともども丁寧に入れて、封印処理を施した。
僕から、底を受け取った蓮華。これから都の事務局へ向かうという。真夜中にご苦労なことだ。なんだかんだで、仕事を持ち越さない。彼女の利点であり、付き合わされる身としては、面倒なところ。
蓮華は、解散、を言い渡し姿を消した。
そうして、僕や他の面々は、寮へと帰ることにした。
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